人 物
浅田渚 (16)高校1年生
山下知花(16)渚のクラスメート
村上弥生(16)渚のクラスメート
土屋大輔(16)(声のみ)弥生のボーイフレンド
○葉山南高校・正門
門柱に『葉山南高等学校』のプレート。
○同・1年2組教室・外
扉が開き、教師が出ていく。
教室のざわついた音が漏れてくる。
○同・教室・中
席に着いている山下知花(16)。
知花の前の席に座る村上弥生(16)が、後ろの席の知花に一方的に話し掛けている。
弥生「だからね、言ってやったの。あんた、誰に向かって言ってんのって。きゃはは」
弥生の下品な笑い声が教室内に響く。
知花、上の空で髪を無意識に触る。
弥生「ちょっと知花。私の話聞いてる?」
知花「えっ?あ、あぁ、聞いてるよ」
弥生「知花、最近なんか冷たいんじゃない?」
知花「は?そんなことないでしょ」
弥生「そう。ならまぁ、いいんだけどさぁ。あぁ、なんかムシャクシャする」
弥生、振り返り、前の席に座る浅田渚(16)に向かって高圧的に話し掛ける。
弥生「渚ぁ」
渚、お弁当を食べる手を止める。
弥生「いつものパン、買ってきてくんない?」
渚「え?でも、お金いつも私が立て替えてるよね。まだそれも払って貰ってないし……」
弥生「うん、だからいつも通り、今回もツケでよろしく。アンダースタン?お返事は?」
知花、弥生と渚のやり取りを見ている。
弥生「ほら渚。ハリー、ハリーアップ」
渚、深く溜息をついて立ち上がる。
弥生「あっ、知花も一緒に何か頼んだら?」
知花「えっ?あぁ、そうねぇ。今日は売ってるの見て決めたい気分だし、私も買いに行くよ。ついでに渚がバックれないようにしっかり監視しとく」
弥生「あっそ。サンキュー。じゃ、よろしく」
渚と知花、一緒に教室を出ていく。
2人を見送る弥生。
弥生「なんかムカつくんだよね、知花」
○同・渡り廊下
渚と知花が並んで歩いている。
知花「渚、ちょっといい?」
知花、渚の腕を掴み、渡り廊下をはずれて校舎の死角に渚を連れ込む。
知花「(渚に顔を近付け)私と組まない?」
渚「えっ?」
知花「弥生がさぁ。いい加減うざくってさ」
渚、知花の提案に警戒の表情。
知花「渚もさぁ、こんなパシリとかさせられて、何とかしたいって思ってるでしょ?」
渚「それは、思ってるけど……、でも」
両手を制服のポケットに入れている渚。知花、笑顔で渚の両肩をつかむ。
知花「ひっくり返さない?」
知花、スマホを取出す。渚の耳元に近付け、画面操作しファイルを再生する。
弥生の声「最近、ちょっと知花が反抗的なんだよねぇ。だからさぁ、ちょっと懲らしめちゃおっかなぁとか思うんだ
けど、どう思う?大輔、ねぇ大輔ぇ、聞いてる?」
大輔の声「(笑って)おぉー、怖い怖い。女って本当、怖いよなぁ。知花ちゃん可哀そう」
知花、ファイル再生を停止する。
渚「これ、どうしたの?まさか盗聴とか?」
知花「しないって。詳しくは言えないけど、人伝てで私のとこに来たの」
ポケットに手を入れたまま考え込む渚。
知花「渚だって楽しい学校生活送りたいでしょ?私と組めばチャンスなんだって。作戦も練ってあるしさ。弥生みたいなバカ女がのさばってたらダメなんだって。分かるでしょ?」
知花、渚に近付き耳元で作戦を伝える。
○同・1年2組教室・中
渚、自席に座りお弁当を食べている。
知花と弥生、2人でパンを食べている。
× × ×
体操服に着替えた女生徒達が教室を出ていく。
○同・廊下
体操服姿の知花と弥生が並んで歩く。
その後ろに渚も一人で歩いている。
弥生「ごめん、知花。やっぱ私、体育パス。大輔とバックれちゃうわ。きゃはは」
弥生、一人で走って行く。
後ろを振り返る知花。渚に目配せする。
渚、頷いて教室に戻っていく。
○同・1年2組教室・外
終業のチャイムが鳴る。
○同・教室・中
帰り支度をする生徒達。
知花がカバンを覗き込み大声を上げる。
知花「なんで?私のお財布がない」
生徒達が一斉に知花の方を向く。
前の席に座る弥生、知花に向かって、
弥生「それって泥棒じゃん。ひどくない?」
知花「誰なのよ。私の財布盗んだの」
弥生「一体誰なの?あーあ、知花が可哀そう」
ニヤつく弥生。楽しそうに犯人捜し。
渚、カバンを持って席を立つ。
弥生「知花がこんなになってるのに帰ろうとしてさぁ。渚、なんか怪しいんですけど」
弥生が渚のカバンを引ったくり、中を見ようとする。渚は抵抗してもみ合う。
弥生「本当はあんたが犯人なんでしょ?」
渚「やめて」
もみ合った拍子に渚が弥生の机を倒す。
倒れた机から勢いよく中身が散乱する。
知花「あっ、これ」
知花、散乱する床から財布を拾い上げる。
弥生「えっ?何これ。知らないんですけど」
知花「弥生、まさか弥生が私の財布を?」
弥生「知らないって、てか、そんな訳ないし」
知花「だけど。じゃあ何で弥生の机から?」
弥生、渚を見る。
閃いたような表情をして知花に訴える。
弥生「分かった。渚だよ。やっぱり渚が犯人なんだよ。盗んだ財布を私の机に入れておいてさぁ、ワザと中身をブチまけて、知花に見つけさせようとしたんだよ」
渚「そんな。何言ってんの?やめて」
弥生「知花、渚だよ。間違いないって」
知花「そうなの?渚」
知花、渚を見る。渚、見つめ返す。
弥生「私と渚、どっちを信じるのよ」
強い口調で訴える弥生。
渚、知花と弥生を交互に見て、大きく深呼吸をする。
制服のポケットからスマホを取り出す。画面操作してファイルを最大の音量で再生する。
弥生の声「最近、ちょっと知花が反抗的なんだよねぇ。だからさぁ、ちょっと懲らしめちゃおっかなぁとか思うんだけど、どう思う?大輔、ねぇ大輔ぇ、聞いてる?」
大輔の声「(笑って)おぉー、怖い怖い。女って本当、怖いよなぁ。知花ちゃん可哀そう」
弥生の表情が強張る。
渚、ファイル再生を停止する。
渚「私じゃない。私は山下さんの財布を盗んだりしない」
知花、弥生を睨みつける。
知花「何これ。どういうことよ、弥生」
弥生「知らない。何これ、何なのよ」
狼狽する弥生。教室がざわめく。
○同・下駄箱前(夕)
渚と知花が並んでやってくる。
渚「嘘みたい。成功しちゃったね」
知花「そうだね。無事完了ってところかな」
渚「私達、明日から生活が変わるのかなぁ」
知花「さぁ、どうだろうね」
渚「えっ?」
渚、知花を見つめる。
知花、ポケットからスマホを取り出し、
動画を再生する。渚に見せつける。
動画には、渚が知花の財布を盗み出し、弥生の机に入れるシーンが映っている。
渚「えっ?これって、まさか」
知花「そういうこと。女同士の友情なんて危ういでしょ?だから保険かけておくの。悪気はないんだけどさ。まぁ、そんな訳だから渚と私の関係はそんなに変わらないかも。だって急に仲良しになったら、それこそ可笑しいでしょ?」
渚、俯く。苦笑いしながら顔を上げる。
渚「なんだ、山下さんとは仲良しになれるかなって期待してたのに。残念」
知花、訝し気に渚を見つめる。
渚、制服のポケットからスマホを取り出す。画面操作してファイルを再生する。
知花の声「「渚だって楽しい学校生活送りたいでしょ?私と組めばチャンスなんだって。作戦も練ってあるしさ。弥生みたいなバカ女がのさばってたらダメなんだって。分かるでしょ?」
渚、ファイル再生を停止する。
渚「私もね保険はかけておくの。いじめられっ子ってさ、そんなに簡単に他人のこと信用出来ないから、ゴメンね。そもそも村上さんと土屋君の音声だって私が録音して、山下さんに伝わるように仕組んだものだし」
知花、唖然とした表情。
渚「私は最悪、今まで通りのいじめられっ子だけど、山下さんはこれがバレちゃうと、ちょっとキツいよね。あーあ、山下さんってもっと賢い女子だと思ってたのに、残念。それと……、仲良しになれそうだったのに」
渚、上目遣いの笑顔で知花を見つめる。
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