【主な登場人物】
・青木忠仁(29) イラストレーター。未だ中二病を拗らせている
・星峰聖来(29) シングルマザー。忠仁の中学時代の同級生
・星峰彪牙(14) 聖来の息子。現役中二病
・島崎達生(23) 絵師。忠仁の後輩
・椎名和男(48) 忠仁の働く事務所の社長
・藤城 肇(30) 人気漫画家
・青木博子(57) 忠仁の母
・江田 絵師1
・下林 絵師2
【本編】
1 宮下中学校・教室(15年前)
授業中。
眼には眼帯、腕には包帯を身にまとった中学生・青木忠仁(14)、無我夢中で何かノートに書き殴っている。
ノートの左側にはキャラクターの絵。
右側にはそのキャラの性格や生い立ち、必殺技などのステータスがびっしりと。
忠仁、もう1冊のノートを取り出し、 描き始める。
描きかけの漫画だ。
真剣な眼差しで描き続ける忠仁。
2 椎名デザイン事務所・デスク(現在)
キャラクターの絵を描いている青木忠仁(29)。
島崎達生(23)、忠仁の方にやってくる。
島崎「あの、師匠」
忠仁「どうした?」
島崎「この絵見てもらってもいいですか?」
忠仁「ああ」
島崎、絵の描かれた紙を渡す。
忠仁「(見て)……パースがなってない」
島崎「え?」
忠仁「パースの勉強は一通りしたんだろうが、まだまだ弱い。俺の絵見てみろ。ほら、全然違うだろ(と、自分の絵を見せて)」
島崎「(見て)はい……」
忠仁「遠近法は絵にとって命と言っていい。一つ崩れれば違和感が残り、どんなに上手く描いても下手くそに見えてしまう」
島崎「はい……」
忠仁「キャラクターを魅力的に描くことも大事だが、まずはパースを完璧にな」
島崎「なるほど……勉強になります!」
忠仁「ああ」
島崎、自分の席に戻る。
忠仁、ドヤ顔が隠しきれず、ニヤニヤしている。
社長室から椎名和男(48)が出てきて。
椎名「青木」
忠仁「はい」
椎名「ちょっと(と、手招き)」
忠仁、立ち上がる。
3 同・社長室
デスクに座る椎名と、前に立つ忠仁。
椎名「お前、漫画家の藤城肇先生は知ってるよな?」
忠仁「はい……あ、いや……まあ、はい。名前ぐらいは」
椎名「その藤城先生がな、今連載中の『スマイリースマッシュ』の単行本の表紙のデザインをうちに依頼してきたんだよ」
忠仁「……えっ?」
椎名「もちろん、イラスト自体は先生が描くんだが、先生の希望で、全体のデザインはウチに任せたいそうだ」
忠仁「……」
椎名「お前、昔漫画家目指してたろ。今まで雑用ばっかさせてきたけど、そろそろお前にもちゃんとした仕事を任せてもいいんじゃないかと思ってな」
椎名、『スマイリースマッシュ』の単行本を机に置き、
椎名「よろしく頼むよ」
忠仁「あっ……ありがとうございます……」
4 同・デスク
戻ってきた忠仁。
島崎をはじめ、江田、下林など若手絵師たちが待ち構えている。
島崎「聞きましたよ。『スマスマ』の表紙、任されたんですよね?」
忠仁「ああ……そうだけど」
島崎「すごいじゃないですか! 『スマスマ』ってだって、あの『スマスマ』ですよ?」
忠仁「まあ……当然の結果だろ」
島崎「うわ〜、こういうこと言っちゃうんだもんな〜。マジでカッケェ! 憧れるぅ〜。ねえ?(と、振り返り、他の絵師たちに)」
江田「いや〜、ホントすごいっす。ガチで天才っす」
下林「青木さん、マジで世界獲れるんじゃないスか?」
忠仁「……大げさだよ」
島崎「(手を叩き)あ・お・き! あ・お・き!(と、コールを始める)」
他の絵師たちもコールし始める。
忠仁「おい、いいって、そういうの……何だよ」
忠仁、密かに拳を強く握っている。
島崎の声「え、知らないんスか?」
5 居酒屋(夜)
島崎ら絵師たちと飲んでいる忠仁。
忠仁「ああ。見たことも聞いたこともないね」
島崎「いやいやいやっ……『スマスマ』って言ったら……ねえ? もう日本国民全員が知ってると言っても──」
忠仁「そういうミーハーなものに興味がないんだよ。大衆にウケるような作品は、大衆にウケることしか考えてない。展開もキャラクターもベタだし、メッセージも浅い。何が『明るくポップな青春アドベンチャー』だよ」
島崎「……読んでないんですよね?」
忠仁「……読んでないよ? ……こういうのは表紙から勝手に滲み出てくるもんなんだよ」
島崎「はぁ……勉強になります……」
忠仁「あー、面倒くせ。ま、仕事だし。仕方ねーからやってやるけどな」
絵師たち、忠仁のもとへ寄ってきて。
江田「青木さん、今度の土日空いてますか?」
忠仁「え?」
下林「今度みんなでフェス行こうってことになったんですよ。青木さんも行きません?」
忠仁「(フッと笑って)俺はパス」
下林「えっ……」
忠仁「どうせ女子ウケ狙ったしょうもないアーティストしか出ないんだろ? 俺はピーター・フランプトンとか、そういうニッチな音楽しか聞かないんだよ。あ、知らないか。ピーター・フランプトン(笑)」
江田「……っす……」
空気、凍っている。
6 人気のない路上
軽くスキップを交えながら帰宅する忠仁。
7 青木家・玄関〜階段
入ってくる忠仁。
忠仁「ただいま」
母・青木博子(57)、出迎えて。
博子「おかえり〜」
忠仁、スタスタと階段に向かう。
博子「ご飯は?」
忠仁「食べた」
忠仁、歩みを止め、
忠仁「……あ、そういや、あの……どうでもいいんだけどさ、俺、『スマスマ』の表紙やることになったから」
博子「え? 『スマスマ』ってあの『スマスマ』? えー! すごいじゃなーい!」
忠仁「まあ、どうでもいいんだけど」
忠仁、階段を上がる。
8 同・忠仁の部屋
忠仁、入ってくる。
部屋は漫画本が並んだ本棚で埋め尽くされている。
『スマスマ』も並んでいる。
机に向かい、早速描き始める忠仁。
9 椎名デザイン事務所・社長室(日替わり)
忠仁の描いた表紙デザインを見ている椎名。
椎名「……なんだこれ?」
忠仁「表紙です」
キャラクターの後ろには黒々とした背景。
そこに大きなドクロと、龍のようなものが細かく配置されている。
椎名「……『スマスマ』についてるキャッチコピーは何だ? 言ってみろ」
忠仁「……明るくポップな青春アドベンチャー」
椎名「……うん。その上で……これは何だ?」
忠仁「表紙です」
椎名「そんなこと分かってんだよ!」
忠仁「(ビクッとし)……!」
椎名「おいおいおいおい、何だ? これは。『スマスマ』にはドクロが出てくんのか? 龍が出てくんのか?」
忠仁「出てきません」
椎名「そうだよな」
忠仁「……でも、こっちの方がセンスありません?」
椎名「(ため息ついて)あのな、センスとかそういう問題じゃないんだよ。イラストレーターの仕事は創作じゃない。クライアントの意向が第一なんだよ。やり直し」
椎名、忠仁の表紙を突っ返す。
不服そうな忠仁。
10 青木家・忠仁の部屋(日替わり)
机に向かって描いている忠仁。
後ろのドアが開き博子が入ってくる。
忠仁「(驚き、振り返り)ノックしろよ」
博子「休みの日くらい友達と遊んだら〜?」
忠仁、再び机に向かって。
忠仁「俺が友達も彼女もいないことぐらい知ってんだろ」
博子「……休みの日くらい友達とか彼女作ったら〜?」
忠仁「もういいから出てけって」
博子「……(ため息)はいはい」
と、そこへ、インターホンが鳴る。
博子「……? はーい」
11 同・玄関
博子、ドアを開ける。
立っていたのは、星峰聖来(29)。
その後ろには男子中学生(星峰彪牙・ 14)。
聖来、一礼。
博子「あら〜、聖来ちゃん。……あ、ちょっと待ってて」
博子、階段を登っていく。
聖来「……」
忠仁、博子に引っ張り出される。
忠仁「何だよ」
博子「ほら、見て。聖来ちゃん来たよ」
忠仁「え?」
聖来「あ……あの、覚えてる? 星峰聖来です」
忠仁「……? ……あ。あーっ! (駆け寄り)覚えてるぞ。コイツ、中学の時、俺の漫画を散々バカにしてきやがったんだ。俺のこと中二病、中二病って」
博子「ちょっと」
忠仁「(近づいて)何だよ? またバカにしにきたのか? あ?」
聖来「(首を振り)ううん。……謝りに来た」
忠仁「……え?」
聖来「……ごめんなさい」
忠仁「……」
博子「(手で丸印を作り)おっけ〜」
忠仁「おい」
博子「いやあ、この前たまたまスーパーで会ってね、忠仁のこと気にしてて、ずっと謝りたかったんだって」
聖来「……」
忠仁「知るかよ、そんなもん。俺は許さないぞ。嫌な思い出ってのはな、この先もずっと残り続けるんだ。こんなんでチャラにされてたまるかよ」
聖来「許してもらおうとは思ってない。でも、どうしても言わなきゃいけないと思って来た。……もう来ないから」
忠仁「当然だ。二度と来るな」
博子「ちょっともう、仲良くしてよ〜」
忠仁、後ろの彪牙に目が入り、
忠仁「……その子は? お前の弟か?」
聖来「え? ああー……」
博子「息子よ」
忠仁「え?」
博子「この子ね、中学卒業と同時に妊娠して、それからずっと一人で育ててきたんだって。この子もこの子で苦労してるのよ」
聖来「いや、あの、お母さん、もういいですから……」
忠仁「……知らん!」
忠仁、階段を登っていく。
博子「ごめんね〜……」
聖来「いえ……」
博子「……私も、あなたのこと完全に許したわけじゃない。でも、あの子にもそろそろ、友達とかそういう、人と人との触れ合い?みたいなことができればいいなって」
聖来「……」
12 同・忠仁の部屋
戻ってきてすぐに、血走った目で机に向かう忠仁。
博子の声「あの子の漫画をバカにしてきたのはあなただけじゃなく、無数にいたから。なんかもうね、誰も信用してないって感じなのよ、ホント」
忠仁「……」
13 椎名デザイン事務所・社長室(日替わり)
忠仁の描いた表紙デザインを見ている 椎名。
キャラクターの後ろには紫がかった背景。
毒々しい蛇が大きく描かれている。
椎名「……俺の言ったこと忘れちゃったのか?」
忠仁「やっぱり納得できなくて」
椎名「いい加減にしろよ。いい大人が仕事の一つもまともにできなくてどうすんだよ」
忠仁「……」
椎名、忠仁の表紙を突っ返す。
椎名「やり直し。前の巻と同じデザインで。余計な真似はしない。分かったか。次はないからな」
忠仁「はい……」
14 居酒屋(夜)
島崎と飲んでいる忠仁。
忠仁「なんなんだよアレ! 人のことおちょくりやがって!」
島崎「や〜、キビイっすね」
忠仁「ああいう奴がいるから、才能ある奴らがどんどん潰されてってんだよな」
島崎「でも、椎名さんも昔は結構尖ってたらしいっすよ」
忠仁「え?」
島崎「いや、この前、椎名さんの知り合いから聞いたんスけど、椎名さん、若い頃はガンガンクライアントの意向無視して、上司に刃向かってたらしいんですよ」
忠仁「そうなの?」
島崎「でも、だんだんそれじゃやってけなくなって、徐々に今の感じに」
忠仁「……」
島崎「こういうの聞くと、なんかやんなっちゃいますよね〜。夢のない職業ですよ、ホント」
忠仁「……」
15 書店(日替わり)
漫画コーナーを見ている忠仁。
『スマスマ』が目に入る。
ゆっくり近づき、8巻を手に取る。
キャラクターを前面に出した、シンプルでポップなデザイン。
忠仁「(見て)……」
忠仁、小さく首を振り、棚に戻す。
16 道〜公園
帰り道、歩いている忠仁。
ふと公園を見ると、彪牙が同級生の男子たちに袋叩きにされている。
忠仁「(中に入って)おい」
男子ら、忠仁を見る。
忠仁「随分とダセえ真似してんじゃねえか」
男子1「誰だお前?」
忠仁「(フッと笑って)俺が誰かって? 俺はな……」
男子1、忠仁を殴る。
忠仁「痛ってぇ!」
忠仁、その場に倒れ、男子たちに袋叩きにされる。
忠仁「痛い痛い痛い痛い! 反則だろ、反則! ちょっ……やめろ! ストップ! 一旦ストップ!」
× × ×
ボロボロの忠仁。
男子ら、走り去っていく。
忠仁、ヨロヨロと立ち上がり、
忠仁「次はないからな! くっそ……イテテ……。(彪牙に)おい、大丈夫か?」
彪牙「……ダッサ。カッコ悪」
忠仁「はぁ? おいおい、そりゃねーだろ。助けてやったのに。……あっ」
彪牙、走り去っていく。
忠仁「何だよ……」
忠仁、置き去りにされた彪牙の鞄に気づく。
向こうを見るが、もう彪牙はいない。
ポケットからこぼれた生徒手帳を拾う。
忠仁「……」
17 星峰家・玄関
インターホンが鳴る。
聖来、出てきて、ドアを開ける。
聖来「はーい……」
立っていたのは、鞄を持った忠仁。
目を合わせようとしない。
聖来「……」
忠仁、聖来に鞄を渡す。
聖来「……ん? ……あ、彪牙の?」
忠仁「……ああ」
聖来「……ありがと」
忠仁「……それだけ」
忠仁、行こうとするが、戻って。
聖来「……ん?」
忠仁「いや……俺が言うことじゃないと思うんだけどさ……お前の息子って、その……」
と、ボロボロの鞄を見ながら話す。
聖来、それに気付き、鞄を見て。
聖来「……やっぱり? いじめられてた?」
忠仁「あ、いや、いじめられてたっていうか、その……」
聖来「ちょっと待ってて」
聖来、家の中へ。
聖来の声「あんた、やっぱり学校でいじめられてるんでしょ」
彪牙の声「は? ……ちげーし!」
聖来の声「お母さん、学校に電話するから」
彪牙の声「やめろ! 言ったら殺す!」
聖来の声「彪牙!」
忠仁「……」
聖来、戻ってくる。
聖来「ごめんね」
忠仁「……母親に何とかしてもらうのが嫌なんじゃないのか?」
聖来「えっ?」
忠仁「子供は親に心配されんのが恥ずかしいから、自分一人で抱え込んじゃうもんなんだよ。俺も昔はそうだったから」
聖来「……私のせいかもしれない」
忠仁「え?」
聖来「ほら、私だけ他のお母さんに比べて若いし、父親もいないから。子供は周りと違う人やものを笑ったり、攻撃したりしがちでしょ。……私もそうだったけど」
忠仁「……」
18 椎名デザイン事務所・デスク(日替わり)
白紙が1枚机に置いてある。
机の前で頭を抱えている忠仁。
島崎ら絵師たちの話し声が聞こえる。
江田の声「昨日お前、めっちゃはしゃいでたよな」
島崎の声「ちょっと、やめてくださいよ〜」
一同の笑い声。
忠仁、え、となり、島崎を呼び止める。
忠仁「おい、おい」
島崎「はい?」
忠仁「昨日って?」
島崎「あー……昨日皆でカラオケ行ってて」
忠仁「誘われてないけど」
島崎「あー……師匠、JPOPとか興味ないじゃないですか。無理に誘っても、困らせちゃうかなと思って」
忠仁「……そうだな。うん。誘われても、断ってたな」
島崎「ですよね(と、作り笑いし)……じゃ」
島崎、絵師たちの輪に戻る。
忠仁「……」
忠仁、再び机に向かう。
藤城の声「お久しぶりです〜。懐かしいですね〜」
忠仁、振り返ると、椎名とともに藤城肇(29)が歩いてきていた。
椎名「はい、みんな、注目」
一同、椎名の方を見る。
椎名「こちら、漫画家の藤城肇先生だ」
一同、ざわつく。
藤城「どうも〜」
島崎、真っ先に声をあげ、
島崎「えっ……ウッソ、本物!?」
藤城「(笑って)本物です」
島崎「ま、マジすか!? え、サインください!」
江田「俺も俺も!」
島崎ら絵師たち、藤城のもとへ駆け寄る。
藤城「お〜……スゴい、ありがとうございます」
忠仁「……(気に入らない)」
椎名「藤城は大学時代、ここでバイトしててな。そこからの付き合いなんだよ」
島崎「へえ〜」
藤城「……あの、担当の方はどちらに?」
椎名「ああ、あそこにいる」
椎名、忠仁の方を指差す。
藤城、忠仁のもとへ。
藤城「どうも、藤城と申します〜」
忠仁「(不機嫌そうに)どうも」
藤城「『スマスマ』9巻の表紙を担当してくださる青木さんですよね。何卒よろしくお願いします。あ、どうぞ」
藤城、忠仁に名刺を渡す。
忠仁「(見て)……」
藤城「仕事場の住所も書いてありますので、ぜひいつでも遊びにいらしてください」
忠仁「(遮り)随分と楽しそうですね」
藤城「え?」
忠仁「目がキラキラしてますよ」
藤城「そうですかね」
忠仁「漫画家になって、チヤホヤされて、女にもモテて、挫折ってものを知らないでしょ。だからあんな薄っぺらい話が描けるんですね」
島崎「ちょっ……青木さん」
藤城「確かに。そうかもしれませんね」
忠仁「……えっ?」
藤城「(微笑んで)よろしくお願いしますね」
忠仁「……」
19 青木家・忠仁の部屋(夜)
机に向かっている忠仁。
頭を抱えている。
時計の音だけが響く。
20 椎名デザイン事務所・社長室(日替わり)
忠仁の描いた表紙デザインを見ている 椎名。
椎名「……もういいよ」
椎名、表紙を突っ返す。
白背景に、血痕がついたデザイン。
忠仁「……えっ」
椎名「お前もう、担当から外れろ」
忠仁「……」
椎名「こっから先は他の絵師が担当する。お前は雑用に戻れ」
椎名、席を立つ。
忠仁「……いや……ちょっと待ってくださいよ。これは、俺の仕事ですよね?」
椎名「たった今お前の仕事じゃなくなった」
忠仁「いや……」
椎名「言われたこともできない奴に、仕事を任せられるわけないだろ」
忠仁「……」
椎名「じゃあ、そういうことだから」
椎名、行こうとするが、
忠仁「……言われたことしかできない人よりマシでしょ?」
椎名「……はぁ?」
忠仁「何ですか。前の巻の表紙の真似事って。それが立派な仕事なんですか?」
椎名「おい」
忠仁「聞きましたよ。椎名さん、昔はよく上司に意見ぶつけたりして、自分のプライド貫いてたそうじゃないですか」
椎名「……」
忠仁「でも結局、潰されたから。今度は部下に同じことしてストレス発散ですか。マジで最低ですね」
椎名「……」
忠仁「自分らしく絵描けると思ったからこの会社入ったのに。こんなとこだと思わなかった。『スマスマ』とかどうでもいいし。マジやってらんねえ〜」
椎名「そう思うんならとっとと辞めろ」
忠仁「……」
椎名「イラストレーターになりたくてもなれない奴だっていんのに。この程度で挫折する奴、ウチにはいらねえよ。お前にこの仕事は向いてない。……出てってくれ」
忠仁「……」
椎名「出てけよ!」
忠仁「……」
忠仁、出ていく。
21 同・デスク
戻ってきた忠仁。
集まっている後輩絵師たちの話が聞こえてくる。
江田「アイツも雑用のくせに何をイキってんだって話だよな」
下林「元ヒキニートのくせに」
江田「それだ。椎名さんに気に入られたかなんか知んないけど、要はただの社会不適合者だからな」
島崎「(合わせて笑って)はは……。(忠仁に気付き)……あっ」
忠仁「……」
忠仁、引き返す。
島崎「……」
22 青木家・玄関(夜)
忠仁、無言で帰宅。
博子、出てきて、
博子「おかえり〜」
忠仁、無視して2階に上がる。
博子「……?」
23 同・忠仁の部屋
入ってくる忠仁。
漫画棚を見つめる。
『スマスマ』1〜8巻を手に取り、床に投げ捨てる。
と、そのまま棚の漫画を全てぶちまけてしまう。
忠仁「……」
24 漫画出版社・会議室(回想・2年前)
忠仁(27)と編集、向き合う。
編集、忠仁の原稿を読んでいる。
編集「……(ため息)こういうのは小劇場演劇とかでやってくれるかな」
忠仁「……はい……?」
編集「読者に分からせようっていう配慮が全く感じられないんだよね。読んでて頭痛くなってくる」
忠仁「……」
編集「大体、なんでヒロイン殺しちゃうかな」
忠仁「いや……その方がカタルシスが――」
編集「何でもかんでも殺しゃあいいってもんじゃないでしょ」
忠仁「……」
編集「君のやってることはね、一周回ってありふれてんの。何度も見てきたよ。無個性が個性気取って支離滅裂になってる駄作」
忠仁「……」
編集「ま、この年齢で気づけてまだラッキーな方だよ。たまにいるんだよね、才能ないのに突っ走って人生破滅する奴。あ、別に意地悪で言ってんじゃないよ。俺は、君の人生のために言ってんだから。ね」
忠仁「……」
25 公園(回想)
ベンチに座っている忠仁。
封筒から原稿を取り出す。
落胆の表情で読んでいく。
原稿に涙が落ちる。
その時、突風が吹き、原稿が飛んでいく。
忠仁、ため息をつき、拾い始める。
26 道(回想)
歩いている椎名。
忠仁の原稿が飛んできて、拾う。
椎名「(見て)……」
27 公園(回想)
原稿を拾っている忠仁。
前に椎名が現れ、原稿を渡す。
忠仁「あ……」
椎名「悪くない絵だな」
忠仁「……」
28 椎名デザイン事務所・デスク(回想戻り・日替わり)
椎名「……」
空席のデスク。
椎名と島崎、それを見ている。
島崎「もう3日も来てませんよ。そろそろ連絡したほうがいいんじゃないですか?」
椎名「……いいよ。放っとけ。どのみちクビだよ、あんなやつ」
島崎「……」
29 青木家・忠仁の部屋(夜)
散らばった漫画本でぐちゃぐちゃの部屋。
ドアの前で体育座りしている忠仁。
30 同・前
博子、階段を上がってきて、ドアの前に食事を置く。
そのまま行こうとするが、
忠仁の声「ごめんな」
博子「……」
忠仁の声「また元に戻っちゃったな」
31 同・忠仁の部屋
体育座りしながら話す忠仁。
以下、前シーンと随時カットバック。
忠仁「今になってなんとなく分かってきたよ。俺は読者のために漫画を描いてたんじゃない。俺は俺をバカにしてきた奴らを見返すために漫画を描いてた。そんな奴の描く漫画なんて、売れるわけがない。漫画家になれなくて当然だった」
博子「……」
忠仁「すぐにまた、適当に仕事見つけるから。……心配しなくていいから」
博子「……」
博子、階段を降りていく。
忠仁「……」
忠仁のスマホに着信が鳴る。
聖来からだ。
忠仁「……」
32 星峰家・キッチン(日替わり)
睨む彪牙。
忠仁「……何だよ」
フライパンで焼きそばを作っている忠仁。
隣に彪牙が立っている。
彪牙「おいザコ。俺と勝負しろ」
忠仁「やんねえよ。今料理中だから」
彪牙「できねえのか? ザコだな。意気地なしめ」
忠仁「うるせーな。焼きそばぶっかけんぞ、この野郎」
彪牙「やれるもんならやってみろや」
忠仁「……やんねえよ!」
33 同・リビング
焼きそばを啜っている彪牙。
34 同・寝室
額に冷えピタを貼って寝ている聖来。
忠仁、入ってきて、切ったリンゴを置く。
聖来「ああ……ありがとう」
忠仁「熱、引いたか?」
聖来「うん……まだちょっと。……ごめんね。せっかくの休みに、こんな」
忠仁「……いいよ。どうせ暇だし」
聖来「でも今『スマスマ』の表紙やってて忙しいんでしょ? お母さんから聞いたよ」
忠仁「(舌打ち)……パーになったよ、とっくに。おふくろの奴、何でもかんでも言いふらしやがって」
聖来「……そっか」
忠仁「お前こそ、大変だろ。あんな生意気なガキの世話」
聖来「……大変じゃないよ。あんな生意気なガキでも、一応私の息子だし」
忠仁「でも、こんなん一人じゃ回んないだろ。親に手伝ってもらったりしてないのかよ」
聖来「……昔はね。お父さん死んじゃったし、お母さんボケちゃったしで、今は一人」
忠仁「……」
聖来「……いじめの件、学校に電話したんだけどね。向こうは『知らない』の一点張りで、私もだんだんヒートアップしちゃって。……こっちが言いがかりつけてるみたいな言い方されちゃった」
忠仁「それは……」
聖来「私も時々……自分に特別な力があればなって思う時あるよ。青木くんが描いてた漫画みたいに。彪牙が生まれてからずっと、やりたいこと我慢してきたから」
忠仁「……後悔してるのか?」
聖来「時々ね。……でも、彪牙の顔見てたら、大抵吹っ飛ぶ」
忠仁「……」
聖来「彪牙と過ごしてみて、どう?」
忠仁「ああ……ありゃあ結構な中二病だな。昔の俺見てるみたいだ」
聖来「そう」
忠仁「ああ」
聖来「……私も」
忠仁「えっ?」
聖来「私も。ずっと前から中二病だったんだなって……今になって思うんだ。一人で何でもできると思い込んでたし。息子の名前、『彪牙』とか付けちゃうし。自分が世界の中心なんだって、勝手に一人で舞い上がってた」
忠仁「……」
聖来、扉の向こうの彪牙を見ながら。
聖来「本当は中二病自体、特別なものなんかじゃないのかもね」
忠仁「……」
35 藤城邸・仕事部屋(日替わり)
テーブルにて、大量のアシスタントが背景を描いている。
その中央で藤城が原稿を書いている。
そこへ、チャイムの音。
アシ「あ、僕、出ましょうか?」
藤城「いいよいいよ。俺出るよ」
藤城、立ち上がる。
36 同・玄関
ドアを開ける藤城。
忠仁が立っている。
忠仁と藤城、互いに一礼。
37 同・リビング
忠仁と藤城、向き合う。
忠仁「すみません、お忙しいところ」
藤城「いえいえ。今日は随分とかしこまってるんですね」
忠仁「……(苦笑し)」
藤城「表紙の方、今どうなってますか?」
忠仁「ああ……表紙の方は担当が変わって、今は別の人間が」
藤城「えっ?」
忠仁「聞いてないんですか?」
藤城「ええ。担当を変えるつもりはないと椎名さんから聞いていたので」
忠仁「……そうですか」
藤城「あの……今日はどうして?」
忠仁「ああ……あの、一つ個人的にお伺いしたいことがありまして」
藤城「はい」
忠仁「表紙のデザインをわざわざウチに依頼したのはなぜですか?」
藤城「えっ?」
忠仁「だって、今までは別の会社で、先生がイラストを考えてたんですよね? それを急に変えて、しかも全体のデザインも任せるって。何か事情があったのかと」
藤城「ああ……僕が考えてると言っても、キャラのイラストを描いていただけで、デザイン自体はほぼほぼ会社の方で決められてましたよ。今の形式と同じです」
忠仁「そうなんですか」
藤城「はい。キャラを大きく見せて、シンプルに。余計なことはしない」
忠仁「……」
藤城「表紙は作品の顔です。もちろん、その方が売れるのは分かってます。でも……ホントにこれでいいのかなって」
忠仁「……」
藤城「ワガママですけど……自分の求めているものと違うなと思ったんです。それで、無理言って、自分の信頼できる事務所にお任せしようと」
忠仁「……初耳でした」
藤城「そもそも、『スマスマ』だって自分のやりたいジャンルの話じゃないですしね」
忠仁「……えっ?」
藤城「本当はガンガン人を殺す漫画がやりたかったんですよ。まあでも、出版社の意向もあって、こういう形に」
忠仁「……」
藤城「青木さんも、漫画家を目指していたと聞きました。もしかして、僕と同じタイプだったりしませんか? 推測ですけど」
忠仁「そう……ですかね……」
藤城「僕も、漫画家になる前は周りの人間全員虫ケラだと思ってたし、自分っていう存在を世間に認めさせるのに必死でした。でも、漫画家になって、歳をとるにつれて、漫画家として売れていくにつれて、そういった情熱が徐々になくなっていくのが分かって。……つまらない人間になったなと思います。だから……僕からしたらあなたが羨ましいですよ」
忠仁「……」
藤城「辞めないでくださいね。青木さんのデザイン、僕待ってますから」
忠仁「……」
38 青木家・忠仁の部屋(夜)
忠仁、入ってくる。
部屋の中は漫画で散らかっている。
忠仁「……」
忠仁、少しずつ漫画を拾い集めていく。
ふと、落ちている大量のノートに気付き、拾う。
表紙には『ダーク・イン・ザ・ソウル1 青木忠仁』とある。
開くと、今よりかなり下手な絵で漫画が描かれている。
二冊目を手に取って、読む。
一冊目よりも絵が上手くなっている。
三冊目、四冊目と読み進めていくうちに、絵がどんどん上達していっていることに気づく。
五冊目を読んでいくと、
『独りよがりで何が悪いッ!』
『自分を貫けッ!』
等のセリフが目に止まる。
忠仁「……」
忠仁、決心したように机に向かう。
真剣な表情で描き始める。
39 椎名デザイン事務所・デスク(日替わり)
島崎ら絵師たちが作業をしている。
そこから、廊下を歩く忠仁の姿が見える。
絵師たち、驚いて。
江田「あれ、青木さんじゃね?」
下林「ウッソ、なんでいんの?」
江田「わかんね……」
島崎「……」
40 同・社長室
忠仁、入ってきて、椎名のもとへ。
椎名「(驚きつつ、真顔で)……何しに来た。もう辞めたんじゃなかったのか」
忠仁「辞めるとは言っていません」
椎名「あぁ?」
忠仁、姿勢を正し、
忠仁「この度は、多大なる無礼な発言と無断欠勤、本当に申し訳ございませんでした。(と、頭を下げ)身の程をわきまえず、未熟で浅はかな人間だったと自覚しています」
椎名「……」
忠仁、顔を上げ、
忠仁「でも……このデザインは、『スマスマ』9巻のデザインは……最後まで俺にやらせていただけないでしょうか」
椎名「……ふざけるな」
忠仁、すぐさまカバンからデザインの書かれた紙を取り出し、机に置く。
前の巻から引き継いだポップな部分と忠仁固有のダークな部分を兼ね備えた、アーティスティックなデザイン。
椎名「(目を見開き)……」
忠仁「『スマスマ』のこれまでの巻をもう一度ちゃんと読みました。『スマスマ』は確かにタッチの軽さと、キャラクターのコミカルさが魅力です。ですがその中にも、人間の奥底にある闇を微かに表現するようなシリアスなシーンがいくつもありました。9巻は特に。これは藤城先生自身もあえてやっていることだと思います。それで、このデザインになりました」
椎名「……ダメだ。前の巻とイメージが違いすぎる」
椎名、デザインの書かれた紙を置く。
8巻と全く同じ構図のデザイン。
椎名「『スマスマ』9巻はこれでいく。これは決定事項だ。……今更変更なんかできるわけないだろ」
忠仁「本当は良いと思ってますよね?」
椎名「は……」
忠仁「分かりますよ。公園で会った時と同じ目してます」
椎名「……」
忠仁「個性を殺して誰かに合わせることなんて誰だってできる。でも、それは俺たちの仕事じゃない。そんなものはAIにでも任せればいい。俺たちは、俺たちにしかできないことをするべきなんじゃないんですか」
椎名「それができないから今……」
忠仁「藤城先生だって、きっと同じ気持ちです。だからウチに依頼してきたんです」
椎名「お前に藤城の何が(分かる) ──」
忠仁「(遮り)会いに行ったんです」
椎名「(え、と忠仁を見て)」
忠仁「……先生言ってました。自分が売れたのは椎名さんのおかげだって。バカで中二病だった自分を肯定してくれたから今がある。だから、自分のやりたいようにやらせてほしいって」
椎名「……」
忠仁「……お願いします。これでいかせてください!」
忠仁、頭を下げる。
間。
椎名、大きくため息。
椎名「……修正箇所は山ほどあるけど、間に合うのか? 納期まであまり時間ないぞ」
忠仁「はい。間に合わせます」
椎名「……好きにしろ。間に合ったら、それで出してやる」
忠仁「……ありがとうございますっ!」
椎名、修正点を書いた付箋を何枚も紙に貼っていく。
忠仁「……多くないですか?」
椎名「間に合ったらっつったろ。ここまで言ってできないとかナシだかんな」
忠仁「(苦笑し)……はい」
41 同・デスク
大量の付箋が貼られた紙を持って戻ってきた忠仁。
島崎、駆け寄ってきて。
島崎「あの……すみませんでしたっ」
忠仁「……」
島崎「俺……師匠のこと……一緒になって笑って……」
忠仁「いいんだよ。自業自得だ」
島崎「(遮るように)本当はっ……ずっと前から笑ってたのかもしれません」
忠仁「……」
島崎「俺、ずっと仕事がもらえなくて、焦ってて。アドバイスもらう度……俺なんでこの人にアドバイスもらってんだろう。この人ただの雑用なのに。俺の方が絶対いいデザイン描けるのにって、考えちゃってる自分がいて。ホント、自分が情けないです」
忠仁「……中二病か」
島崎「……えっ?」
忠仁「そのままでいいよ。強い向上心があるって証拠だ」
島崎「でも……」
忠仁「言っとくけど、お前よりも絵が劣っているなんて微塵も思ってないからな。引きこもりだった分、毎日欠かさず絵を描いてきた。技術なら誰にも負けない自信がある」
島崎「……」
忠仁「だから……これからも俺にアドバイスさせてくれ。偉そうなこと言わせてくれ。大きな成長の一歩は、誰かを真似ることから始まる。俺の背中を見て学ぶんだ」
島崎「……はい。……勉強になりますっ……」
忠仁「……(笑って)」
忠仁、机に向かう。
付箋だらけの紙を広げて、深呼吸。
よし、と一息に作業を始める。
暗転。
42 書店(数ヶ月後)
店頭に『スマスマ』9巻が並んでいる。
通りがかった忠仁、それを見ている。
忠仁「……」
スマホを出し、ツイッターを開く。
『ハッシュタグ・スマスマ9巻』の評判。
『表紙変わった?』
『なんで変えたし』
『前の方がよかった』など。
忠仁「……」
忠仁、スクロールしていると、
『でも、これはこれで好き』との評判が。
忠仁「……」
忠仁、顔を上げ、歩いていく。
43 路上
歩いている忠仁。
そこへ、藤城から着信。
忠仁「はい」
44 藤城邸・リビング
電話している藤城。
藤城「あ、もしもし、青木さん。ご無沙汰してます、藤城です〜」
45 路上
電話している忠仁。
以下、前シーンと随時カットバック。
忠仁「ああ、どうも、藤城さん……」
藤城「表紙のデザイン、改めて、ありがとうございました」
忠仁「ああ……大丈夫ですかね、評判あんまり良くないですけど」
藤城「いいんですよ、評判なんて。むしろ、評判ばかり気にしてた頃より、なんだか今は、描くのが楽しいです」
忠仁「そうですか……」
藤城「青木さんには感謝してます。青木さんのおかげで、自分の中のモヤモヤが晴れたような気がして」
忠仁「いえ……僕は何も」
藤城「じゃあ……次からは、キャラの一人でも殺してみよっかな」
忠仁「え? いや……それは、やめておいた方が……」
藤城「冗談です。(笑って)まさか、青木さんから止められるとはね」
忠仁「……いや、案外アリかもしれませんね。その方が、カタルシスがあって」
藤城「え?」
忠仁「殺しましょう。一人でも、二人でも」
藤城「(笑って)」
忠仁「(笑って)」
忠仁、ふと周りを見ると、周囲の人々がみな怪訝な顔でこちらを見ていた。
真顔に戻ってそそくさと歩く忠仁。
46 星峰家・リビング〜玄関(夕)
ニンテンドースイッチをやっている彪牙。
通りがかった聖来、ボロボロになった彪牙の鞄を見て。
聖来「……またやられたの?」
彪牙「……喧嘩だよ、喧嘩」
聖来「……」
そこへ、チャイムが鳴る。
聖来「はーい」
聖来、玄関に向かい、開けると、忠仁が立っている。
聖来「おおー……」
忠仁「……よっ」
聖来「久しぶり……」
忠仁「……息子、いるか?」
聖来「ん? ああ……いるよ。(中に向かって)彪牙ー! ちょっと来てー!」
彪牙、やってきて。
彪牙「何だよ……あ」
忠仁、彪牙に『スマスマ』9巻を渡す。
忠仁「これ、お前にやるよ」
彪牙「……いらない。『スマスマ』なんか大っ嫌いだ」
忠仁「なんで」
彪牙「大体みんな読んでるし。みんな褒めてばっかで気持ち悪い」
忠仁「いいから読んでみろよ。案外面白いぞ。つまんなかったら、つまんないって言っていいんだから」
彪牙「言ったらいじめられた。お前の感性はおかしい、腐ってるって。……俺みたいな奴は、一人がお似合いなんだよ」
忠仁「……」
彪牙「……つーかなんで9巻からなんだよ。普通1巻からだろ」
忠仁「その表紙、俺がデザインしたんだ」
彪牙「……えっ?」
忠仁「すげえだろ」
彪牙「……」
忠仁「……一つ教えてやる。今お前は自分が特別な人間だと思ってるかもしれないがな、俺もお前の母ちゃんもそうだった。お前をいじめてる奴らだってそうだ」
聖来「……」
彪牙「……」
忠仁「でも……それでいい。中二病のままでいい。いつか大人になった時、いつか挫折しそうになった時、自分を信じて良かったって、そう思える日がきっと来るから」
彪牙「……」
忠仁「お前をいじめてる連中なんて、大した奴らじゃない。立ち向かいたきゃ立ち向かえばいいし、逃げたくなったら逃げればいい。一生懸命自分を曲げてまで、他人と付き合う必要なんてない」
彪牙「……」
忠仁「負けんなよ」
彪牙「……」
忠仁「じゃあな」
忠仁、去ろうとするが、
彪牙「おっさん」
忠仁、振り返る。
彪牙「言ってることよくわかんないけど、俺、頑張ってみる」
忠仁「……そうか」
彪牙「あと……このデザインすっげえダセえ!(と、満面の笑みで)」
忠仁、微笑み、彪牙のもとへ。
『スマスマ』9巻を奪い取る。
忠仁「やっぱ返せ」
彪牙「えっ? なんでだよ(と、掴み返す)」
忠仁「うっせーバカ! 人が苦労して描いた表紙をお前っ……ふざけんなっ!」
彪牙「はあ? お前がいいって言ったんだろ?」
忠仁「それとこれとは話が別だろ!」
忠仁と彪牙、揉み合いになる。
聖来、その様子を微笑ましく見ている。
47 青木家・玄関(夜)
忠仁、慌ただしく帰ってくる。
出迎える博子。
博子「おかえり。ご飯は?」
忠仁「食べてない」
忠仁、すぐさま階段に向かう。
博子「食べなさいよ」
忠仁「忙しいんだよ。早く10巻仕上げないと」
博子「……(微笑んで)そう」
忠仁、部屋に入っていく。
48 同・忠仁の部屋
入ってきた忠仁。
すぐさま机に向かう。
真剣な眼差しで描き進める。
49 宮下中学校・教室(15年前)
冒頭シーンのリプレイ。
眼には眼帯、腕には包帯を身にまとった忠仁(14)が無我夢中で漫画を描いている。
その顔、笑顔である。
タイトル『中二病で何が悪いッ!』
【了】
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