【第36回フジテレビヤングシナリオ大賞一次通過作】『滑稽』 ドラマ

10年前、事故で両親を失った佐原光一。その原因を作ってしまった光一の姉・朱音はうつ病になり、光一はその世話に追われながら苦しい生活を送っていた。そんなある日、光一は高校時代の友人・村田大成と再会。村田はずっと地下芸人をやってきたが一度も客にウケたことがなく、落ちぶれていた。しかし、光一の現状を知った村田は突如「俺が朱音さんを笑わせる」と高らかに宣言。バラバラだった三人の人生が少しずつ動き出していく──。
近藤憲知 11 0 0 03/17
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第一稿

【主な登場人物】
・佐原光一(24)    会社員
・村田大成(24)    地下芸人。光一の親友
・佐原朱音(27)    無職。光一の姉

・品川   相模商事・ ...続きを読む
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【主な登場人物】
・佐原光一(24)    会社員
・村田大成(24)    地下芸人。光一の親友
・佐原朱音(27)    無職。光一の姉

・品川   相模商事・光一の上司
・上倉     お笑い劇場・支配人

・河野     村田の後輩1
・灰谷     村田の後輩2

・佐原秀樹(享年52)  光一と朱音の父
・佐原郁枝(享年48)  光一と朱音の母

・村田清美(59)   村田の母(声のみの登場)

【本編】
1 大宮大学・中庭テラス
  向かい合って話している佐原光一(19)と村田大成(19)。
光一「……芸人?」
村田「そう。俺、大学辞めて芸人になる」
光一「……ん? それは……大学辞めて芸人になるってこと?」
村田「そういう事。今言ったじゃん(笑)」
光一「俺ら大学入って何ヶ月だっけ?」
村田「3ヶ月ちょい?」
光一「早いって。その決断」
村田「でももう、決めちゃったし」
光一「芸人って……俺、村田で笑ったこと一回もないんだけど」
村田「これから頑張るから」
光一「頑張るっつったって、簡単になれるもんじゃねえし、食ってける訳ねえって。ホームレスになっても知らねえぞ?」
村田「……それはそれで、面白いかもな」
光一「はあ?」
村田「(笑っている)」
  暗転。

2 相模商事・デスク(5年後・夕)
  窓外に都心の風景。
  パソコンで作業している光一(24)。
  外から品川に声をかけられる。
品川「佐原くん」
光一「はい」
品川「ちょっと(と、手招き)」
光一「はい……」
  光一、品川のもとへ。

3 相模商事・会議室
  光一と品川、向かい合って話している。
光一「……北海道……」
品川「うん。来月から行ってもらえないかな」
光一「……すみません。……できない……です」
品川「……えっ? (察し)あ。あー……そっか、佐原くんとこは……そっか」
光一「はい……すみません」
品川「でもさ、いくらでもやりようあるんじゃないの? ほら、例えばさ……」
光一「(遮り)すみません。……できません」
品川「……そう。じゃ、別の人に行ってもらおうかな」
光一「すみません……」

4 桜木団地・前路上(夜)
  歩いている光一。

5 同・廊下
  部屋の前に着き、鍵を取り出す光一。
  ため息をつき、開ける。

6 同・佐原家・玄関〜寝室
  光一、入ってくる。
光一「ただいま」
  部屋の中は真っ暗。
光一「……」
  光一、寝室に向かう。
  暗がりでベッドに座っている人影。
  佐原朱音(27)。
  光一、電気をつける。
光一「電気つけろっていつも言ってんだろ?」
朱音「……」
光一「暗い部屋にいたらどんどん気分も暗くなってくって前にも言ったよな?」
朱音「……」
光一「……なんか言えよ」
  朱音、立ち上がって電気を消し、再びベッドへ。
  光一、ため息をつき、ドアを閉める。

7 同・リビング
  やかましいテレビを見ながら冷凍パスタを食べている光一。
  その背後には仏壇。
  光一の両親の遺影が飾ってある。
光一「……」

8 相模商事・デスク(日替わり・夕)
  コピーをとっている光一。
  同僚(女性)、来て。
同僚「佐原さん、この後、時間あります?」
光一「えっ?」
同僚「こないだ新人のコ入ってきたじゃないですか。歓迎会やるんですけど、佐原さんも来ますよね?」
光一「あー……ごめん、俺、パスで」
同僚「えっ? 歓迎会ですよ?」
光一「……ごめん、ちょっと今日、用事が」
同僚「(冷めた様子で)はい、わかりました。了解でーす」
光一「……」

9 飲み屋街
  歩いている光一。
  楽しそうに騒いでいる若者たちを横目に見ている。  
光一「……」
村田の声「いらっしゃいませー!」
  光一、声の方を見ると、村田(24)が店の前で呼び込みをしている。
光一「(見て、気付き)……村田……?」
村田「(見て)……あ……」
光一「……」
村田「……光ちゃん?」
光一「……」

10 居酒屋・中
  カウンターに座り、飲んでいる光一と、中で支度している村田。
  光一、周囲を見渡して。
光一「……全然客いないけど」
村田「(笑って)光ちゃんのために貸し切った」
光一「えっ?」
村田「冗談だよ」
光一「ああ……」
村田「でも良かったよ。光ちゃんとは、ずっと話したかったし」
光一「ちょっとだけな。すぐ帰るから」
村田「え〜」
光一「……(苦笑)」
村田「や〜。にしても懐かしいな〜。もう何年ぶり?」
光一「お前が大学辞めてからだから……5年ぶりくらい?」
村田「は〜。もうそんな経つんだ。ちょっとぐらい連絡くれても良かったのに。……ま、俺もだけど(と、小さく笑って)」
光一「……お前、今何やってんの?」
村田「俺? そりゃあもちろん、芸人だよ」
光一「えっ……お前、マジで芸人になったの?」
村田「当たり前っしょ」
光一「えっ? お前、なんか、テレビ出てたっけ?」
村田「あー違う違う。芸人っつっても、地下芸人な。テレビなんか出れねーよ」
光一「(拍子抜けし)……ああ」
村田「昼は毎日パチンコ屋で、夜仕事ない時はここでバイトしてんの」
光一「へえ……」
村田「そっちは? 何してんの、今」
光一「俺は……普通に会社員だよ」
村田「えっ? なんか、弁護士なりたいとか言ってなかったっけ」
光一「いつの話してんだよ。目指してもどうせなれないんだから。堅実に生きるのが一番だよ」
村田「……そっか」
光一「……(枝豆を黙々と食べている)」
  間。
村田「……あ、そういや、姉ちゃん、元気?」
光一「……(手を止める)」
村田「あれ、名前……あ、朱音さん」
光一「……」
村田「……事故で光ちゃんとこの両親死んでから、もう10年も会ってないし、気になってさ。今どうしてんの?」
光一「……(顔が曇る)」
村田「あ……ごめん。わざわざ口に出すことじゃないよね」
光一「いや……いいよ。……事故の後、大学辞めて働き出したのは知ってるだろ?」
村田「ああ……知ってる知ってる。イベント会社だっけ」
光一「姉ちゃんの収入だけじゃ生活も苦しくてな。毎日生きるのに必死だったよ」
村田「うん……(笑顔作り)まあでも、今は――」
光一「今は? 色々大変だったけど、なんとかそれ乗り越えて、今は元気にやってるって? ……そんな風に言えたらどれほど良かったか」
村田「……(言葉が出ず)」
  光一、スマホで時間を確認。
  19時42分。
光一「(焦った様子で)……悪い、もう帰るわ」
  光一、立ち上がる。
村田「あ、ちょっ……ちょっと待って」
  村田、光一に紙を渡す。
  光一、見ると、『劇場・笑ってナンボ! ライブチケット』と書いてある。
光一「……何これ」
村田「タダ券。気が向いたら見に来てよ。……朱音さんも良かったら」
光一「……」
村田「(笑って)またな」
光一「ああ……」
  光一、出ていく。

11 桜木団地・佐原家・玄関~風呂場
  入ってくる光一。
光一「ただいま。ごめん、遅くなっ……」
  部屋の中は真っ暗。
  洗面所の電気だけがついている。
光一「……姉ちゃん?」
  光一、風呂場に向かう。
  赤く染まった風呂桶。
  朱音、手首を切って気を失っている。
光一「……! ……姉ちゃん? おいっ……しっかりしろっ! おいっ!」
  光一、慌ててカバンから携帯を取り出し、
光一「もしもし。救急です。今すぐ来てください。早く」

12 桜木総合病院・廊下(翌日・朝)
  医師と話している光一。
医師「幸い、命に別状はありません」
光一「(安堵し)そうですか……よかった」
医師「ただ、見つけるのがもう少し遅かったら、どうなってたか」
光一「……」
医師「可能な限り、見守ってあげてください。私からは……それしか」
光一「……はい」

13 同・病室
入ってくる光一。
  朱音はうつろな目でベッドに横たわっている。
光一「何か食べたいものある?」
朱音「……」
光一「買ってくるけど」
朱音「……」
光一「……ごめん。一人にさせて。……俺のせいだな」
朱音「……」
光一「昨日は……村田と会ってたんだ。覚えてる? 高校ん時一緒に遊んでた奴。偶然会ってさ。アイツ今地下芸人やってんだって。(カバンからチケット取り出し)チケットもらっちゃったよ。今度一緒に行く?」
朱音「……(微動だにせず)」
光一「……(チケットしまって)」
朱音「(消え入る声で)……殺して」
光一「……(朱音を見て)」
朱音「殺して……」
光一「……」

14 劇場『笑ってナンボ!』・外観(夕)

15 同・ステージ
  光一、入ってくる。
  客はまばら。
光一「……」
     ×   ×   ×
  席に座っている光一。
  しばらくして、村田が舞台に登場。
村田「どうも〜! 村田大成で〜す。お願いしま〜す」
     ×   ×   ×
村田「村田大成の一人ショートコント『恐怖の味噌汁』!」
光一「……」
  村田、適宜マイムをしながら。
村田「ここに来れば恐怖の味噌汁が飲めるって聞いたんだけど、怖いな〜……お、来た来た。……ん? 普通の麩の味噌汁じゃないか。おいおい、どうなってんだい、奥さん。……え? この味噌汁は日替わりで、今日しか飲めないって? 今日……麩の味噌汁……恐怖の味噌汁……いや、恐怖の味噌汁じゃなくて今日、麩の味噌汁だったんかーい!」
  村田、ズコーッと転倒。
  「チャンチャン♪」と効果音。
光一「……」

16 同・控室
  支配人・上倉に叱責を受けている村田。
上倉「困るんだよね〜。全然ウケてなかったじゃない。ネタ変えろっつったよね?」
村田「はい、あの、だから、違うネタで……」
上倉「ウケてなかったら意味ないでしょ?」
村田「……すみません」
上倉「しっかりしてよ。こっちも優しさで使ってやってんだからさ」
村田「……はい」
  上倉、出ていく。
村田「……」
  しばらくして、光一が入ってくる。
村田「お〜う」
光一「……おう」
村田「来てくれたんだ」
光一「ああ……」
村田「どうだった?」
光一「……まあ、面白くはなかったな」
村田「おお〜。……そっかそっか」
光一「……」
  間。
村田「あ、そういやさ、俺が光ちゃんに借りたDVD、そのまんまになってたわ」
光一「えっ?」
  村田、カバンをガサゴソしながら、
村田「ほら、高校ん時お笑いのDVD貸してくれたじゃん。俺、あれ見てお笑い芸人目指したんだぜ。光ちゃんには感謝してんの」
光一「……」
村田「まあでも、借りパクになっちゃってごめんな。返すわ」
  村田、バナナマンのDVDを取り出し、 差し出す。
光一「(小声で)そっか、俺のせいか……」
村田「えっ?」
光一「……いや。いいよ返さなくて。お前が芸人やってるうちは持っとけよ」
村田「あ、そう? ありがと」
光一「……うん」
村田「……あれ? そういや、朱音さんは?」
光一「(表情曇り)……」
村田「まあ、忙しいか。光ちゃんだけでも来てくれて嬉しいよ」
光一「……姉ちゃんは……来れない」
村田「ん?」
光一「昨日……風呂場で手首を切った」
村田「……えっ?」
光一「あっ……大丈夫、生きてる……死んだわけじゃない……死んだわけじゃないけど……」
村田「……」
光一「……事故の日……姉ちゃんは運転中の親父にモノマネを見せた。大して笑えもしない……しょうもないモノマネ。それで親父が一瞬目ぇそらして……気づいたら、ウチの親は死んでた」
村田「……えっ……」
光一「姉ちゃんはそれでもずっと働いて俺を養ってくれて、大学まで行かせてくれた。イベント会社で、一生懸命笑顔振りまいて。でも……多分限界が来たんだと思う。……俺が大学卒業した年、姉ちゃんは壊れた」
村田「……」
光一「今はもう、生きてるのに死んでるみたいだ。……どうすればよかったんだろうな」
村田「……」
光一「言わなくて、悪かった。心配かけたくなかったんだよ。お笑いとか、色々頑張ってんの、邪魔したくなかったし」
村田「……」
光一「……それじゃ」
  光一、去ろうとする。
村田「分かった。じゃあ、俺が笑わせてやる」
光一「(振り返り)……えっ?」
村田「朱音さんのために、俺が朱音さんを笑わす。……それが、芸人ってもんでしょ」
光一「……お前じゃ無理だよ」
村田「そんなの分かんないでしょ」
光一「……(苦笑)」
村田「……俺、本気だから」
光一「……(村田を見て)」
村田「またね」  
光一「……」

17 桜木総合病院・廊下(夜)
  歩いている光一。
  病室を覗くが、朱音の姿がない。
  あれ、と思い、通りかかった看護師に声をかける。
光一「あの、ここの病室にいたウチの姉って……」
看護師「ああ……お姉さんならとっくに退院してますけど」
光一「えっ……?」

18 桜木団地・佐原家・玄関〜寝室
  光一、慌てて入ってくる。
光一「姉ちゃん!」
  光一、寝室に向かう。
  真っ暗な部屋で佇む朱音、光一を睨む。
光一「(ホッと)……よかった」
朱音「……どこ行ってたの」
光一「あ……あの……村田の、ライブ」
朱音「なんで?」
光一「……なんでって」
朱音「いや……え、意味わかんないんだけど……私よりライブの方が大事なんだ」
光一「いや……病院いると思ってたし」
朱音「病院いるからいいんだ。放置していいんだ」
光一「そういう言い方してないだろ」
朱音「はぁ? 私……自殺しようとしたんだよ? なんでさ……なんでそういう……(と、徐々に興奮し)光一ってさ、私が今どんなに辛いかとかさ、そういうの分かってないよね?」
光一「分かってるよ」
朱音「いや、分かってないから」
  間。
光一「……誰のためにこんな思いしてると思ってんだよ」
朱音「は?」
光一「こっちは姉ちゃんのせいで会社に居場所なくなって。それでも必死こいて働いてんだよ。それでなんでこんなこと言われなきゃなんねんだよ」
朱音「何それ。辛いのは自分だけだと思ってるんでしょ。私の気持ちなんか何にも分かってないくせに!」
光一「……(小声で呟く)なんで急に話通じなくなんだよ……」
朱音「……」
光一「昔はそんなんじゃなかったのにな」
朱音「うるさい!」
  朱音、光一に枕を投げつける。
光一「……」
  光一、出ていく。
朱音「……」

19 大宮市街・全景(翌日)
  自然豊かな地方都市。

20 桜木公園沿いの道
  コンビニ袋を持って歩いている朱音。
  楽しそうに歩く親子連れが多い。
朱音「(見て、切なく)……」
村田の声「あ、もしもし? お母さん?」
朱音、振り返る。
すれ違った男、村田で。
朱音「……!」
村田「うん。もうすぐ着く。……分かってるって。うん。じゃ、また(と、電話を切る)」
  遠くから男の子の泣き声が聞こえてくる。
  村田、すぐさま男の子の前へ。
  男の子に向かって何度も変顔をするが、全く泣き止まない。
  隣の母親、何やら村田に怒っている様子。
  村田、ペコペコと謝っている。
  その一部始終を見ていた朱音。
朱音「……」

21 相模商事・デスク(夕)
  片付けをし始め、出て行こうとする光一。
光一「お疲れさまでした」
  品川、驚き、声をかける。
品川「え、ちょちょちょ、どこ行くの。……え、もしかして帰るつもり?」
光一「はい……定時……なので」
品川「いや、それはそうだけどさ……ほら、周り見てみなよ」
  他の社員、皆帰らず作業を続けている。
光一「……」
品川「佐原くん。今ウチが一番忙しい時期ってのは、分かるよね?」
光一「……」
品川「事情があるのは分かるんだけどさ、こっちにだって事情があるわけで」
光一「(遮り)すみません、無理です」
品川「えっ?」
光一「姉を一人にすると、ホント、何するかわからないので」
品川「……」
光一「……失礼します」
  光一、出ていく。

22 劇場『笑ってナンボ!』・中
  ネタをしている村田。
  突然、客が声を荒げる。
客「おい」
村田「……はい?」
客「つまんねーよ。早く出てけ」
村田「あ、ああ……すみません。……続きまして」
客「おい、お前何続けてんだお前。出てけっつってんだよ」
村田「……すみません!(と、深々と礼)……続きまして」
客「だから、続けんなって!」

23 同・控室
  上倉に怒られている村田。
上倉「困るんだよね〜」
村田「すみません」
上倉「うちはお客様ファーストでやってるからさ。出てけって言われたら出てかないと」
村田「はい」
上倉「客に刃向かうとかさあ、めちゃめちゃウケてる奴がやるなら分かるんだけどさ……ねえ?」
村田「はい……」

24 同・前(夜)
  村田、出てくる。
  後ろから二人の後輩芸人・河野と灰谷がやってきて。
河野「あ、村田さん、お疲れ様です」
村田「ああ……お疲れ」
  河野と灰谷、互いに目配せし、
灰谷「……村田さん、この後空いてます?」
村田「えっ?」
灰谷「飲み行きません?」

25 居酒屋・中
  村田、河野と灰谷、向かい合っている。
  テーブルには大量の食べ物や飲み物。
村田「……結構頼むね」
河野「まあ、若いんで」
灰谷「(財布見て)あ〜、すんません、自分ら金ないんで、ゴチんなってもいいスか?」
村田「……えっ?」
  村田、伝票を見て。
村田「あー……ああ……うん、いいよ……」
灰谷「あざす」
河野「てか、村田さんって、今何年くらいやってんスか?」
村田「あー……まあ19からだから……5年くらい?」
河野「マジすか? え〜、5年もやって……すげ〜」
灰谷「え、なんか、持ちギャグとかって、あるんスか?」
村田「持ちギャグ? ……まあ、あるにはあるけど、でも全然、大したことない(よ)」
河野「え! やってくださいよ」
村田「いや、さすがにここじゃちょっと……」
河野「え〜、見たいっすよ〜。(灰谷に)なあ?」
灰谷「そうっすよ。勉強させてくださいよ」
村田「ええ〜……じゃあ……ああ、その手があったか! その手が温ったか、ミルクティー!(と、注ぐ動作)」
  間。
村田「あっ……えっと……今のはあの、『あったか!』と『温かい』が掛かってて、その……」
後輩たち、遮るように大爆笑。
河野「やべえ〜」
灰谷「おもろいっす! おもろいっす!」
村田「え〜、ホントに? ありがと〜……」
灰谷「おもろいっす!」

26 桜木団地・佐原家・リビング
  死んだ目でテレビを見ている光一。
  後ろで冷蔵庫を開ける朱音、光一を見て。
朱音「……昨日はごめんね」
光一「え?(と、振り返り)ああ、いいよ」
朱音「ホントにごめんね。自分勝手なこと言って最低だよね」
光一「いや、いいって……。勝手に行った俺が悪いんだよ」
朱音「……」
  そこへ、光一に村田から着信。
光一「……もしもし?」
村田の声「もしもし? オレオレ! オレオレ詐欺じゃねーぞ!(笑)」
光一「……何?」
村田の声「いや、今度の休みさ……光ちゃんち行ってもいい?」
光一「……えっ?(と、振り返り朱音を見る)」
村田の声「やっぱ俺、どうしても朱音さんに会いたくてさ」
光一「あー……ちょっと待ってて(と、振り返り、朱音に)なんか村田がうち来たいって言ってんだけど。どうする?」
朱音「……」
光一「ま……全然断っちゃっていいから」
朱音「……どっちでもいい」
光一「どっちでもいいって、来るぞ、アイツ。いいの?」
朱音「……(うなずく)」
光一「……あ、そう。(村田に)あ、もしもし? どっちでもいいってさ」
朱音「……」

27 アパート・村田の部屋
  都内のボロボロの安アパート。
  かなり散らかっている。
  壁に寄りかかって電話している村田。
村田「あ、マジで? じゃ、行くわ。うん。ありがと。うん。……じゃ、また〜」
  村田、電話を切る。
  ため息をつき、机にあるコンビニ弁当の残りを食べる。
ふと前を見ると、固定電話の『留守』ボタンが光っている。
村田「……」
  立ち上がり、ボタンを押す。
  母・清美の留守電が流れる。
清美の声「もしもし? 大成? お母さんです。昨日の話の続きだけど、やっぱり私はもう無理してお笑い続けなくてもいいと思ってるの。大成がつらい思いしてまで続けるのは大成のためにも……」
  村田、停止ボタンを押して遮る。
村田「……」

28 桜木団地・佐原家・寝室(日替わり)
  光一、ドアを開ける。
  村田、飛び出してきて。
村田「(笑って)よっ」
光一「……おう」
  光一、村田を招き入れる。
村田「おお〜、懐かし〜。あ〜、覚えてる。昔ここでWiiとかやったよな。まだあったりする?」
光一「ああ……あ、姉ちゃん、こっち」
  光一、村田を寝室へ案内。
光一「ちょっと待ってて」
  光一、村田を置いて中に入る。
  朱音に声をかける。
光一「姉ちゃん、村田来たけど」
朱音「……」
光一「……まだやめとく?」
  突如、村田が入ってきて。
村田「うぃ〜す。朱音さん、久しぶり」
光一「おい(と、止めるが)」
村田「Wiiやんない?」
     ×   ×   ×
  テレビにて、Wiiを起動させる村田。
  後ろで光一と朱音、見ている。
村田「おっ、ついたついた。まだ使えんのな」
光一・朱音「……」
村田「ハイ」
  村田、光一と朱音にWiiリモコンを渡す。
  二人、しぶしぶ受け取る。
村田「パーティーでもやるか〜」
  光一、無邪気に操作している村田を見て、
光一「……お前、今日何しに来たの?」
村田「え? 何って、遊びに来たんだよ」
光一「……」
  キャラ選択画面、3人それぞれのMiiが表示されている。
村田「うわ、なっつ〜。俺の顔、変な顔のままだわ(笑)」
光一・朱音「……」
     ×   ×   ×
Wiiパーティー、スゴロクをする三人。
  ルーレットにより、村田と光一の位置が交換され、光一が優位に。
村田「はぁ!? それはズルいわ! ちょっ……返せっ! 俺の位置!」
朱音「(二人を見ていて少し微笑ましく)……」
     ×   ×   ×
  画面、優勝者・光一となっている。
村田「うわ〜、負けた。惜っしぃ〜……朱音さんも、惜しかった!(と、笑って)」
光一「うん……じゃ、悪いけど、そろそろ――」
村田「近くにさ、公園あったじゃん。覚えてる?」
光一「えっ?」
村田「あそこ行かない? ほら、しょっちゅう遊びに行ったじゃん」
光一「いや――」
村田「せっかくこうやって3人集まったんだからさ、今日はとことん遊ぼうぜ、な」
光一「……(朱音を見る)」
朱音「……」

29 桜木公園
  豊かな森と、芝生が広がる公園。
  子供達が元気に遊んでいる。
中を歩いている光一、村田、朱音。
村田「おほぉ〜、懐かし〜」
光一・朱音「……」
     ×   ×   ×
  子供に混じって滑り台で遊ぶ村田。
  途中で詰まってしまい、動けなくなる。
  ただそれを見ている光一と朱音。
     ×   ×   ×
  三人、歩いている。
  村田、走ってブランコに向かう。
  乗っている子供の背中を押してやる村田。
  光一と朱音、それを見ている。
     ×   ×   ×
  バドミントンをしている三人。
  基本的に光一と村田のラリーだが、不意に村田が朱音の方へシャトルを飛ばす。
村田「朱音さん、パス」
  だが、朱音は微動だにせず、シャトルが落ちる。
村田、シャトルを拾いながら。
村田「……惜っしい〜」
光一「……」
     ×   ×   ×
  歩いている光一、村田、朱音。
  息切れ状態の村田、売店を見つけ、
村田「あ、アイス食べる?」
光一「ああ……うん(と、朱音を見て)」
朱音「……(小さく頷く)」
村田「じゃあ俺、買ってくるわ。そこで待ってて」
  村田、ベンチを指し、歩いていく。
光一「ああ……」
  光一と朱音、ベンチに座る。
光一「……なんで村田が来ることOKしたの?」
朱音「……」
光一「……まあ、なんでもいいけどさ、アイツがいる時くらいもうちょっと愛想良くできねーの? バドミントンだって全然返さねーし。俺もう、見てらんねーよ、あのテンション」
朱音「……」
  村田、アイスを三つ持って戻ってくる。
光一「(受け取って)ありがと」
村田「ハイ(と、朱音に渡して)」
朱音「(受け取って)……」
  光一と村田はアイスを食べているが、 朱音は手をつけない。
村田「朱音さん? 食べないの?」
朱音「……いらない」
村田「……えっ?」
朱音「……食べたくない」
村田「……」
光一「……何? スネてんの? いいから食えよ。せっかく買って来てくれたんだから」
朱音「……」
光一「え、何? 俺がなんか余計なこと言ったから?」
朱音「……」
村田「……まあまあ」
光一「あのさあ、そういうワガママはうつとか関係ないからな。ちょっと気分害したとかでいちいち振り回されたくないんだわ、こっちも。なあ、分かってんのかよ」
朱音「……」
光一「聞いてんだけど」
朱音「……」
村田「……(笑って)いいよいいよ。俺食うよ」
光一「……え?」
村田「や〜、ちょうどアイス2個食いたかっっていうか? ほら、俺って甘党じゃん? あ、心配すんなよ。オレのお腹は鉄壁だからな(笑)」
光一「……(我に返り、苦しく、ため息)」
朱音「……」
     ×   ×   ×
  トイレ前。
  待っている光一と朱音。
光一・朱音「……」

30 桜木団地・外観(夕)

31 同・佐原家
  押入れを物色している村田。
  横で見ている光一。
村田「お、あったあった」
  村田、中から流しそうめん用の竹セットを取り出す。
村田「しっかし、よくこんなの持ってんな」
光一「……父さんがさ、夏は毎年流しそうめんだって張り切って、手作りで」
村田「……そっか」
光一「昔、お前と流しそうめんした時も、父さんと母さん一緒だったな。いや、村田気まずいだろって思ったけど。出しゃばりなんだよな、うちの家族。基本的に」
村田「でも、その方が楽しかったよ」
光一「えっ?」
村田「ほら、うちは片親で一人っ子だから。羨ましいじゃん?(と、笑って)」
光一「……笑顔で言う事じゃねーよ、それ」

32 同・外
  竹セットを組み立てている村田。
  それを見ている光一と朱音。
  周囲で子供が遊んでいる。
光一「……マジでここでやんの?」
村田「昔もここでやってただろ? ……っし、できた。じゃあ、俺流すからさ、そうめん捕まえちゃってよ」
光一「ああ……」
  村田、「よっ」とそうめんを流す。
  光一、流れてきたそうめんを箸で掴み、食べる。
村田「朱音さんも!(と、流す)」
朱音「……」
  朱音、のそのそ箸で掴もうとするが、 間に合わず、行ってしまう。
  光一、咄嗟に掴み、
光一「ちょっと姉ちゃんには速すぎんじゃねーの?」
村田「あー……そっか」
光一「てか、お前どうすんの? 交代しよっか?」
村田「ん? ああ、いいよいいよ。……あ、いいこと思いついた」
光一「えっ?」
村田「自分で流して、急いで走って、で、自分で掴む! これできたらギネス級じゃない?」
光一「いやー……無理だろ」
村田「大丈夫大丈夫、任して。せー……の!」
  村田、そうめんを流して、走る。
  しかし、つまずき、転倒。
  竹セットにダイブし、大崩壊。
村田「痛った! あー! 冷たい! 冷た!」
光一「(呆れ)おーい、何やってんだよ……」
  その時、「クスッ」と笑い声が聞こえる。
光一「……え?」
村田「え?」
  光一と村田、朱音の方を見る。
朱音「……(少し間があって、咳き込む)」
村田「なんだ咳か。……や〜、ごめんごめん」
光一「(込みあげるものがあり)……」
     ×   ×   ×
  光一と朱音、村田の別れ際。
村田「じゃ。ありがとね」
光一「おう。……あ、送ってくよ」
村田「え? いいの?」
光一「うん。(朱音に)姉ちゃん、先戻ってて」
朱音「……うん」
村田「朱音さーん、ありがとね〜」
  朱音、一礼し、去っていく。
光一「……」

33 道
  並んで歩いている光一と村田。
光一「……ありがとな、今日は」
村田「ううん。こちらこそ」
光一「……お前、姉ちゃん笑わせに来てくれたんだよな」
村田「うん」
光一「……ちょっとずつだけど、前に進めてる感じがする」
村田「……」
光一「……ありがとう」
村田「……らしくないこと言うじゃん」
光一「……」

34 桜木団地・佐原家・リビング
  帰ってきた光一。
光一「ただいま」
  光一、ふと固定電話を見ると留守電ボタンが光っている。
光一「……?」

35 同・寝室
  光一、寝室のドアを開け、朱音に声をかける。
光一「姉ちゃん」
朱音「……」
光一「今度……行ってみないか? 村田のライブ」
朱音「……」
光一「アイツの頑張り見せたら、なんか変わるんじゃないかと思って。……どうかな?」
朱音「……どっちでもいい」
光一「(安心して微笑み)分かった」

36 劇場『笑ってナンボ!』・ステージ(日替わり)
  光一と朱音、入ってくる。
  相変わらず客はまばら。
光一・朱音「……」
     ×   ×   ×
  席に座っている光一と朱音。
  しばらくして、村田が舞台に登場。
村田「どうも〜! 村田大成で〜す。お願いしま〜す」
  村田、手拍子を始める。
村田「手拍子お願いしま〜す!」
  手拍子、起こらない。
光一・朱音「……(小さく拍手)」
村田「え〜、世の中にある『幸せを感じる瞬間』をリズムに乗せて歌いたいと思いま〜す!」
光一・朱音「……」 
村田「(踊りながら)道端で〜百円拾っちゃった! ハッピッピ、ハッピッピ、ハッピッピーのーピー!(と、「P」のポーズ)」

37 同・廊下
  歩いている光一と朱音。
  ため息をつきながら歩く上倉とすれ違う。

38 同・控室
  鼻をすすっている村田。
  そこへ、光一と朱音が入ってくる。
村田「……おおっ! 来てくれた? ついに?」
光一「おう」
朱音「……」
村田「(朱音に)ありがと〜! どうだった? 俺のネタ」
朱音「……」
  間。
朱音「……なんで」
村田「ん?」
朱音「……なんで芸人やってんの?」
光一「……」
村田「……なんで……なんでだろ」
朱音「……」
村田「んー……なんでかわかんないけど……誰かに笑ってほしいんだよね」
朱音「……」
村田「うん……それだけかな」
朱音「……」
光一「(朱音を見て)……」

39 道(夜)
  並んで歩いている光一と朱音。
光一「一昨日……村田のお母さんから電話があったんだ」
朱音「……」
光一「アイツ、久しぶりに実家帰ってきて、俺の話をいろいろとしたみたいで」
朱音「……」
光一「お母さん……心配してた。あの子は人に弱みを一切見せない子だから。苦しいとか痛いとか、そういう感情を吐き出せなくて、ずっと辛い思いをしてるんじゃないかって」
朱音「……」
光一「父親が出ていった日からずっと、アイツは母親を笑わせるのに必死だったんだってさ」
朱音「……」
光一「……姉ちゃんも……そうだったんだろ?」
朱音「……(光一を見て)」
光一「……事故ん時、父さんと母さん喧嘩してたろ」
朱音「……」

40 車内(回想・10年前)
  運転席に秀樹(52)、助手席に郁枝(48)、後部座席に光一(14)と朱音(17)。
秀樹「はあ……やっと抜けたな」
郁枝「もっと早く出発してたら、渋滞なんかハマんなかったわよ」
秀樹「いや……しょうがないだろ」
郁枝「しょうがないって……あなたの準備が遅いからでしょ?」
秀樹「もういいだろ。過ぎたことは」
郁枝「あなたっていっつもそう。しょうがないしょうがないって自分のこと棚に上げて」
秀樹「あのな、こっちだって過去のこといちいち掘り返してグチグチ言われるのはもうウンザリなんだよ。子供だっているのに。……せっかくの旅行が台無しだよ」
郁枝「はあ? 何それ、私が悪いってこと?」
  車内、険悪な空気。
朱音「……」
  朱音、自分の鼻と口にココアシガレットを挟む。
朱音「……見て見て! どじょうすくい」
  秀樹、振り返る。
  一同、朱音を見ている。
  間。
  一同、プッと吹き出す。
  車内、和やかな空気に。
  暗転。

41 道(回想戻り)
光一「薄々気づいてたけど、離婚とか考えてたかもしんないな、うちの親も」
朱音「……」
光一「姉ちゃんも……ただ、父さんと母さんに笑ってほしかっただけなんだろ」
朱音「……」

42 相模商事・会議室(日替わり)
  リストラ候補者一覧。
  光一の名前が入っている。
  向かい合って話している光一と品川。
光一「……」
品川「まあ、まだ候補者ってだけだから」
光一「……」
品川「まあでも、お姉さんのためにも、自主退職して、もっと違う仕事探したほうが賢明だと思うけどね、俺は」
光一「……」

43 劇場『笑ってナンボ!』・ステージ
  舞台上で河野と灰谷が漫才をしている。
河野「俺は今日で絶対に、芸人にならなきゃいけないんだ!」
灰谷「やめとけやめとけ! どうせ面白くないから!」
河野「一発ギャグしまーす!」
灰谷「やめとけやめとけ!」
河野「ああ、その手があったか! その手が温ったか、ミルクティー!」
灰谷「面白くなーい!」

44 同・舞台袖(夜)
  二人のネタを見て、笑っている上倉。
  そこへ、村田がやってきて。
村田「お疲れ様でした〜」
上倉「(笑顔のまま)お疲れ〜。……あ、村田くん、ちょっといい?」
村田「はい?」
上倉「最近入った若い二人、面白いね〜」
村田「……ね〜。そうですね〜」
上倉「あの二人のおかげで、客もずいぶん増えてさ。売り上げもかなり伸びてんだよ」
村田「お〜、良かったじゃないですか」
上倉「そ〜う。だからさ、村田くん……もういいよ?」
村田「……はい?」
上倉「結構人手も足りてきたし。うん。明日から来なくて大丈夫だから」
村田「……えっ……」
上倉「いや〜、今までホント、お疲れ様」
村田「……いやっ……あの……ぜ、全然、まだまだ、やれます……しっ……あのっ……」
上倉「人件費とか色々さ……わかるでしょ?」
村田「……」
上倉「俺、村田くんにはホント世話になったと思ってんの。人手足りなかった時にちょうど来てくれてさ。ホント助かったよ。ありがとう!」
村田「……いや……あの……」
  上倉、二人のネタを見て、再び笑い出す。
村田「……」

45 桜木団地・佐原家(夜)
  光一、入ってくる。
  寝室に向かい、ドアを開け、
光一「……俺、会社クビになるかもしんない」
  返答はない。
光一「……」
  ドアを閉める。
  そこへ、村田から着信。
光一「……もしもし」
村田の声「もしもし? 光ちゃん?」

46 アパート・村田の部屋
  壁に寄りかかって電話している村田。
光一の声「どうした?」
村田「いや……やっぱり返そうかなと思って」
光一の声「え?」
村田「……DVD」
  村田の視線の先に、DVD。

47 桜木団地・佐原家
  電話している光一。
  以下、前シーンと随時カットバック。
光一「いや……いいって。やるよ。お守りみたいなもん(なんだろ) ――」
村田「(遮り)もういらなくなった」
光一「……」
村田「明日の朝、返しに行っていい?」
光一「そう。じゃ、ポストにでも入れといて」
村田「分かった」
光一「……今だから言うけど、あのDVD、元々姉ちゃんので。大ファンなんだって、バナナマン。勝手に貸したっつったら、めちゃくちゃ怒られたよ」
村田「うん」
光一「……俺、子供の頃からずっと、みんなが笑ってる時……俺だけ笑えなかった。何が面白いのか分からなくて。周りから『ノリ悪い』とか『空気読め』とか言われて」
村田「うん」
光一「だから、必死こいて誰かを笑わせようとか、そういうの、全部下らない、しょうもないって思ってたし、お前のことも、内心ずっとバカにしてた」
村田「……うん」
光一「でも、今のお前見てたらさ……そう思うこともなくなったよ。誰かを笑わせようとする人は、自己満足とか、承認欲求とか、そういうもの抜きにして、自分の感情よりも、他人の感情を優先できる、そんな優しくて強い人なんだって」
村田「……」
光一「昔の姉ちゃんもそうだったんだ。学校に馴染めなかった時、姉ちゃんだけが味方だった。だから……なんでだろうな。俺はただ……昔の姉ちゃんに戻ってほしいだけなのに。……うまくいかないな」
村田「……」
  光一、電話を切り、仏壇の前へ。
  何か言おうとするが、言葉が出てこず、徐々に涙が込み上げてくる。
  嗚咽する光一。
  その姿を朱音が物陰から見ていた。
朱音「……」

48 同・外観(翌日・朝)

49 同・佐原家・寝室
  ドアを開ける光一。
  ベッドに座る朱音に声をかける。
光一「じゃ、行ってくるから」
朱音「……」
光一「パスタ、冷凍庫入れといたから。昼になったらチンして食べて」
朱音「……」
光一「……じゃ(と、出て行こうとするが)」
朱音「ごめんね」
光一「ん? ……何が?」
朱音「ごめん……。私のせいで……ごめんね……」
光一「……いいよ。今更何言ってんだよ」
  朱音、光一に駆け寄って。
朱音「全部私のせいだからぁ! 光一何も悪くないの! 私が全部悪いから!」
光一「いいって、もう分かったから。会社遅れるって」
朱音「(遮り)私がいるからぁ! 私がいるからみんな不幸になってくのぉ……私がいなければぁ……」
光一「……」
朱音「ごめんなさぁあぁい……」
  朱音、大声で泣き始める。
  光一、朱音を見て、たまらなくなり、
光一「……俺姉ちゃんのこと許してないから」
朱音「……(その言葉に驚き、顔を上げる)」
光一「私のせいって、当然だろ。それを俺に言って何? それで何か解決になるわけ?」
朱音「……」
光一「姉ちゃんがあんな馬鹿なことしなかったら、俺たち今頃幸せだったんだよ。一人暮らしして、お互い仕事も頑張って、年末家族揃ってすき焼きとか食べてさ、そういう……(と、言葉にならない)」
朱音「……」
光一「俺だって友達とか彼女とか欲しかったし、夢だってあったんだよ。それ全部捨てて、ずっと姉ちゃんの世話してさ。……なんなんだよ俺の人生」
朱音「……」
光一「頼むから……もう俺に迷惑かけないでくれよ」
  光一、出ていく。
朱音「……(放心)」

50 同・外〜道
  光一、桜木団地を出て、歩き続ける。
  怒りの表情だが、どこか苦しく。
  だんだんと辛く、悲しく、そして、朱音の身を案じ、焦る。
  徐々に歩みを止め、立ち止まる光一。
光一「……」
  光一、急いで引き返す。

51 同・外/屋上(随時カットバック)
  戻って来た光一。
  見上げると、朱音が屋上の柵の外に立っている。
光一「……!」
  光一、急いで向かおうとすると、下で朱音を見上げている村田を見つける。
  手にはあのDVD。
  光一、思わず立ち止まり、
光一「村田……」
村田「……朱音さん!」
  屋上の朱音。
朱音「……!(村田を見て)」
  朱音に向かって話す村田。
  それを見ている光一。
  以下、屋上の朱音と随時カットバック。
村田「僕は、大学入って数ヶ月で大学を辞めて、芸人になりました。養成所に入ってもダメで、地下芸人になりました。5年間やってきたけど、一度も客にウケたことがありません。後輩にはバカにされて、支配人には怒られて、とうとうクビになりました、昨日」
朱音「……」
村田「でも、俺、今、幸せです。だって、面白いでしょ、こんな奴。今までで一番面白いエピソードトークができました」
光一「……」
村田「自分にとっては辛いことでも、周りにとっては笑えることだったりする。悲劇だったことが喜劇に変わることだってある。だから後悔してません。この5年間は無駄じゃなかった。人を笑わせようとしてきたことは決して間違ってなかったんだって」
朱音「……」
村田「だから、あなたも間違ってない。誰かを笑わせようとすることは、誰かを救うことだから。自分を許さなくてもいい。前に進まなくてもいい。どんなに今が辛くても、全部笑いに変えればいい」
朱音「……」
村田「……というわけで、ネタやりま〜す! 世の中にある『幸せを感じる瞬間』をリズムに乗せて歌いたいと思います!」
  村田、リズムに乗って踊り始める。
朱音「えっ……」
村田「ジュースを買ったら2本当たっちゃった! ハッピッピ、ハッピッピ、ハッピッピーのーピー!(と、「P」のポーズ)」
光一「……」
村田「牛乳飲んだら背ぇ伸びた! ハッピッピ、ハッピッピ、ハッピッピーのーピー!」
光一「……」
  光一、村田の隣に行く。
村田「……(気づいて、笑って)」
光一「……」
村田「冷蔵庫開けたらプリン入ってた! ハッピッピ、ハッピッピ、ハッピッピーのーピー!」
  光一も、恥ずかしそうに小声で歌いながら、村田の真似をしてぎこちなく踊る。
村田「……(光一を見て)」
光一「あ……えー……卵……片手で割れたらなんか嬉しい……」
光一・村田「(互いに見合わせて)ハッピッピ、ハッピッピ、ハッピッピーのーピー……!」
  屋上の朱音。
  遠くに踊っている村田と光一が見える。
朱音「……」
村田「色々あったけど、まだ生きてる!」
光一・村田「ハッピッピ、ハッピッピ、ハッピッピーのーピー!」
朱音「……」
  朱音、静かに泣き出す。
  団地の下、住民たちが集まっている。
住民1「(見上げて)おい! 何やってんだ!」
  住民たち、急いで階段を登り出す。
  何人か光一と村田を怪訝な顔で見ている。
光一「唐揚げ弁当食べてる時!」
光一・村田「ハッピッピ、ハッピッピ、ハッピッピーのーピー!」
  階段を駆け登る住民たち。
  踊っている光一と村田。
  それを見ている朱音の背後。
光一と村田の声「ハッピッピ、ハッピッピ、ハッピッピーのーピー!」
  「クスッ」と笑い声が聞こえ、暗転。

タイトル『滑稽』

【了】

「【第36回フジテレビヤングシナリオ大賞一次通過作】『滑稽』」(PDFファイル:524.17 KB)
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