【主な登場人物】
◯Side-A 春沢唯
・春沢唯(20) 患者
・甲斐健(20) 大学2年
・春沢美紀(47) 唯の母親
・脳外科医/山根
・看護師A
・受付
◯Side-B 甲斐健
・甲斐健(16~20) 高校1年~大学2年
・春沢唯(16~20) 高校1年~大学2年
・伊藤(16~20) 甲斐の友人 高校1年~大学2年
・春沢美紀(43~47) 唯の母親
・脳外科医/山根
・看護師B
・教師/鈴木
・学年主任/松永
【本編】
1 暗闇
暗闇の中、救急隊員の声や、野次馬の声など、救急搬送をされているような音声が聞こえる。
やがて、救急車のサイレン。
徐々に大きくなって……。
タイトル『繰り返す、春』
2 字幕『Side-A 春沢唯』
3 白浜総合病院・2階病室
病室の天井。
男の声で「あっ……」と声が聞こえる。
ベッドで目を覚ました春沢唯(16?)。
唯、ゆっくり起き上がると、目の前には制服姿の甲斐健(16?)がいる。
唯「あれ……?」
甲斐「頭……大丈夫ですか?」
唯「え……?」
甲斐「いや……あの……階段から落ちたから」
唯「私……階段から落ちたんですか?」
甲斐「うん……はい」
唯「あなたは……?」
甲斐「1年C組……じゃなくて、階段から落ちたの見てて……救急車呼んだんすよ」
唯「あぁ……ごめんなさい、あまり覚えてなくて……」
甲斐「きっと頭打って記憶が飛んでるんですよ。きっと……すぐに思い出します」
唯「そうですか……」
甲斐「俺、甲斐健って言います」
唯「カイ……?」
甲斐「あ……えっと……『苦労した甲斐があったな~』……の……甲斐……です」
唯「あぁ……」
甲斐「で、あなたは春沢唯さん。俺たち、同じ高校の同級生なんですよ」
唯「そうなんですね……」
甲斐「じゃ! ……そろそろ、失礼します! お大事に!」
甲斐、病室を出る。
唯「……」
4 同・2階廊下
唯、病室を出て、廊下を歩いている医師・山根に話しかける。
唯「あの……」
山根「春沢さん。おはようございます。あっ……目が覚めたんですか。私、医師の山根といいます」
唯「はい。あの、ここって……病院ですよね……?」
山根「……はい」
唯「私って……階段から転げ落ちて……記憶喪失になってるんですか?」
山根「……そうです」
唯「……本当ですか?」
山根「……はい」
唯「これ、先ほどお見舞いに来た方から聞かされたんですけど……あの、どういったご関係なんですか……?」
山根「いえ、別に……。すみません。診察がありますので」
唯「え? あっ……」
山根、去っていく。
5 同・2階病室(日替わり)
ベッドで過ごしている唯。
そこへ、甲斐が入ってくる。
甲斐「……ども」
唯「……どうも」
甲斐「えー……まあ、いろいろあって、僕が春……沢さんの連絡係になりました! といっても、連絡することは特にないんですけど……。とにかく、今日から毎日来ますので!」
唯「え……いいですよ、そんな」
甲斐「いや……毎日来ます。……絶対」
唯「はぁ……」
甲斐「というか……タメ口でも……いい?」
唯「え?」
甲斐「ほら……一応……同級生だから」
唯「いや……でも、私あなたのことよく知らないし――」
甲斐、突如手をパンッと叩く。
唯「(ビクッとして)えっ……? ……あ……すみません……」
甲斐「いや……違う、ごめん……。別に怒ってるとかじゃなくて……」
唯「……(怯えている)」
甲斐「口調だけでも距離を縮めたいんだ。……いいかな?」
唯「はい。どうぞ。すみません……」
甲斐「いや、うん……。ありがとう」
6 同(日替わり)
唯と甲斐が話している。
甲斐「『ハル』……って、呼んでもいいかな?」
唯「……ハル?」
甲斐「いや……『春沢さん』って呼びづらくて。……『さん』をつけるだけで急激に距離を感じるんだよね」
唯「どうしてそんなに……こう……距離を詰めたがるんですか?」
甲斐「……ごめん。気持ち悪いかな?」
唯「……いえ、ただ気になったので」
甲斐「なんで……。なんでかな……。わかんないや」
唯「……まあ、好きに呼んでください」
甲斐「ありがとう……」
7 同(日替わり)
唯と甲斐が話している。
甲斐「……すべらない話してもいい?」
唯「えっ……?」
甲斐「僕……俺には、伊藤っていう友人がいるんだけど……」
× × ×
甲斐「で、なんか花粉症かなんかしんないけど、そいつ鼻水ダラダラでさ……」
唯「(困惑しながらも、微笑む)」
甲斐「(急に黙り)……」
唯「……? どうしました……?」
甲斐「(なぜか涙をこぼし)……え? ……いや、ごめんごめん、続きね。えっと……なんだっけ……」
唯「……???」
甲斐「(泣きながら)そう、そしたら、その……伊藤が……」
唯「な……なんで泣いてるんですか……!? これ、笑い話ですよね?」
甲斐「(泣きながら)……その……鼻水を……」
8 同(日替わり)
病室に入ってくる甲斐。
甲斐「これ……お見舞いに」
甲斐、レモンを差し出す。
唯「え?」
甲斐「レモン……好きかなと思って」
唯「……私が好きなのは……これじゃなくて……えっと……なんというか……」
甲斐「……」
唯「ごめんなさい。せっかく買っていただいたのに」
甲斐「そう言うと思って……メロンも買ってきた」
甲斐、メロンを差し出す。
唯「あぁ、それ。それです。ありがとうございます……じゃあ、(レモンを指差して)これ買う必要なくないですか?」
甲斐「じゃあ、せっかくだからレモンも……」
唯「いえ! ……大丈夫です。私……あの……すっぱいの苦手なので」
甲斐「……そっか」
そこへ、唯の母・春沢美紀(47)が入ってくる。
美紀「(甲斐を見て)……!」
甲斐「……(軽くお辞儀)」
美紀「……」
9 同(時間経過)
甲斐が帰った後。
唯と美紀が話している。
唯「あなたは……?」
美紀「私は……あなたのお母さんです」
唯「あっ……そうなんですか……(敬語に気づき)あ、いや、えっと……」
美紀「……いいわよ。敬語で。……今は私のこと覚えてないんだから」
唯「……すみません……」
美紀「さっきの、甲斐くん?」
唯「え、あ、はい……お知り合いですか?」
美紀「(なぜか答えず)どう? 彼」
唯「悪い方ではないと思うんですけど……なんかちょっと変といいますか――」
美紀「そう。彼と……仲良くしてあげてね」
唯「え?」
美紀「じゃあ、私帰るから」
美紀、病室を出る。
唯「……」
扉が閉まる音とともに暗転。
10 同(日替わり)
唯と甲斐が話している。
唯「(ふと思い出し)そういえば……学校から連絡って……」
甲斐「あー……まだなんじゃない? ……そ、それよりさ、これ……」
唯「……(何か引っかかる)」
11 同・2階廊下
廊下を歩く看護師Aに声をかける唯。
唯「あの……学校から連絡って……」
看護師A「あー……まだ来てないみたいですけど……」
唯「でも、もうだいぶ時間経ってますし」
看護師A「……失礼します」
看護師A、去っていく。
唯「あ、あの!」
看護師A、無視して行ってしまう。
唯「……(やはり何かが引っかかる)」
暗転。
12 同・2階病室(日替わり)
唯と甲斐が話している。
唯「……そろそろ退院してもいい頃じゃないですかね?」
甲斐「……え?」
唯「頭も痛まないし、もうケガも治ってると思うんですよね」
甲斐「でも……ね? ……まだ早いんじゃないかな……?」
唯「……(さすがに不信感)」
13 同・受付
受付にやってきて、声をかける唯。
唯「すみません」
受付「はい」
唯「あの……医師の……えっと……あの……やま……」
受付「……山根先生?」
唯「そう。そうです。山根先生。今どちらに?」
受付「ああ。今は診察中で、診察室にいます」
唯「その……診察室は、どうやって行けば?」
受付「あー……階段降りて右ですけど……今診察中ですよ?」
唯「ありがとうございます!」
唯、階段へ向かう。
受付「あ、ちょっと!」
14 同・階段
階段を下りていく唯。
視界がぼやけ、転びそうになる。
15 同・1階廊下
階段を降りた後の唯。
その時、一瞬、廊下にいた一同が笑いながらこっちを見ている。
唯「……!」
唯、恐怖を感じるが、そのまま診察室へ向かう。
16 同・診察室
唯、診察室に入ってくる。
診察中の山根医師、驚いて、
山根「春沢さん!? どうしたんです、急に!」
唯「退院させてください! もうケガは治ってます!」
山根「……いや、無理ですよ。第一まだ記憶が戻ってないのに」
唯「じゃあ……じゃあせめて外出をさせてください!」
山根「外出も……できません」
唯「なぜですか!」
山根「……」
唯「私は……本当に高校生なんでしょうか? 学校からの連絡もないし! おかしくないですか!?」
山根「……今、診察中ですから!」
山根、唯を追い出す。
17 同・1階廊下
唯、追い出され、扉を閉められる。
唯「……(怯えている)」
18 同・病室(夜)
ベッドでうずくまっている唯。
唯「(怯えながら)おかしい……何かがおかしい……(と、震えている)」
そこへ、甲斐が入ってくる。
甲斐「……やっと気づいたか」
唯「……!?」
甲斐「おかしいよなぁ? 学校からの連絡もない。君を絶対に病院から出そうとしない。……なんでかわかるか?」
唯「……(震えている)」
甲斐「ここが病院じゃないからだよ!」
唯「……!」
甲斐「この国は……極秘に人体実験を行ってるんだ。もちろん国を良くするためにね」
唯「……!?」
甲斐「その辺の人間ランダムに選んで、記憶を消して、ここに収容するんだ。君がその第1号ってわけさ!」
唯「じゃあ……私は……」
甲斐「高校生じゃなーい! 別人として戸籍登録するためのウ・ソ」
唯「……!(と、逃げようとするが)」
甲斐「(ナイフを出し)おーっと動くなよ? 逃げても無駄さぁ。ここにいる人間全員グルなんだから」
唯、甲斐の後ろを見ると、美紀、山根医師、看護師含めた大勢が笑いながらこちらを見ている。
唯、うめきながらうずくまる。
甲斐たち、笑っている。
その笑い声が響く……。
19 同(時間経過・朝)
唯、まだうずくまっている。
甲斐、入ってきて、
甲斐「時間だ。行くぞ」
唯「……! ……嫌!」
唯、窓側に寄りかかる。
甲斐「抵抗しても無駄だってば」
唯、過呼吸になりながら窓を開ける。
甲斐「全く……(廊下に向かって)おい、こっちだ」
美紀、山根医師、看護師Aら大勢がやってくる。
唯「……(過呼吸)」
甲斐「(ゆっくり近づきながら)さあ……こっちへおいで」
唯「……(過呼吸激しく)」
甲斐「(ゆっくり近づきながら)何。怖がることはないさ」
甲斐、唯の目の前へ。
唯「……!」
甲斐「この国の……未来のためなんだから」
唯「うぁ……あぁ……うああああぁぁぁぁ!」
唯、窓から飛び降りる。
20 同・駐車場
唯、着地。
足を痛めるも、そのまま逃げていく。
21 路上
足を痛めながら走る唯。
道行く人に「助けてください……」と助けを求めるが、困惑されるだけで助けてもらえない。
22 路地裏
唯、路地裏の行き止まりに差し掛かる。
急いで引き返そうとするも、甲斐が到着してしまう。
唯「あ……あぁ……」
やがて美紀、山根医師、看護師らも到着する。
甲斐、駆け寄ってくる。
唯「(恐怖で)あぁ! あぁ! あぁ! ああああああぁぁぁぁぁぁ……」
気が付くと、甲斐は唯を抱きしめていた。
唯「……(スイッチが抜けたように)誰?」
プツリと暗転。
唯の声「……あなた、誰?」
23 字幕『Side-B 甲斐健』
24 字幕『2018年 春』
25 白浜高校・1年C組教室
ひどい雨模様の校庭。
授業中らしく、教師の声が聞こえる。
窓側に座ってその景色を憂鬱そうに見つめている甲斐健(16)。
甲斐「……」
26 同・昇降口~正門
昇降口で靴を履き、傘を差して友人の伊藤(16)と話しながら正門まで歩いている甲斐。
伊藤はカッパを着て自転車を転がしている。
甲斐「雨の日くらい休校にしろよな、全く」
伊藤「なー。なんでこんなずぶ濡れになってまで学校来なきゃなんねんだよ」
甲斐「事故にでもあったらどう責任取ってくれるんだっつーの」
伊藤「つか、雨の日は国民の休日にすべきだよな。そうすればもっと日本は豊かになる」
二人、正門に着く。
甲斐「そーいやお前、雨の日でも自転車なんだな」
伊藤「あー(着ているカッパをつまみ)まあ、俺にはこのカッパくんがついてるからな」
甲斐「いーなー、自転車通学」
伊藤「俺は自転車だからいいけど、お前には一緒に帰ってくれるお友達はいないのか?」
甲斐「(カバンからイヤホンを取り出し)まあ、俺にはこのイヤホンくんがついてるからな」
伊藤「あっそ。じゃまたな」
甲斐「おう」
伊藤、自転車で去っていく。
甲斐、イヤホンをし伊藤と別方向に歩く。
27 路上
降りしきる雨の轟音が響く中、イヤホンをして歩道橋の階段に向かって歩いている甲斐。
甲斐の目の前には一足先に歩道橋の階段を登っている一人の女子生徒。
階段を登り切った後、忘れ物に気づいたらしく、カバンを開け、来た道を引き返そうとしたその瞬間、足を滑らせる。
雨の轟音が無音になり、階段をスローモーションに転げ落ちていく女子生徒。
甲斐は驚きの表情でそれを見ていたが、女子生徒が地面に倒れた後、イヤホンを外し、急いで彼女のもとへと駆け寄る。
甲斐「あの……大丈夫ですか……?」
返答はない。
甲斐「えぇっ……ちょっ……救急車……」
携帯を取り出す甲斐。
× × ×
騒いでいる野次馬たち。
救急車が到着する。
救急隊員2人、降りてきて、倒れている女子生徒をストレッチャーに乗せて救急車に運び、運転席に戻っていく。
しばらくして、サイレンを発しながら救急車が走っていく。
一部始終を見ていた甲斐、去っていく救急車の背中に書いてある「白浜総合病院」の文字を見ていて。
甲斐「……」
28 白浜総合病院・2階病室
病室のベッドで目を覚ます春沢唯(16)。
唯の前に座っている制服姿の甲斐、それに気づく。
甲斐「あっ……」
唯「あれ……?」
甲斐「あの……頭、大丈夫ですか?」
唯「はい……?」
甲斐「あーいや、違う違う、そうじゃなくて……階段から落ちたから」
唯「あぁ……」
甲斐「お医者さんは軽い脳挫傷ですとか言ってたけど……。そもそも脳挫傷って何なのかよくわかんなくて」
唯「あなたは……?」
甲斐「あーその……目の前で落ちてくのを見たんで、救急車呼んだんすよ俺」
唯「あぁ……ありがとうございます……」
甲斐「あーいやいやそんな……」
唯、甲斐の制服を見ている。
甲斐「(気づき)あっ……そういや、同じ高校……っすよね、俺ら」
唯「はい……。1年B組の、春沢唯です」
甲斐「あ、やっぱクラス違う……。1年C組の甲斐健です」
唯「……カイ……?」
甲斐「あぁ……あの、『苦労した甲斐があったな~』の甲斐です」
唯「あぁ……」
甲斐「じゃあ俺、もう行きますわ。そろそろ親御さん来ると思うし」
廊下から走る足音が聞こえてくる。
甲斐「ほら来た。やっぱり。ジャスト」
甲斐、病室を出る。
唯の母・春沢美紀(43)が入ってくる。
美紀「唯! 大丈夫なの? あんた!」
唯「うん……」
甲斐「失礼しましたー……」
甲斐、扉を閉める。
29 白浜高校・1年C組教室(日替わり)
昼休み、甲斐と伊藤が話している。
伊藤「聞いたぜ。お前、階段から落ちた隣のクラスの女子、助けたんだろ?」
甲斐「え? ……まあ、そうだけど」
伊藤「かっけ~。ヒーロー見参じゃん。これがきっかけで付き合ったりして」
甲斐「普通に気まずい感じで終わったけどな。これが現実」
伊藤「なんだよ、とうとうお前にも春が来たと思ったのに」
甲斐「……まあ、春沢さんって人だから、間違ってはない……か?」
B組担任・鈴木、教室に入ってきて、
鈴木「甲斐、いるー?」
甲斐「え? (手を挙げ)はい……」
鈴木「ちょっといいか?」
伊藤「お、説教?」
甲斐「……?」
30 同・廊下
鈴木と甲斐が話している。
甲斐「……俺がですか?」
鈴木「ああ、クラスの中で春沢に連絡を回してくれる人を募ったんだが、誰も名乗り出てくれなくてな。しょうがないからお前に頼もうと思って」
甲斐「はあ……別にいいですけど……」
鈴木「おー、良かった。じゃ、頼むな」
鈴木、甲斐に大量のプリント、ノートを渡し、去っていく。
甲斐「……友達、いないのか?」
甲斐、ノートに書かれた「春沢唯」の文字を見ている。
31 白浜総合病院・2階病室
唯の病室に甲斐が入ってくる。
甲斐「……っす……どうも」
唯「……(軽くお辞儀)」
甲斐「えー……まあ諸事情により……僕が春沢さんの連絡係ということになりまして……(大量のプリントを渡し)これ、プリントです」
唯「あぁ……ありがとうございます」
甲斐「どんくらいで退院できそうすか……?」
唯「医師からは1週間ほどで退院できると言われてます」
甲斐「おー、良かったじゃないすか。(小さく拍手し)おめでとうございます」
唯「……なんか、変な感じですね。同い年なのに敬語って」
甲斐「あー……最初は初対面だから敬語だけど、こう、やめるタイミング見失っちゃいますよね。いつタメ口に切り替えればいいんだろうって」
唯「……」
甲斐「……じゃ、やめましょう。同時に。俺がこう……パンって叩いたら」
唯「……わかりました」
甲斐「せーの!(手を叩く)」
唯「……」
甲斐「……」
少し長めの沈黙。
甲斐「……天気いいっすねー……」
唯、即座に反応し、甲斐を指差す。
甲斐「違う違う違う違う! だっていざやめるってなったら、何話せばいいかわかんないから!」
唯、指を差したまま、首を振る。
甲斐「え、だって、タメ口で『天気いいねー』とか、言わなくない!?」
唯「言うよ」
甲斐「言わないよ絶対!」
唯・甲斐「……あっ……」
甲斐「……まいっか!」
唯「(うなずき、笑う)」
32 同(日替わり)
病室に入ってくる甲斐。
甲斐「はいどーぞー」
甲斐、プリントを渡す。
唯「ありがとう」
× × ×
甲斐「そしたら、伊藤がさ……」
× × ×
唯「(爆笑)ウソ!」
甲斐「いやいやほんとにほんとに!」
唯「絶対ウソ!」
甲斐「いや、マジだって!」
33 同(日替わり)
甲斐が唯に今日の授業内容を教えている。
甲斐「で、えー、ここがマイナスだから……」
唯「プラスじゃない?」
甲斐「え?」
唯「だって、これ……(長々と説明が続く)」
甲斐「……あれ? 逆転したな、立場」
34 同(日替わり)
病室に入ってくる甲斐。
甲斐「ほい」
甲斐、手に持ったレモンを差し出す。
唯「え?」
甲斐「レモン。この前見舞いにほしいって言ってたろ」
唯「……メロンね。レモンじゃなくて」
甲斐「え、ウソ!」
唯「私すっぱいの苦手だし」
甲斐「まあでも、せっかくだから……(と、レモンを差し出して)」
唯「いい、いい! いいです、結構!」
甲斐「いや、ごめんって……」
看護師B、病室に入ってきて。
看護師B「春沢さーん、ちょっと」
唯「……?」
35 同・出入り口前受付
甲斐と唯、受付のソファーに座っている。
看護師B、唯に声をかける。
看護師B「もうすぐ親御さん迎えに来るから。待っててね」
唯「……はい」
看護師B、去っていく。
甲斐「退院おめでと」
唯「……(か細い声で)うん」
甲斐「……うれしくないの?」
唯「え? いや……学校、行きたくないなーって」
甲斐「あぁ……まあそれはあるな、たしかに」
唯「それに……」
甲斐「……それに?」
美紀の声「唯!」
見ると、そこには美紀が。
甲斐「あっ……」
美紀「行くよ」
唯「うん……(と、立ち上がって)」
甲斐「あ……じゃあ、また!」
唯「(振り返り)……また」
唯、美紀に連れられながら病院を去っていく。
甲斐「……」
36 白浜高校・1年C組教室(日替わり)
昼休み、甲斐と伊藤が話している。
伊藤「とうとう終わっちゃったな、夢のお見舞い生活」
甲斐「まあ、仲良くはなったけど、別に付き合う気とかないから。それに、隣のクラスなんだから、いつでも会えるだろ」
伊藤「はい、それ。一番ダメ」
甲斐「は?」
伊藤「いつでも会える。じゃあ明日でいっか。それも毎日繰り返して? 結局1ミリも、会わない。だから、お見舞いっていう会う理由がなくなった今、その子との関係は、終了」
甲斐「確かに言われてみれば……。用もないのに会いに行くって、変だもんな」
伊藤「ま、そう落ち込むなよ。女なんて星の数ほどいるんだから」
甲斐「いや、なんでフラれたみたいになってんだよ」
伊藤、甲斐の肩に手を置き。
伊藤「(神妙な面持ちで)まあ、まあ……」
甲斐「(伊藤の手を振り払い)ちょ、やめろ! 図星みたいになるだろ!」
37 同・正門
甲斐「じゃあな」
伊藤「じゃあな」
伊藤、自転車で去っていく。
甲斐、イヤホンをし伊藤と別方向に歩く。
38 路上
イヤホンをしながら道を歩く甲斐。
甲斐の前を一人の女子生徒が歩いている。
甲斐、一瞬足を止めかけるが、そのまま追い抜かしていく。
すると、背後から「甲斐くん?」と声が。
甲斐、イヤホンを外し振り返ると、そこには唯が。
甲斐「あっ……春沢さん……」
唯「……久しぶり」
甲斐「……昨日ぶりだけど」
並んで歩く二人。なぜか沈黙。
甲斐「……なんか、あれだね。いつも病院で話してたから、変な感じ。何話していいかわかんなくなっちゃった」
唯「……じゃあ、しりとりでもする?」
甲斐「え?」
唯「しりとり」
甲斐「……リンゴ」
唯「ゴマ」
甲斐「……マジ? 俺、リンゴの後ゴリラって言わない人、初めて見た」
唯「た……太鼓」
甲斐「(吹き出し)違う違う、今のしりとりじゃないから!」
唯「え、でもマジって……」
甲斐「言ったけど! 違うでしょどう考えても!」
× × ×
甲斐「酢豚」
唯「タコス」
甲斐「……水素」
唯「ソース」
甲斐「……なんか、『す』攻めしてない?」
唯「してないよ」
甲斐「……スイカ」
唯「カラス」
甲斐「してるよね?」
唯「してないしてない」
× × ×
唯「ダルマ」
甲斐「マ……マイケル・ジャクソン」
唯「マイケル・ジャクソン……ん?」
甲斐「ん? ……んーーーーー!」
唯「(爆笑)うそでしょ?」
甲斐「うわ……うーわマジで……!」
× × ×
甲斐「てか、今日話すことあったわ。松永が……めちゃめちゃキレて来たの」
唯「松永先生が?」
甲斐「そう。(変顔し)こんな顔して」
唯「(笑って)えー?」
甲斐「マジでこんな顔! いや、そん時はめちゃめちゃ怖かったからね!」
唯「(笑う)」
甲斐「(笑っている唯を見て)……春沢さん」
唯「ん?」
甲斐「……ありがとね」
唯「?」
甲斐「いや……なんか……こんなに人に笑ってもらったの久しぶりというか……初めてっていうか……」
唯「……」
甲斐「いや俺ね。もともと目立ちたがり屋でさ。人前に立ってみんなを笑わせて……そういうことがしたくて」
唯「……」
甲斐「でも中学の時……『つまらん』とか、『調子乗んな』とか、面と向かって言われちゃってさ。(自嘲的に笑い)なんか……もういっかなー……って」
唯「……」
甲斐「だから……今すごい嬉しいんだ。こうやって……春沢さんに笑ってもらえんの。……ほんと……ありがとう!」
唯「……(照れながら)こちらこそ」
甲斐「……」
二人、歩き続ける。
39 白浜高校・教室(日替わり)
帰りのホームルーム後。
帰りの準備をしている甲斐と伊藤。
甲斐、ふと廊下を見ると唯が「よっ」と手を出している。
同じく「よっ」と返す甲斐。
伊藤、それを見て。
伊藤「うーわお前、なんだよー」
甲斐「……なんだよってなんだよ」
40 同・昇降口~正門
甲斐、伊藤、唯が並んで歩いている。
甲斐「(唯に)こいつが伊藤。(伊藤に)で、この人が春沢さん」
伊藤「ども」
唯「(笑いをこらえながら)……どうも」
伊藤「(気づき、甲斐に)え、お前、なんか話した?」
甲斐「話してないよ」
伊藤「あーそう」
唯「(笑いをこらえている)」
伊藤「(唯を見て、甲斐に)話したろ!」
甲斐「話してないって」
三人、正門に着く。
伊藤「しかしあれだな。いざお前に春が来たとなると、それはそれでなんかムカつくな」
甲斐「いいだろ別に。……(伊藤に近づいて小声で)いや、やめろよ春が来たとか言うの!」
伊藤「ムカつくぜ全く」
甲斐「今俺はお前にムカついてるけどな!」
伊藤「じゃー俺は一人で寂しく自転車で帰るから。またなー」
甲斐「ハイ帰ってください。さよーなら」
伊藤、自転車で去っていく。
甲斐と唯、並んで伊藤と別方向に歩く。
唯「春が来たってどういう意味?」
甲斐「……春沢さんが来たって意味じゃない?」
41 路上
甲斐と唯が並んで歩いている。
甲斐「『春沢さん』って、よそよそしいかな?」
唯「え?」
甲斐「あーいや、『春沢さん』って呼び方が」
唯「あー……」
甲斐「なんか、『さん』をつけるだけで急激に距離を感じるんだよね」
唯「たしかに」
甲斐「『春沢』? うーん、なんか違うな……。『唯』? いや、いきなり『唯』呼びはちょっとハードル高いな……」
唯「……『ハル』」
甲斐「あー……伊藤も言ってたし……な……じゃあ、『ハル』で行こうか。今日からあなたは、『ハル』です!」
唯「はい!」
甲斐「……あ、ちなみに春沢さんってさ……」
唯、即座に反応し、甲斐を指差す。
甲斐「……いや、いきなりはむずくない?」
唯、指を差しながら首を振る。
甲斐「徐々に! 徐々にね!」
その後も「ハル」呼びに挑戦するも苦戦する甲斐。
それを聞いて笑う唯。
二人は笑いながら道を歩いていく。
42 字幕『2019年 春』
43 桜が見える河川敷(日替わり)
花見をしている甲斐(17)、唯(17)、伊藤(17)。
唯「ジャ~ン!」
唯、カバンを開いて中に入っている大量のおにぎりを見せる。
甲斐「え、これ、全部ハルが作ったの?」
唯「モチのロン!」
伊藤「あらま~、家庭的」
甲斐「すげ~、ありがと、いただきま~す(と、おにぎりを手に取って)」
伊藤「(甲斐のおにぎりを奪い)いただきま~す。(食べて)ほ~、デリシャス」
甲斐「お前さぁー!」
唯「(笑う)」
伊藤「……にしても本当に春が来ちまったな」
甲斐「な。もう高2か、時の流れは早いな」
伊藤「来年はもうお受験の季節ですよ。全く」
唯「……(うつむく)」
甲斐「やめろよ。今はまだそんなこと考えたくない!」
唯「……高校卒業してもずっと一緒がいいな」
甲斐「……だな」
そこへ、突如美紀がやってくる。
唯「……!」
甲斐「えっ」
美紀「……こんなところにいたのね」
唯「……」
美紀「……行くよ(と、唯の腕を引っ張る)」
甲斐「ちょっ……何ですか突然」
美紀「あなたたち、もう娘には関わらないでくれるかしら」
甲斐「えっ……いや……」
美紀「ほら、行くよ」
唯、美紀に連れられ、うつむきながら去っていく。
伊藤「……こりゃなんか訳ありだな」
甲斐「……」
44 甲斐家・寝室(日替わり・朝)
甲斐、ベッドの上で目を覚まし、スマホを見る。
通知1件、唯からのライン。
『もう一緒には行けない。ごめん』(7:53)
甲斐「(寝ぼけ)ん~? (見て、すぐに目を覚まし)え? ……え!?」
すぐに立ち上がり、唯に電話をかける。
しかし、出ない。
甲斐「んぉぉい、うそだろ……!?」
45 白浜高校・2年A組教室
甲斐が勢いよく入ってくる。
周りを見渡すが、唯の姿はない。
生徒に声をかける甲斐。
甲斐「なあ、ハル……春沢さん、どこに行ったか、知ってる?」
生徒A「さあ……」
甲斐「ッ……」
46 同・2年D組教室
またも勢いよく入って来る甲斐。
甲斐「伊藤!」
伊藤のもとへ駆け寄る甲斐。
伊藤「おう、どうしたんだよ。もう授業始まるぞ」
甲斐「お前、ハル見なかったか?」
伊藤「ハルちゃん? 見なかったけど?」
甲斐「……っそ……どこ行ったんだよ……」
伊藤「……屋上とか?」
甲斐「え!」
伊藤「昨日、なんか思いつめてたから」
甲斐「マジかよ……」
伊藤「あ、いや、そんな大げさなことじゃ……おーーーい!」
教室を猛スピードで出ていく甲斐。
47 同・屋上
甲斐が屋上に出ると、そこには体育座りでうずくまる唯の姿が。
甲斐「何やってんだよ。もう授業始まるだろ」
唯「……ラインしたでしょ? お母さんから関わるなって言われてるから。来ないで」
甲斐「んなこと言われても……同じクラスなんだから……そんなの不可避だろ」
唯「……分かってるけど」
甲斐「……なんで? 俺、なんかした? ……もしかして伊藤が?」
唯「……別に何も」
甲斐「……じゃあなんで?」
唯「甲斐くんたちと一緒にいると、勉強がおろそかになる……ってお母さんが」
甲斐「そんなこと……」
唯「(遮って)そんなことある……ってお母さんが。毎日死ぬ気で勉強して、いい大学に入りなさい。なぜならいい大学に入ればいい人生が待ってると信じてるから」
甲斐「……ハルはそれでいいの? お母さんじゃなくてさ」
唯「……私は別に」
甲斐「噓」
唯「嘘じゃないし」
甲斐「……じゃあ、『高校卒業しても、ずっと一緒がいいな』ってあれは? あれってそういう意味だよね?」
唯「……」
甲斐「俺たちと遊んでた時も、お母さんの目を盗んでわざわざ来てくれたんだろ?」
唯「……」
甲斐「……ごめん。……気づいてやれなくて。……無理させて。……俺ちょっと文句言いに行ってくる!」
甲斐、校舎へと向かう。
唯「え!? ちょっ……待って!」
唯、甲斐を追いかける。
48 同・2年A組教室
鈴木の授業中。
甲斐、勢いよく入ってくる。
鈴木「甲斐、お前、どこ行ってたんだよ! とっくに授業始まってるぞ!」
甲斐「あの……今日体調悪いんで早退します!」
鈴木「え……じゃあ、証明書……」
甲斐「(遮って)証明書はありません! でも、もう限界なんで! ……失礼します!」
甲斐、教室を出て廊下を走る。
鈴木「んなっ……おい!」
唯、勢いよく入ってくる。
鈴木「春沢! お前もどこに……」
唯「……早退します!」
鈴木「えぇ!?」
唯、教室を出て廊下を走る。
49 路上
駅へと走る甲斐とそれを追う唯。
50 白浜駅・ホーム
停車中の電車に乗り込む甲斐。
続いて唯がホームに着くが、その瞬間ドアが閉まる。
唯「ッ……」
51 住宅街
並ぶ一軒家の表札を一個一個確認している甲斐。
甲斐「春沢……春沢……」
と、唯も甲斐に追いつき、
唯「甲斐くん!」
甲斐「ハル……」
甲斐、「春沢」の表札を見つけ、インターホンを押す。
唯「ちょっ……何やってんの!? やめてよ!」
甲斐「……」
唯「ねえ!」
インターホンから美紀の声。
美紀の声「はい」
甲斐「宅急便です」
美紀の声「はい」
美紀、出てくる。
美紀「(甲斐を見て)……!? (唯を見て)唯……? 何やってんの!? 今学校の時間でしょ!?」
唯「……」
甲斐「お母さん!」
美紀「はぁ!?」
甲斐「ハルを……(言い直し)唯さんを解放してあげてくれませんか?」
美紀「……何ですって?」
甲斐「毎日……一人で……孤独で……机の上でカリカリカリカリ……それっていい人生ですか?」
美紀「……」
甲斐「いい大学に入った後も……それを続けさせるつもりですか?」
美紀「……」
甲斐「初めて僕がハッ……(言い直し)唯さんに会った時、彼女はすごく寂しそうな目をしていました。あー……この人、ずっと孤独だったんだなー……と、僕は直感的にそう思いました。でも今は違う……! 今まで誰にも見せなかったような笑顔で! 『楽しい』と言ってくれる! 唯さんは! 誰かと一緒にいたいんです!」
美紀「……あなたに何がわかるの?」
甲斐「……」
美紀「あなたに唯の何がわかるの? 私は! 唯のためを思って! 旦那が死んでからずっと! 1人で必死に育ててきたの! だいたいあなたが勝手に唯に関わってきて! 唯をいろんなとこ連れ回して! それで唯がおかしくなったのよ!」
唯「お母さん!」
美紀「……!」
唯「……(涙声で)もうやめて」
美紀「……」
唯「(涙声で)私は……おかしくなんかなってない……」
美紀「……」
春沢「(涙声で)私……私は、一緒にいたい」
美紀「……」
唯「(勇気を出して、涙声で)甲斐くんたちと……一緒にいたい……!」
美紀「……唯……何言いだして……」
唯「……(涙で声にならない)」
美紀「……」
甲斐「……俺、バカだから……勉強のこととかなんもわからないけど……少なくとも今は……唯さんの自由を……尊重してあげてください……。受験期になったら……僕も支えますから」
美紀「……好きにしなさい」
唯「……ありがとう」
美紀「……(なぜか涙を流す)」
甲斐「……っし……行くか」
唯「え?」
甲斐、唯の手を取る。
甲斐「勉強なんかバカバカしくさせてやるよ」
甲斐、唯の手を引っ張り、走る。
唯「ちょっ……え、甲斐くん?」
52 アミューズメント施設(モンタージュ)
卓球、ダーツ、ミニボウリング、バッティング、ゲームセンター、ローラースケートなどで遊ぶ甲斐と唯。
卓球では、甲斐のスマッシュを唯がカウンタースマッシュで倒したり、ローラースケートでは、二人そろってバランスを崩し倒れ、仰向けになって笑ったり。
53 同・カラオケ
歌い終わる甲斐。
拍手している唯。
甲斐「(唯にマイクを渡し)はい! ハルもなんか歌って!」
唯「え? いいよ、私は」
甲斐「お願い! 一曲だけ!」
唯「えー? しょーがないなー」
唯、選曲用の機械を持って、
唯「うーん、でも、何歌えばいいかわかんないな……」
甲斐「じゃあ、俺、決めよっか?」
唯「お願い」
甲斐、選曲用の機械を手に取り、送信。
と同時にこっそりスマホのカメラを起動。
テレビに「春の歌 スピッツ」と出る。
唯「絶対タイトルで選んだでしょ?」
甲斐「いや、もうこれしかないっしょ」
× × ×
唯「♪春の歌 愛と希望より前に響く~」
甲斐、唯の歌を聴きながら、スマホで唯を撮っている。
× × ×
唯「♪遮るな どこまでも続くこの道を~」
アウトロが流れる中、唯がふと甲斐を見ると、自分を撮っていることに気づく。
唯「ちょっ……撮んなし!」
唯、スマホのカメラを手でふさぐ。
甲斐「だって、レアじゃん。ハルが歌う姿」
唯「あー、じゃあもう、次、甲斐くんが歌うとこ、YouTubeで生配信するわ」
甲斐「いや、それはやめて! それだけは!」
小悪魔的に笑う唯に甲斐もつられて笑う。
54 白浜高校・職員室(日替わり)
甲斐と唯が学年主任・松永に頭を下げている。
甲斐・唯「すいませんでしたーーー!」
松永「(甲斐のモノマネ通りの怖い顔で)全く! お前ら学校なめてんのか!」
甲斐「すいません!」
55 同・職員室前廊下
甲斐、職員室のドアを閉めながら。
甲斐「失礼します!」
並んで廊下を歩く甲斐と唯。
唯「(ケロッと)結構似てたね」
甲斐「(若干テンション低く)ほらな? あー……怖かった……」
笑いながら廊下を歩く二人。
突然、プツリと暗転。
56 字幕『2020年 春』
57 路上(日替わり)
桜舞う路上を歩く、通学中の甲斐(18)と唯(18)。
楽しく話している二人だったが、突然、唯がめまいを起こし、倒れそうになる。
甲斐、慌てて支え。
甲斐「……大丈夫?」
唯「うん……」
甲斐「昨日、あんま寝てないっしょ?」
唯「……最近、全然眠れなくて」
甲斐「えー? なんかゲームでオールでもしてた?」
唯「……いや……」
唯、頭痛がして頭を抑える。
甲斐「ハル?」
唯「(とっさに手を下げ)ん?」
甲斐「……」
58 白浜高校・3年E組教室
唯、入ってきて、自分の机へ。
カバンの中をまさぐると、筆箱がないことに気づき、伊藤のもとへ。
唯「伊藤くん、ごめん。シャーペンと消しゴム借りてもいい? 筆箱忘れちゃって」
伊藤「え? ああ、いいよ。珍しいね。忘れ物なんて」
伊藤、ペンと消しゴムを渡す。
唯「……ありがとう」
59 路上
帰り道、並んで歩いている甲斐と唯。
左右分かれ道に突き当たった時、唯がいつもと逆方向へ進もうとする。
甲斐、慌てて止めて。
甲斐「ちょちょちょちょちょ! (正しい方向を指差し)こっちこっち!」
唯「あ……あれ? ……そっか……」
甲斐「マジで今日帰って速攻寝たほうがいいよ。頭バグってるから」
唯「……うん」
60 白浜高校・3年E組教室(日替わり)
鈴木の授業中。
鈴木「はい、じゃあ課題チェックするから机の上出してー」
クラスのほぼ全員ノートを机の上に出す。
しかし、唯は何のことかわからず、戸惑っている。
鈴木は次々とチェックしていき、ついに唯のもとへ。
唯「……」
鈴木「春沢? 出てないぞ?」
唯「……」
鈴木「……忘れか」
鈴木、名簿にチェックを入れる。
唯「あの……」
鈴木「?」
唯「課題なんて……出てましたっけ……?」
鈴木「は?」
伊藤「(聞いていて)……!?」
鈴木「何言ってんだよ……。前の授業で出しただろ? ごまかすならもっとうまくごまかせよ……」
唯「すみません……」
伊藤「……」
61 ファミレス
甲斐と唯、向かい合って座り、日本史一問一答を片手に問題を出し合っている。
唯「1600年に起こった、『天下分け目の戦い』と称された戦いは……」
甲斐「関ヶ原の戦い!」
唯「ですが……」
甲斐「なー! 『ですが』問題!」
唯「その戦いで徳川家康が破ったのは誰?」
甲斐「はいはい……なるほど……ちょっと待って……? ……はい! 徳川光圀!」
唯「不正解!」
甲斐「だー! くそー!」
唯「正解は石田三成でしたー!」
甲斐「うわ! そうじゃん! うーわ……」
唯「でも『みつ』だけ合ってたから。惜しかったね」
甲斐「全然惜しくねーよ!」
唯「(笑う)」
甲斐「ヤバいな俺、バカすぎんな……行けるかな、慶明大学」
唯「大丈夫だよ、まだ春だし」
甲斐「そう?」
唯「それに、私だって受かるかわかんないし」
甲斐「ハルは受かるだろ、英才教育ガチガチに受けてんだから」
唯「……」
甲斐「じゃあ、交代! お手本見せてよ、お手本!」
唯「え……あぁ、うん……」
甲斐「えー、鎌倉幕府滅亡につながった、鎌倉攻めをした人物は?」
唯「(なぜか出てこず)……」
甲斐「あれ? 正解は、新田義貞!」
唯「あっ……あー……そうだそうだ……」
甲斐「じゃあ……家臣の明智光秀に攻められる本能寺の変で敗死した戦国武将は? ……ってこれ、簡単すぎか!」
唯「(なぜか出てこず)……」
甲斐「……マジ? 信長だよ?」
唯「(無理やり笑い)知ってたし! 冗談冗談!」
甲斐「……焦った~! 脅かすなよ!」
唯「ごめんごめん……」
唯、無理やり笑っているが、泣きそうになっている。
62 春沢家・リビング
帰ってきた唯がリビングに入ってくる。
美紀はキッチンにいる。
唯「ただいま」
美紀「おかえり」
唯「……お母さん」
美紀「ん?」
唯「私……」
美紀「……」
63 路上(日替わり・朝)
いつもの待ち合わせ場所にいる甲斐。
しかし、唯の姿がない。
甲斐「……?」
甲斐、スマホを見ると、通知1件。
唯からのライン。
『ごめん。今日休む』(7:47)
甲斐「……」
64 白浜高校・3年E組教室
甲斐が入ってくる。
甲斐「伊藤!」
伊藤「どうした?」
甲斐「ハル、今日休みか?」
伊藤「ああ、休みだけど」
甲斐「そうか……」
伊藤「……なあ、最近、ハルちゃんの様子、おかしくないか?」
甲斐「え?」
伊藤「筆箱忘れたり、課題忘れたり……。課題に至ってはその存在すら忘れてたんだぜ? そんな感じじゃなかったじゃん、今まで!」
甲斐「……そうなの?」
伊藤「お前も、なんか心当たりないか?」
甲斐「言われてみれば……」
伊藤「……なんかあったんだろうな」
甲斐「……」
65 同・正門
甲斐と伊藤、別れ際。
伊藤「まあ、なんかあったら連絡しろよ」
甲斐「わかった」
伊藤、自転車で去っていく。
甲斐、伊藤と逆方向に歩きながらスマホを見る。
唯とのトークルーム。
『大丈夫?』(8:25)
『なんかあった?』(8:25)とラインしているが、未読のまま。
甲斐「……」
66 路上
甲斐、歩きながら唯に電話をかけているが、出ない。
唯とのトークルーム。
『応答なし』3件。
甲斐「……」
67 住宅街・春沢家の前
甲斐、春沢家のインターホンを押す。
美紀の声「はい」
甲斐「甲斐です」
美紀「……はい」
美紀、出てくる。
なにやら目が腫れている。
美紀「……何か用?」
甲斐「あの……唯さんは今……どちらに?」
美紀「……さっき出てったわ。どこに行ったかは知らない」
甲斐「あの……何かあったんですか……?」
美紀「それは……本人の口から聞きなさい」
美紀、家の中へ戻っていく。
甲斐「……」
68 路上(モンタージュ)
路上で唯を探している甲斐。
「ハル―!」と声をかけるが、なかなか見つからない。
69 公園(夜)
甲斐、息を切らしながらふと公園を見ると、そこにはブランコに座る唯が。
甲斐「……! ハル!(と、唯に駆け寄る)」
唯「……! 甲斐くん……」
甲斐「どこ行ってたんだよ。探したぞ」
唯「……ごめん」
甲斐「……なんかあった?」
唯「……別に」
甲斐「別にじゃないだろ」
唯「なんもないって」
甲斐「もう一人で抱えんのやめろよ!」
唯「……!」
甲斐「1年前の時もそうだよ! いっつも一人で抱え込んで! ……俺ハルが苦しむ姿見たくないんだわ!」
唯「……」
甲斐「……俺、何でも聞くから……俺のこともっと頼ってほしい……」
唯「……ごめん」
甲斐「……伊藤が……ハルの様子がおかしいって言ってた……。筆箱忘れたり、課題忘れたり……」
唯「……」
甲斐「俺も……ちょっとおかしいと思ってた。いつも頭抑えてて、道間違えたり、信長のこと忘れたり……」
唯「……」
甲斐「……不眠症だろ?」
唯「……?」
甲斐「ほら、やっぱ最近寝れてないんだよ! 受験のストレスとかだろ? 頑張りたいのはわかるけど、あんま無理すんなって──」
唯「(笑って、でも悲しくて)違うよ……」
甲斐「え?」
唯「若年性認知症。身の回りの物どんどん忘れていって、最後は自分のことも忘れてくんだって。認知症っておじいさんおばあさんがかかるものだと思ってたから、ちょっとビックリ」
甲斐「……うそだろ?」
唯「嘘じゃないって。お医者さんからしっかり長めの説明いただきましたから」
甲斐「……」
唯「まあだから、受験は無理かな。慶明大学、不戦敗。ごめんね勉強付き合わせちゃって」
甲斐「え? いや……ありえないありえない……。これ、夢?」
唯「現実だってば。……なんで私の方が冷静なんだし」
甲斐「……」
唯「ごめんね……ずっと隠してて。……なんか言いたくなくて。……でも、隠すのもしんどくなって」
甲斐「……」
唯「お母さんも認めたくなくて……あんな風に取り乱してるだけだから……責めないであげて」
甲斐「……」
唯「というわけで……終わりにしよっか」
甲斐「え……?」
唯「会うのは……これで最後!」
甲斐「……なんで……?」
唯「だって、そのうち甲斐くんのことも忘れちゃうんだよ?」
甲斐「……いや……」
唯「若くして発症したから、病気の進行もその分早いんだって。だから、すぐ忘れちゃうかも」
甲斐「……忘れないよ」
唯「忘れるよ」
甲斐「忘れないって!」
唯「……忘れるよ」
甲斐「……」
唯「……ごめん」
甲斐「じゃあ……忘れるまで一緒に……」
唯「ダメ。……迷惑かけるから」
甲斐「……」
唯「認知症の人って、だんだんイライラしたり怒りっぽくなるんだって。しかもその上でいちいち『これ何だっけ?』『あれ何だっけ?』って……手に負えないよ」
甲斐「……俺は大丈夫だよ」
唯「ヤダ。……私がヤダ。……私だって甲斐くんが苦しむ姿見たくない。甲斐くんとの思い出は……キレイなままがいい」
甲斐「……」
唯「(甲斐の顔を見ながら呟く)……あの時階段から落ちなきゃ……こんなことにはならなかったのかな」
甲斐「……俺があの時――」
唯「(遮り)違う。……かどうかわかんない」
甲斐「ごめん……」
唯「……なんで謝るの」
甲斐「……だって」
唯「あれがあったから……今があるんでしょ?」
甲斐「……違う、俺が助けてたって――(と言いかけ、やめる)」
唯「あの病室から、私たちは始まったんだよ」
甲斐「……」
唯「でも……出会わなきゃよかったかもね」
甲斐「……」
唯「私のこと大事にしてくれてるのわかっ
て嬉しかった。……楽しかったね。……(目に涙をためて)バイバイ」
唯、去っていく。
甲斐「……問題!」
唯「……(立ち止まる)」
甲斐「俺の……好きな食べ物と嫌いな食べ物は!」
唯「……好きな食べ物はコーヒーゼリー、嫌いな食べ物はトマト……でも、ケチャップとかは好きって……変なのって思った」
甲斐「……正解!」
唯「……」
甲斐「問題! 1年前、学校サボってカラオケ行ったとき、俺が歌った曲は!」
唯「……『完全感覚Dreamer』。高い声でないのに無理して原キーで歌って……声カッスカスでほとんど無音だった」
甲斐「……正解!」
唯「……」
甲斐「問題! 2年前、俺がハルにあげたクリスマスプレゼントは!」
唯「……ガチャガチャを何度も回して買った……何のキャラかよくわからない変なキーホルダー」
甲斐「……覚えてんじゃん」
唯「だから……忘れるんだって――」
甲斐「織田信長のことは忘れても……俺とのことは覚えてんだよ……!」
唯「……」
甲斐「俺だって覚えてるよ。好きな食べ物はシーザーサラダ。嫌いな食べ物はすっぱいもの全般。俺がお見舞いにレモンをあげても食べるのを断固拒否した! 1年前、カラオケで歌った曲は『春の歌』。声カッスカスの俺と違って、ハルは何倍も何倍も上手かった! 2年前、クリスマスプレゼントにもらったのはピンク色のクマのぬいぐるみ! 明らかに男子にあげるようなものではないけど……俺は……すげー嬉しかった」
唯「……」
甲斐「覚えてるに決まってんだよ……。だって人との記憶は……頭で覚えるものじゃなくて……その……目と耳と鼻と口と……体全身で感じるものだから……!」
唯「……」
甲斐「出会わなきゃよかったなんて俺は思わないよ……。初めて会った時から今まで……ずっと楽しかった。幸せだった。ハルが階段から落ちて……俺はそれを見て救急車呼んで……なんかすごい壮絶な出会い方だったけど……俺は……出会えてよかったと思ってる」
唯「……(涙をこぼす)」
甲斐「これから先……幸せじゃなくても……苦しいことばっかでも……その苦しみを分け合って……二人で生きていきたいと思った」
唯「……(涙が止まらない)」
甲斐「だから……バイバイとか言わないで……俺と一緒に生きてください!」
唯「……あぁあ……泣かずにバイバイしようと思ってたのにな……」
甲斐「……(泣いている)」
唯「……ほんとにいいの?」
甲斐「……うん」
唯「……約束する?」
甲斐「……約束する」
唯、突如甲斐に抱きつき、
唯「……ありがとう」
甲斐「……」
春沢「……暖かいね」
甲斐「……うん」
甲斐、ハグし返すか迷うが、結局しない。
70 住宅街・春沢家の前(日替わり・朝)
唯が家を出ると、甲斐が待っている。
甲斐「よっ」
唯「甲斐くん……?」
甲斐「道迷ったら困るだろ。これからは俺が送り迎えするよ」
唯「……いいよ」
甲斐「遅刻したらマズいだろ。ハルが遅刻したら、俺も遅刻するし」
唯「(笑って)なんでよ(と歩き始めて)」
甲斐「まあ、連帯責任?」
唯「(笑って)いいよ、そんなの」
71 路上
並んで歩いている甲斐と唯。
唯「私、日記書くことにしたんだ。……これからのこと、忘れないために」
甲斐「おー。いいじゃん」
唯「これ、昨日の」
唯、日記帳を見せる。
甲斐「『2020年4月17日。公園で甲斐くんがボロ泣きした』っておい! 今すぐ消せ!」
唯「(楽しそうに笑い)……甲斐くん」
甲斐「ん?」
唯「もし私が甲斐くんのこと忘れたら……甲斐くんも私のこと忘れてね」
甲斐「え? いや、何言って――」
唯「(遮って)約束。一生懸命忘れて……存在そのものを……なかったことにするの。……忘れたくても忘れられない人がいるって……すごくつらいことだから」
甲斐「……」
唯「行こ」
甲斐「……うん」
72 白浜高校・3年E組教室
授業中。
唯、今までの授業内容を忘れており、全く授業についていけていない。
そこへ、隣の生徒からノートが渡される。
中には今までの授業内容がびっしりと書かれている。
唯が「私に?」とジェスチャーすると、隣の生徒は首を振り、伊藤の方を指差す。
見ると、伊藤が唯にグッドサインを出していた。
唯、嬉しそうに笑いグッドサインを返す。
73 路上
帰り道、甲斐と唯が並んで歩いている。
甲斐「学校には言ってないの? 病気のこと」
唯「言ったらやめさせられちゃうでしょ?」
甲斐「……そっか」
唯「……私、頑張る。絶対に……この学校卒業する! 甲斐くんのことも、絶対忘れない!」
甲斐「おー、いいね、その心意気。応援します!」
唯「はい!」
74 住宅街・春沢家の前
甲斐と唯、春沢家の前に到着。
甲斐「じゃ」
唯「うん。いろいろありがとね。また明日」
甲斐「また明日」
家の中へ入っていく唯。
ドアがスローモーションに閉まっていく。
暗転。
75 字幕『2020年 夏』
76 住宅街・春沢家の前(日替わり・朝)
唯が家を出ると、甲斐が待っている。
甲斐「うっす」
唯「……(認識に時間がかかるも思い出し)あぁ……! ……おはよう……!」
甲斐「……うん。……おはよう」
77 路上
並んで歩いている甲斐と唯。
唯、心ここにあらずな様子。
甲斐「……ハル、最近調子どう?」
唯「……」
甲斐「……ハル?(と、立ち止まる)」
が、唯は止まらない。
そのまま道路に飛び出しそうになる。
甲斐「ちょっ……!」
甲斐、急いで腕を引っ張って止める。
後ろ向きに倒れる二人。
甲斐「ハァ……ハァ……あっぶね……何やってんだよ……」
唯「……(無表情で立ち上がる)」
甲斐「……」
78 白浜高校・廊下
昼休み。
甲斐、唯のいるE組教室へ歩くと、何やら騒がしい様子。
79 同・3年E組教室
甲斐、中へ入ると唯が何やら騒いでいる。
唯「ない! ない! 私の財布! 誰! 誰が盗んだの! ねえ!」
唯のわめきは止まらない。
ザワザワしている一同。
伊藤「ハルちゃん、一旦落ち着いて……」
甲斐「(伊藤に)おい……。何があったんだよ?」
伊藤「……ハルちゃんが財布盗まれたって」
甲斐「え……?」
唯「私の財布盗んだんだったら正直に言ってよ! 返して! 早く返して!」
甲斐「……ハル? ……家に置いてったとかじゃないの?」
唯「違う! 誰かが私の財布盗んだの!」
甲斐「いや、そうと決まったわけじゃないでしょ……。お母さんに電話してみたら?」
唯「盗まれたんだってば! 早く返して!」
甲斐「……」
80 路上
帰り道、並んで歩いている甲斐と唯。
甲斐「……家帰ってもっかい見てみたら?」
唯「……なにが?」
甲斐「なにがって……。財布」
唯「財布……?」
甲斐「え……。覚えてないの?」
唯「……(急に怯え始め)誰か見てる」
甲斐「え?」
唯「誰か私のことつけてるんだって! ほら、あそこ!」
唯が指差した先には、誰もいない。
甲斐「……誰もいないよ」
唯「殺される……。誰か助けて……。お父さん……(と、うずくまる)」
甲斐「大丈夫だって……。ね?」
唯「……(なにかブツブツ言っている)」
甲斐「……」
暗転。
81 字幕『2020年 秋』
82 住宅街・春沢家の前(日替わり・朝)
唯が家を出ると、甲斐が待っている。
が、無視して行ってしまう唯。
甲斐「え……。ハル!」
唯「(振り返り)……?」
甲斐「俺だよ俺……。無視しないでよ……」
唯、急いで日記帳をめくりだす。
日記帳の中に「甲斐」という文字を見つけ、固まる。
甲斐「『カイ』。俺の名前。……忘れちゃった?」
唯「カ……イ……? ……(徐々に思い出し)あ……あぁ……カイ……くん……」
甲斐「……あぁ……よかった……」
83 白浜高校・3年E組教室
鈴木の授業中。
唯、手をブランと垂らし、何も考えずボーっとしている。
鈴木「じゃあ次……春沢!」
唯「……」
鈴木「……春沢? おい、聞いてんのか?」
唯「……」
鈴木「(唯の席まで行き)春沢?」
唯「ハルサワ……?」
鈴木「……!」
唯「ワタシ……ハルサワ……?」
鈴木「(察して)じゃあその後ろの……高橋!」
唯「……」
鈴木「……(疑いの目)」
84 路上
帰り道、並んで歩いている甲斐と唯。
唯「……病気、バレちゃった」
甲斐「え?」
唯「学校……休学だって……」
甲斐「……(言葉が出ない)」
唯「辞めさせられる……絶対卒業するって決めてたのに……」
甲斐「……」
唯「なんで……なんで私ばっかりこんな目に……ううううううぅぅぅぅ……!」
甲斐「……ハル」
唯「なんで学校やめさせられなきゃいけないのおおぉぉぉおぉぉぉお!!!」
唯「ハル、落ち着けって……まだ決まったわけじゃないし、ほら、周りの人見てるから」
唯「(泣きながら)ううううぅぅぅぅ!」
甲斐「(唯を抑えながら)大丈夫……大丈夫だから……」
唯「(抵抗しながら)放して! 放せ!」
甲斐「……(泣きそうになっている)」
85 住宅街・春沢家の前(日替わり)
学校帰りの甲斐、春沢家のインターホンを押す。
しばらくして、唯が出てくる。
甲斐「……よっ」
唯「……えーっと……」
甲斐「カイ」
唯「(妙なテンションで)あーっ! カイくんね~」
甲斐「……(少し困惑するも)学校なくなって、この時間お母さんいないから、暇だろ? 遊びに来た。お母さんからも許可もらってるから」
唯「(妙なテンションで)うん! ヒマヒマ!」
甲斐「……(やはり困惑しているが)入っていい?」
唯「(妙なテンションで)どーぞどーぞ! いらっしゃ~い」
甲斐「……」
86 春沢家・リビング
リビングに入ってくる甲斐と唯。
リビングには大量の貼り紙。
甲斐、ふとキッチンを見ると、グチャグチャに置いてある食器類が。
甲斐「……ハルの部屋、どっち?」
唯「ハルノヘヤ? わかんない」
甲斐「……たぶん、こっちだな」
甲斐、階段を見つけ、上っていく。
唯もそれについていく。
87 同・唯の部屋
床に座っている甲斐と唯。
甲斐「……どう? 最近は?」
唯「なぁ~んにもしてないよ。なぁ~んにも。みんなが楽しく学校行ってる間に、私はなぁ~んにも」
甲斐「……ごめん」
唯「(突然)あ! お昼食べなきゃ!」
唯、部屋を出ていこうとする。
甲斐「(慌てて止め)……いや……お昼ならもう食べたんじゃないの?」
唯「食べてないよ」
甲斐「だって食器が……。それに、いま16時だよ?」
唯「食べてないって。しつこい!」
甲斐「いや……だから……」
唯「は? 何なの! 意味わかんないんだけど! 私が嘘ついてるって言いたいわけ?」
甲斐「……そんなんじゃないって……」
唯「うるさい! 黙れ! バーカ、死ね!」
甲斐「……(さすがにカチンときて)なんだよその言い方!」
唯「……(突然何事もなかったかのように)どうしたの?」
甲斐「……!」
唯「あ! お昼食べなきゃ!」
唯、部屋を出ていく。
甲斐「……(放心状態)」
88 字幕『2020年 冬』
89 住宅街・春沢家の前(日替わり)
学校帰りの甲斐、少し躊躇した後、春沢家のインターホンを押す。
しばらくして、唯が出てくる。
甲斐「……」
唯「(憔悴しきったような様子で)帰って」
甲斐「……」
唯「……私もう死ぬから」
甲斐「……ハル」
唯「帰ってよ! 今日はもう誰とも会いたくないの!」
甲斐「……わかった。……帰る」
唯「……なんで帰るの? 私のことどうでもいいとか思ってんでしょ!」
甲斐「……」
唯「そうよ! 私なんか生きてる価値ないって! 死んだほうがいいってそう思ってんでしょ!」
甲斐「……思ってないよ」
唯「嘘つかないで!」
甲斐「……」
唯「もおぉぉぉ無理! もおぉぉぉぉ限界! もう絶対死んでやるから! 私だけじゃない……この世界も! あんたも! 全員! なにもかも全部消えろぉぉぉ!」
甲斐「いい加減にしろよ!」
唯「……!」
甲斐「いい加減にしろよ……相手の気持ちも知らないでさぁあ……もうウンザリなんだよ!」
唯「……」
甲斐「そんなに死にたいんだったらテメェで勝手に死ねよ!」
唯「……あ……あぁあ……」
甲斐「(我に返り)……いや……ごめん……」
唯「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
唯、走り去っていく。
甲斐「ハル!」
甲斐、追いかける。
90 路上・ベンチ
甲斐、息を切らして唯を探していると、ベンチに座る唯を発見する。
甲斐「……ハル!」
唯「ハル……?」
甲斐「……さっきはごめん……俺、言っちゃいけないこと言った……ほんとごめん!」
唯「……すみません、どちら様ですか?」
甲斐「……! ……何言ってんの……俺だよ。甲斐だよ」
唯「……ごめんなさい。たぶん、会ったことないと思うんですけど……」
甲斐「……そんなわけないって……なんで敬語なんだよ?」
唯「……すみません」
甲斐「(涙をこぼしながら)なんで謝んだよ?」
唯「……」
甲斐「ほら……ハルが階段から落ちて……俺が救急車呼んでさ……病院でいろいろ話したじゃん……」
唯「……?」
甲斐「俺と、伊藤と、ハルと3人で……楽しい思い出たくさん作ったじゃん……」
唯「……伊藤……?」
甲斐「俺のこと忘れないんじゃなかったのかよ!」
唯、ふとポケットに入ったメモを見て。
唯「……ごめんなさい。17時までには家に帰らないといけなくて。……失礼します」
唯、去っていく。
甲斐、肩を震わせ、泣く。
91 慶明大学・中庭(日替わり)
慶明大学の合格発表。
甲斐が貼り出された受験番号を見ている。
そこへ、伊藤がやってきて。
伊藤「ヤッベ! もう番号出てんじゃん!」
甲斐「……(無感情)」
伊藤「……お前さ、今日くらい一喜一憂しようぜ、な?」
甲斐「(遮って)あったよ。俺とお前。両方」
伊藤「おまっ……ネタバレすんなよ……(合格を理解し)どぅあーーーーーーー!」
甲斐「……(どうでもいい様子)」
92 字幕『2021年 春』
93 住宅街・春沢家の前(日替わり)
私服姿の甲斐(19)、大きく深呼吸した後、春沢家のインターホンを押す。
美紀の声「はい」
甲斐「……甲斐です」
美紀の声「……はい」
美紀、出てくる。
甲斐「……あの……唯さんは?」
美紀「……入院させたわ。白浜総合病院に」
甲斐「……!」
× × ×
インサート、白浜総合病院・病室。
病室のベッドで窓の外を見ている唯(19)。表情は穏やか。
美紀の声「唯もその方が、居心地がいいと思って」
× × ×
甲斐「……」
美紀「……ありがとうね。たびたび家に来てくれて。あの子を一人にしたくなくて」
甲斐「……いえ」
美紀「……唯、乱暴だったでしょ?」
甲斐「……」
美紀「あの子、私のことも忘れちゃった……。あなたのことも?」
甲斐「……(静かにうなずく)」
美紀「そう。……結局私は唯を苦しめるばかりで……母親らしいこと……何もできなかった……(と、泣き始めて)」
甲斐「……」
美紀「……ごめんなさいね。私が泣いたってしょうがないのに」
甲斐「……いえ。僕も……言ってはいけないことを言ってしまいました……」
美紀「……」
甲斐「(涙を流し)僕も……最低なんです……」
二人、すすり泣きながら立ち尽くす。
94 字幕『2022年 春』
95 クラブ(日替わり)
クラブで踊っている甲斐(20)のもとへ、伊藤(20)がやってくる。
伊藤「甲斐。……ちょっといいか?」
甲斐「……なんだよ」
96 居酒屋
甲斐と伊藤がカウンターで飲んでいる。
伊藤「……お前さ、何大学生満喫しちゃってんだよ?」
甲斐「……悪いかよ」
伊藤「……ハルちゃんのことほっとくつもりかよ?」
甲斐「……誰だよそれ」
伊藤「とぼけんなよ」
甲斐「……もういいだろその話は」
伊藤「よくないだろ」
甲斐「いいんだよ。もう忘れてんだから。……俺が死ねとか言ったから」
伊藤「……お前のせいじゃないって」
甲斐「きっと俺のこと嫌いになったんだ。だから忘れたんだ。……もう会わない方がいいんだよ、俺たち」
伊藤「そんなこと……」
甲斐「(突然)もうどーにもなんねんだよ! どーせ覚えてねーんだから! 行っても無駄なんだよ!」
伊藤「お前……ハルちゃんと約束したんじゃねーのかよ!」
甲斐「ああ……約束したよ……。約束通り向き合おうとしたよ……。でもその結果がこれだよ……。綺麗事なんか通用しない……。お前にはわかんねーだろ? 何にもしてないお前に! 言われたくねーんだよ!」
伊藤「……」
甲斐「俺、言われたんだよ。ハルに。『私のこと忘れて』って。『存在そのもの、なかったことにして』って。……だから……必死で忘れようとしてんだよ……!」
伊藤「それが……本当にハルちゃんのためになると思ってんのか?」
伊藤、カバンの中から日記帳を取り出し、テーブルに置く。
甲斐「……!」
伊藤「ハルちゃんのお母さんからもらった。……お前に渡してくれって」
甲斐「……」
伊藤「ハルちゃんはきっと……お前に来てほしいと思ってる。……お前じゃなきゃダメなんだよ。……それ読んだら……どうするかはお前が決めろ」
伊藤、去っていく。
甲斐、日記帳を読み始める。
『甲斐くんがボロ泣きした』と書いてあるところで、懐かしくて少し笑う。
以下、唯の声が日記を読み上げる。
唯の声「2020年4月18日。甲斐くんが送り迎えしてくれたり、伊藤くんがノート貸してくれたり、皆優しくて、嬉しい気持ちになった。これから頑張ろうと思った」
甲斐、読み進める。
唯の声「(少し汚い字で)2020ねん7がつ。だれかにみられてるきがする。かいくんたすけて」
甲斐、読み進める。
唯の声「(かなり汚い字で)かいくんのことわすれそうになった。やだ。ぜったいわすれたくない」
甲斐、読み進める。
唯の声「(グチャグチャな字で)しにたい。かいくんにあいたい。しにたい」
甲斐、次のページをめくる。
唯の声「か……」
『か』の文字から下へ線が伸びている。
そこから先は、白紙。
甲斐、涙が止まらなくなっている。
97 甲斐の実家・リビング
甲斐の母、ふとベランダを見ると、甲斐が帰ってきている。
甲斐の母「(驚いて)何。急に帰ってきて」
甲斐「母さん……高校の制服って、まだある?」
98 白浜総合病院・2階廊下
甲斐が唯の担当医・山根と話している。
甲斐「お願いします!」
山根「……構いませんが、それで彼女の記憶が戻るとは限りませんよ?」
甲斐「わかってます。それでもいいんです。……ハルにもう一度会いたいんです」
山根「……わかりました。くれぐれも彼女を病院の外に出さないようにお願いします」
甲斐「ありがとうございます!」
99 同・2階病室
病室に制服姿の甲斐が入ってくる。
唯(20)は寝ているがやがて目を覚ます。
甲斐「あっ……」
唯「あれ……?」
甲斐「(泣きそうになるが、こらえ)……頭……大丈夫ですか?」
唯「え……?」
甲斐「いや……あの……階段から落ちたから」
唯「私……階段から落ちたんですか?」
甲斐「うん……(言い直し)はい」
唯「あなたは……?」
甲斐「1年C組……じゃなくて、階段から落ちたの見てて……救急車呼んだんすよ」
唯「あぁ……ごめんなさい、あまり覚えてなくて……」
甲斐「……きっと頭打って記憶が飛んでるんですよ。きっと……すぐに思い出します」
唯「そうですか……」
甲斐「……俺、甲斐健って言います」
唯「カイ……?」
甲斐「あ……えっと……『苦労した甲斐があったな~』……の……甲斐……です」
唯「あぁ……」
甲斐「……で、あなたは春沢唯さん。俺たち、同じ高校の同級生なんですよ」
唯「そうなんですね……」
甲斐「(涙で耐え切れなくなり)じゃ! ……そろそろ、失礼します! お大事に!」
甲斐、病室を出る。
100 同・廊下
甲斐、涙を流すが、自分で頬を叩き、気合を入れる。
甲斐「……っし……!」
101 同・2階病室(日替わり)
甲斐、入ってきて。
甲斐「……ども」
唯「……どうも」
甲斐「えー……まあ、いろいろあって、僕がハル……沢さんの連絡係になりました! といっても、連絡することは特にないんですけど……とにかく、今日から毎日来ますので!」
唯「え……いいですよ、そんな」
甲斐「いや……毎日来ます。……絶対」
唯「はぁ……」
甲斐「というか……タメ口でも……いい?」
唯「え?」
甲斐「ほら……一応……同級生だから」
唯「いや……でも、私あなたのことよく知らないし――」
甲斐、無意識に手をパンッと叩く。
唯「(ビクッとして)えっ……? ……あ……すみません……」
甲斐「(やってしまったという感じで)いや……違う、ごめん……。別に怒ってるとかじゃなくて……」
唯「……(怯えている)」
甲斐「口調だけでも距離を縮めたいんだ。……いいかな?」
唯「はい。どうぞ。すみません……」
甲斐「いや、うん……ありがとう」
102 同(日替わり)
唯と甲斐が話している。
甲斐「『ハル』……って、呼んでもいいかな?」
唯「……ハル?」
甲斐「いや……『春沢さん』って呼びづらくて。……『さん』をつけるだけで急激に距離を感じるんだよね」
唯「どうしてそんなに……こう……距離を詰めたがるんですか?」
甲斐「……ごめん。気持ち悪いかな?」
唯「……いえ、ただ気になったので」
甲斐「なんで……。なんでかな……。(涙をこらえ)わかんないや」
唯「……まあ、好きに呼んでください」
甲斐「ありがとう……」
103 同(日替わり)
唯と甲斐が話している。
甲斐「……すべらない話してもいい?」
唯「えっ……?」
甲斐「僕……俺には、伊藤っていう友人がいるんだけど……」
× × ×
甲斐「で、なんか花粉症かなんかしんないけど、そいつ鼻水ダラダラでさ……」
唯「(微笑む)」
甲斐「(その微笑みを見て)……」
唯「……? どうしました……?」
甲斐「(涙をこぼし)……え? ……いや、ごめんごめん、続きね。えっと……なんだっけ……」
唯「……??」
甲斐「(泣きながら)そう、そしたら、その……伊藤が……」
唯「な……なんで泣いてるんですか……!? これ、笑い話ですよね?」
甲斐「(泣きながら)その……鼻水を……」
104 同(日替わり)
病室に入ってくる甲斐。
甲斐「これ……お見舞いに」
甲斐、レモンを差し出す。
唯「え?」
甲斐「レモン……好きかなと思って」
唯「私が好きなのは……これじゃなくて……えっと……なんというか……」
甲斐「……」
唯「ごめんなさい。せっかく買っていただいたのに」
甲斐「そう言うと思って……メロンも買ってきた」
甲斐、メロンを差し出す。
唯「あぁ、それ。それです。ありがとうございます……」
105 同(日替わり)
甲斐と唯が話している。
唯「そういえば……学校から連絡って……」
甲斐「あー……(反応に困り)まだなんじゃない? ……そ、それよりさ、これ……」
唯「……」
暗転。
106 同・2階廊下(日替わり)
病室へ向かう甲斐に山根医師が話しかけてくる。
山根「甲斐さん」
甲斐「はい」
山根「ウチの看護師が『学校から連絡はないか?』と聞かれたそうです。……バレるのも時間の問題では?」
甲斐「……もう少し、続けさせてもらえませんか……? ……バレそうになったら、僕からハルに話しますので」
山根「……」
甲斐「お願いします……!」
山根「……わかりました」
甲斐「ありがとうございます……」
107 同・2階病室
甲斐と唯が話している。
唯「……そろそろ退院してもいい頃じゃないですかね?」
甲斐「……え?」
唯「頭も痛まないし、もうケガも治ってると思うんですよね」
甲斐「(反応に困り)でも……ね? まだ早いんじゃないかな……?」
唯「……」
暗転。
108 同・2階廊下(日替わり)
甲斐、病室に向かうと、すでに山根医師、美紀が待ち構えている。
山根「……甲斐さん」
甲斐「……はい」
山根「春沢さんが……退院したい、もしくは外出したいと言ってきました。おそらく、もう限界かと……」
甲斐「そうですか……わかりました。僕からハルに話します。今まで無茶言ってすみませんでした」
山根「……いえ」
甲斐「……(美紀に)お母さんも」
美紀「ううん。……別に全部話したって、あなたたちの関係は変わらないんだから。これからも毎日来てね」
甲斐「……ありがとうございます」
109 同・2階病室
甲斐、入ってくる。
唯はなぜかうずくまっている。
甲斐「……ハル……?」
唯「……! ……嫌!(と窓側に寄りかかる)」
甲斐「……どうしたんだよ……?」
唯、過呼吸になりながら窓を開ける。
甲斐「……! (廊下に向かって)すいません、ちょっと来てください!」
美紀、山根医師、看護師ら大勢がやってくる。
唯「……(過呼吸)」
甲斐「(ゆっくり近づきながら)ハル……頼む、落ち着いて……」
唯「……(過呼吸激しく)」
甲斐「(ゆっくり近づきながら)なあ……俺のこと、わかるだろ?」
甲斐、唯の目の前へ。
唯「……!」
甲斐「お願いだから……いつものハルに戻ってくれよ……」
唯「うぁ……あぁ……うああああぁぁぁぁ!」
唯、窓から飛び降りる。
甲斐「……!」
甲斐たち、窓から下をのぞき込む。
唯、足を痛めながら逃げていく。
甲斐、急いで病室を出る。
110 同・廊下
甲斐、廊下を走っていく。
美紀、山根医師、看護師らも甲斐を追いかける。
111 路上
唯を探しに走っている甲斐。
甲斐「(涙が出てくる)ハル……ハルーーーーー!」
112 路地裏
甲斐、路地裏に出ると、急いで引き返そうとする唯を発見する。
甲斐「……!」
唯「あ……あぁ……」
やがて美紀、山根医師、看護師らも到着する。
甲斐、唯に駆け寄っていく。
春沢「あぁ! あぁ! あぁ! ああああああぁぁぁぁぁぁ……」
甲斐、唯を抱きしめる。
甲斐「……(涙が止まらない)」
唯「(スイッチが抜けたように)……誰?」
甲斐「……!」
唯「……あなた、誰?」
一同、下を向いてうなだれる。
しかし、甲斐だけはまっすぐな目で、
甲斐「ごめん。ずっと……一人にさせてごめん。……ハルに俺の事思い出してほしくて……いろいろ頑張ってみたけど……大失敗。怖い思いさせてほんっとにごめん!」
唯「……(無表情)」
甲斐「俺、ハルと約束したのに……ずっと一緒にいるって約束したのに……約束、守れなかった。ハルの病気言い訳にして……きちんと向き合おうとしなかった。俺が悪いんだ」
唯「……」
甲斐「でも……もう大丈夫。もう絶対一人になんかしないから」
唯「……」
甲斐「何度忘れられたっていい。ハルが何度俺を忘れても……俺はそのたびにあの出会いを繰り返して……何度でもハルに会いに行くから」
唯「……」
唯、一滴の涙を流し、甲斐をゆっくりと抱きしめ返す。
甲斐「……!」
唯「……あったかい」
甲斐「(涙を流し)……うん」
暗転。
【了】
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