【主な登場人物】
・根元彩羽(17) <演出>
主人公。下の名前は「いろは」と読む。小学生の頃に見た舞台を見て演劇に心奪われ、没頭している高校生。演劇部の設立を校長に掛け合うも、部員が集まらず、うまくいかない。中学の頃、劇団を作ろうと周りに熱烈に呼びかけた結果、友達を失った過去を持ち、なかなか前へ進めない。また、劇団のワークショップに行った際、自分の演技の才能の無さを痛感しており、演劇をやることを半ば諦めかけている。そんな折やることになった公演で、演出を担当する。
・工藤耕平(17) <脚本>
寡黙で影が薄く、謎多き高校生。基本的に何を考えているかわからない。彩羽とは委員会が同じだったが、特段話すことはなく、二人きりになった時には、(彩羽にとっては)気まずい地獄のような時間が流れた。しかしある日、交通事故で亡くなってしまう。その後、彼の家を訪れた彩羽が耕平のパソコンを開いたことにより、彼が戯曲を書き残していたことが発覚する。
・池田莉菜(17) <ヒカリ役→エリカ役>
彩羽のクラスメイト。明るいギャル風の女子。イエスマンで、基本何でも「いいよ」と返す。良い子だが、それゆえに都合よく利用されがち。
・京堂宏光(17) <サトル役>
彩羽のクラスメイト。名前はカッコイイが、常に挙動不審な男。自分に自信がなく、人からどう見られるかを異常なほど気にするが故にオロオロしている。陰で「キョド男」と呼ばれている。
・木谷結花(17) <エリカ役→ヒカリ役>
彩羽のクラスメイト。容姿端麗な美少女だが、性格は最悪。故にクラスの女子から嫌われ、孤立している。最近美少女グランプリ1位を取り、芸能事務所にもスカウトされ、モデル・女優デビューを果たし、調子に乗っている。ただし、演技は絶望的に下手。
・橋口友也(17) <アキラ役>
彩羽のクラスメイト。クラスの中でいじられキャラとしてキャラが確立していて、クラスの人気者だが、本人はそこまで陽気な性格ではなく、いじられる度に傷ついており、内心快く思っていない。
・根元仁美(47)
彩羽の母。シングルマザー。若い頃は一時期、舞台女優をやっていたが、その生活の過酷さから一線を退いた。彩羽が劇団を作ろうとした結果クラスで孤立したこと、彩羽が劇団のワークショップに行って塞ぎ込んだことも含め、今は演劇に対してあまりいい印象を抱いておらず、彩羽に演劇をさせないよう抑圧している。
・工藤陽平(23)
耕平の兄。大学院生。耕平とは異父兄弟。それゆえ、耕平とはそりが合わず、あまり会話を交わしたことはなかった。ぶっきらぼうな性格で、家を訪ねてきた彩羽にもやや不機嫌気味に話す。耕平のことも無関心だったと口では話すが、内心は耕平の死を誰よりも悲しんでいた。
・工藤雅子(58)
耕平の母。感情を表に出さない耕平のことを心配しつつ、何もしてあげられなかったことを悔いている。
・矢吹敏郎(43)
彩羽のクラス担任。
・南武一臣(62)
県立朝比奈高校・校長。
・吹石琴音(17)
吹奏楽部・次期部長。流されやすい性格で、彩羽とは小学校の頃からの親友だったのだが、中学時代、演劇部を作ろうと奔走していた彩羽が周囲から浮いており、クラスメイトに無視されていたため、流れに逆らえず、自分も彩羽と距離を置き、無視するようになった。
・亀田千明(17)、富永美保(17)、松浦恭子(17)
莉菜の友人グループ。元々三人組だったところに莉菜が入ってきたため、莉菜とは少し温度差がある。莉菜を都合よく利用してしまうこともしばしば。
・桶谷謙(17)、西澤克人(17)
友也のクラスメイト。何かと友也をイジって笑いを取ろうとする。
【本編】
1 県立朝比奈高校・体育館・舞台袖
ハンドルを握っている根元彩羽(17)。
緊張している様子。
司会の声「続いては、この県立朝比奈高校40周年式典のために特別に結成された劇団、カラーズによる演劇です。どうぞ」
ブザーが鳴る。
彩羽、一息つき、ハンドルを回す。
幕が上がっていく。
タイトル『colors』
2 劇場(回想・10年前)
オーバーラップし、舞台上の様子。
迫真の演技を繰り広げている劇団員たち。
それを驚きの表情で見ている彩羽(7)。
目を輝かせており、やがて涙を流す。
彩羽の声「これだっ……って思いました。それまで何となく生きていた私にとって、そこはまさに、別世界でした」
3 県立朝比奈高校・校長室(回想戻り・冒頭から数ヶ月前)
困り顔で聞いている校長・南武一臣(62)に芝居がかった熱弁をする彩羽。
彩羽「私の目には、彼らがキラキラ輝いて見えたのです」
南武「いや、うん……それはもう、十分伝わったんだけど……部員は?」
彩羽「私一人です」
南武「それを部活とは言わないんじゃないかな」
彩羽「それは……」
南武「友達とか誘わないの?」
彩羽「私、友達いないんで」
南武「じゃ……クラスメイトに声かけたりとか」
彩羽「無理ですね」
南武「なんで」
彩羽「それは……(と言葉を探すも)……む、無理なものは無理なんで」
南武「そっか。うん……じゃ、こっちも無理かな(と、にこやかに)」
4 同・教室
ホームルーム中。
担任・矢吹敏郎(43)が前で話している。
窓際の後ろの席に座っている彩羽。
外を見ながらため息をつく。
矢吹「えー、今日は委員会活動があるので、該当の生徒は残るようにしてくださーい。いいですかー」
彩羽、え、と矢吹を見る。
露骨に嫌な顔をして、廊下側の席に座る工藤耕平(17)に視線を移す。
耕平は黙々と読書をしている。
彩羽、ため息をつく。
5 同・図書室
本の整理をしている彩羽と耕平。
耕平は一言も発さず黙々と作業している。
彩羽、沈黙に耐えかねて。
彩羽「あの……」
耕平「……(彩羽を見て)」
彩羽「あの……なんか、好きな作家さんとか、いる? ……ほら、ウチら、一応、図書委員だし(と、作り笑い)」
耕平「(再び本に目線を戻し)……別に」
彩羽「(真顔になり)……」
間。
彩羽、言葉を探して。
彩羽「……なんかさ、本屋で立ち読みしてる時にさ、たまーにうっかりそのまま持って帰っちゃうんじゃないかってなんか、すごい、不安になる時ない? 私、時々――」
耕平「ない」
彩羽「ないよね……私もない」
彩羽、作業に戻る。
鴻上尚史の本を手に取り、薄く微笑む。
中を開くと、貸出カードに耕平の名前がある。
彩羽、え、と耕平の方を見て。
彩羽「あの、これっ……」
耕平、振り返って彩羽を見る。
彩羽、その目つきが怖く。
彩羽「あ、いや……何でもない……です……」
耕平、本に目線を戻す。
彩羽、本を棚に戻す。
6 根元家・リビング
帰宅してきた彩羽。
彩羽「ただいまー」
彩羽、辺りを見回し、キョロキョロ。
誰もいないことが分かると、大袈裟な動きをつけながら一人で話し始める。
彩羽「ただいま。そう声をかけても、この部屋には誰もいない。私はいつだって一人。今日の男子だってそうよ。どれだけ言葉を尽くしても、私の声は届かない。こんなの、死んでるのと同じだわ。私はもっと──」
そこへ、ガチャッと扉が開く音。
仁美の声「ただいまー」
彩羽「(慌てて)おかえりー」
彩羽、すぐさまソファーに座り、テレビをつける。
彩羽の母・根元仁美(47)が入ってくる。
仁美「テレビ見てたの?」
彩羽「うん。相棒見てた」
仁美「科捜研の女だけど」
彩羽「そうだっけ」
7 同(時間経過・夜)
向かい合って夕飯を食べる彩羽と仁美。
仁美「今日、学校どうだった?」
彩羽「ん? 別に、普通だよ」
仁美「友達できそう?」
彩羽「……んー、ぼちぼちかな……あ、でも、委員会で男子と一緒になったりはした」
仁美「え、いい感じじゃん」
彩羽「(首を振り)全然。その人、普段から一言も話さないから。超気まずかったよ」
仁美「……そう。まあでも、うまくやれてるみたいで良かった」
彩羽「……」
仁美「……あ、そういえば、また演劇やりたいなんて言い出さないわよね」
彩羽「……(箸を止めて)」
仁美「ちゃんと友達と遊んだり勉強したりしなさいよ。演劇なんてやるだけ時間の無駄なんだからね」
彩羽「……うん」
8 路上
一人で信号を待っている耕平。
下を向いてスマホを見ている。
そこに一台の車が向かってくる。
耕平、顔を上げると、! という表情。
急ブレーキ音、衝突音とともに暗転。
9 県立朝比奈高校・教室(日替わり・朝)
教室に入る彩羽。
周りを見ると、耕平の席が空席になっていることに気づく。
? と思いつつ、自分の席に座る。
矢吹、神妙な面持ちで入ってくる。
矢吹「えー、みんな。一旦座って聞いてくれ」
ただならぬ空気に、一斉に着席する一同。
矢吹「えー、昨日の夜……工藤が交通事故で亡くなった」
彩羽「……(え)」
クラス一同、ザワザワと。
矢吹「それに伴い、明日はこのクラスは休校にして工藤の葬儀に参列することになったから、みんな必ず出席するように。それから……」
彩羽「……(話が入ってこず、呆然)」
10 葬儀場(日替わり)
耕平の葬儀。焼香している彩羽。
仏頂面な耕平の遺影を見る。
彩羽、焼香を終え、辺りを見回す。
クラスメイトら、誰一人涙しておらず、淡々と焼香を終え、帰っていく。
そこへ、女性の泣き声が聞こえる。
見ると、耕平の母・雅子(58) が涙を流していた。
彩羽、雅子の元へ行き、「どうぞ」とハンカチを渡す。
雅子「あ……ありがとう……」
ハンカチで涙を拭う雅子。
彩羽「(それを見て)……」
11 県立朝比奈高校・教室(日替わり)
前で話している矢吹。
矢吹「はい。じゃあ、気をつけて帰ってください。号令」
生徒1「起立。気をつけ。礼」
号令後、生徒一同、一斉に談笑を始める。
それをどこか怪訝な表情で見ている彩羽。
そこへ、矢吹がやってくる。
矢吹「根元」
彩羽「はい」
矢吹「お前、工藤と同じ委員会だったよな」
彩羽「そうですけど……」
矢吹「実は、工藤の親御さんに渡しそびれた荷物があってな。それをお前に届けてもらおうと思って」
彩羽「私がですか?」
矢吹「だってお前、工藤と同じ委員会だろ? 仲良かったんじゃないのか?」
彩羽「別に……」
矢吹「別にってことないだろ」
彩羽「……」
矢吹「頼むよ。家もすぐ近くなんだし。最後のお別れしたいだろ、お前も。な?」
12 工藤家・玄関
ダンボールを持ちながら前に立つ彩羽。
押しづらそうにインターホンを押す。
しばらくして、雅子が出てくる。
雅子「はい……」
彩羽「あ、あの……こないだはどうも」
雅子「……あ。あー……ありがとう……」
彩羽「はい。あの、これ」
彩羽、雅子にダンボールを渡す。
雅子「あ……(と、受け取り)……え?」
彩羽「美術とか、家庭科とか……色々です。担任に渡すように言われてて」
雅子「ああ……」
彩羽「はい……それじゃ(と行こうとするが)」
雅子「ねえ」
彩羽「(振り返り)はい?」
雅子「ちょっとお茶でも飲んでかない?」
13 同・リビング
向かい合って話す彩羽と雅子。
開かれたままのパソコンがテーブルに置いてある。
彩羽「(パソコンを見て)……」
雅子「この前はハンカチ、ありがとね。今度洗って返すから」
彩羽「あーいや、全然……」
雅子「根元……何さん?」
彩羽「いろはです」
雅子「いろはちゃん。耕平と同じ委員会なんだってね。先生から聞いた」
彩羽「ああ……はい」
雅子「あの子、どんな様子だった?」
彩羽「え? あ……(と苦笑し)えっと……」
雅子「あ……ごめんなさいね、こんな質問」
彩羽「いえ……」
雅子「あの子、全然喋らなかったでしょ」
彩羽「……え?」
雅子「ウチでもそうなの。私が声かけても、一言二言しか喋らなくて」
彩羽「ああ……」
雅子「私、一度離婚しててね。耕平は再婚相手との子供で。まあ、結局また離婚したんだけど。だから……何ていうか、普通の家庭に生まれてたら、ちょっと違ってたのかなって。……全部私が悪いんだけどね」
彩羽「……」
雅子「(彩羽を見て)あ……ごめんなさい、どうでもいいね。(笑顔作り)忘れて」
彩羽「……(苦笑)」
そこへ、ガチャッと扉が開く音。
雅子「……あっ(と、玄関の方を見て)」
耕平の兄・工藤陽平(21)が入ってくる。
雅子「おかえり」
陽平、彩羽を見るも、スタスタと素通り。
雅子「ちょっと、お客さん来てるんだから。挨拶ぐらいしなさいよ」
陽平、無視して行ってしまう。
雅子「(ため息をつき)ごめんね」
彩羽「いえ……じゃ、そろそろ……」
雅子「あ……うん。ごめんね、付き合わせちゃって」
彩羽「(首を振り)全然……あ、じゃあ」
彩羽、会釈し行こうとするが、止まって。
彩羽「……あの」
雅子「ん?」
彩羽「ずっと気になってたんですけど、それって……」
彩羽、パソコンを指差す。
雅子「ああ……別に大したことじゃないの。最近、耕平がパソコンに向かってるのをたびたび見かけて。中を見たいんだけど、パスワードがわからなくて」
彩羽「へえ……」
彩羽、パソコンの前に立ち、見る。
ロック画面になっている。
彩羽「生年月日とか……」
雅子「(首を振り)名前とか生年月日とか一通り試してみたんだけど、ダメだった」
彩羽「そうですか……」
雅子「うん……あ、いいよ、こっちの話だから。ありがとね」
彩羽「……私は尊敬している人の名前と誕生日を入れてます。蜷川幸雄さんが好きなので、『ninagawa1015』にしてます」
雅子「ん? え、何、ニナガワ?」
彩羽「超有名な演出家ですよ。身毒丸とか、ご存じありません? 演劇界の巨匠中の巨匠じゃないですか」
雅子「……え?」
彩羽「……(思い当たって)あっ」
× × ×
フラッシュ、県立朝比奈高校・図書室。
彩羽、鴻上尚史の本の中を開くと、貸出カードに耕平の名前がある。
× × ×
彩羽「……ちょっといいですか、すみません」
雅子「え? あ、うん……」
彩羽、パソコンに手をかける。
スマホを取り出し、「鴻上尚史」と検索。
生年月日は8月2日とのこと。
『koukami0802』とパスワードを打ち込む。
彩羽、「まさかね」と首を傾げながらエンターを押すと、ロックが解除される。
彩羽・雅子「えっっ」
雅子「(唖然としつつ)……あ、じゃあ、ファイル、ファイル見てくれない?」
彩羽「あ、はい……えっと、これかな……」
彩羽、デスクトップ画面からファイルらしきアイコンを見つけ、ダブルクリック。
中には、一つのワードファイルが。
彩羽・雅子「(顔を見合わせ)……」
彩羽、ワードファイルをダブルクリック。
開くと、そこにはタイトルと登場人物表がある。
彩羽、え、とスクロールすると、その先にはシナリオがびっしりと書かれている。
彩羽「……!」
雅子「これって……」
彩羽「戯曲……シナリオです」
雅子「シナリオって?」
彩羽「戯曲のことです」
雅子「……え?」
彩羽「でもなんで……」
雅子「小説、みたいなこと?」
彩羽、戯曲を読み進める。
集中と興奮で徐々に我を忘れていく。
雅子「……彩羽ちゃん?」
彩羽「(目を見開いたまま)あの……これ、ちょっともらってもいいですか?」
14 県立朝比奈高校・校長室(日替わり)
南武の前に立つ彩羽。
南武「え?」
彩羽「部活は作らなくてもいいので、これを上演したいんです」
彩羽、南武に戯曲を渡す。
南武、戯曲をパラパラとめくり、
南武「はえー、随分方向転換したね。どっから拾ってきたのコレ。あ、もしかして、オリジナル?(と、彩羽を示して)」
彩羽「これを書いたのは、先日事故で亡くなった、工藤耕平くんです」
南武「……え?」
南武、めくった戯曲を表紙に戻す。
タイトルの横に『作・工藤耕平』とある。
南武「……(神妙な面持ちで)なるほどね」
彩羽「彼のためにも、どうしてもこれを上演したいんです。……お願いします!」
南武「んー、事情は分かったけど、いきなりこんなこと言われてもなあ……」
彩羽「(肩を落とし)ですよね……」
南武「……まあ、できないこともないけど」
彩羽「えっ?」
南武「ちょうど再来月くらいかな、ウチの高校の40周年記念式典があってね。もしかしたらそこでならできるかもしれない」
彩羽「ホントですか?」
南武「まあ、尺次第だけど」
彩羽「尺は10分程度で考えています」
南武「おお、いいじゃん。準備とか、結構時間ギリギリだけど、大丈夫?」
彩羽「間に合わせます」
南武「頼もしいね。役者は?」
彩羽「私一人です」
南武「なんでよ」
彩羽「一人4役やるんで」
南武「ヤバいって。見てる人引いちゃうよ」
彩羽「でも……」
南武「とりあえずさ、やってみてもいいんじゃないの? 役者集め。台本だってあるんだし。友達だってできるかもよ」
15 同・教室
放課後。
後ろの席からクラスを眺める彩羽。
戯曲に目を落とし、よし、と立ち上がる。
声をかけようと一歩踏み出したところで、突如体が動かなくなる。
彩羽「……!」
クラスの様子が、中学時代のものへと変貌する(回想イメージ)。
クラス中に「演劇やろう」と話しかけて回るも、誰にも相手にされず、無視される中学生の彩羽。
彩羽、その姿を見て、再び座り込む。
16 同(時間経過)
教室の前の方で、亀田千明(17)、富永美保(17)、松浦恭子(17)らと楽しく盛り上がっているギャル風の女子・池田莉菜(17)。
千明「え、それマジヤバくね? 超ウケんだけど」
美保「そう、ウチの彼氏、マジヤバくて〜」
莉菜「ヤバいヤバい。(笑顔で)ウケる〜」
千明「あ、てかヤバい、今日ウチ掃除当番」
恭子「え? ウッソ、今日カラオケ行くって言ったじゃん。どうすんの」
千明「え、どうしよ、普通に。ダル〜……あ」
千明、莉菜を見て。
千明「(手をパンと合わせ)莉菜ごめん、今日だけウチと掃除当番代わってくんない?」
莉菜「……え?」
千明「今日だけ。今日だけでいいから。ね、一生のお願い。……いいでしょ?」
莉菜「あ〜……(笑顔で)うん。いいよ」
千明「ホントに? ありがと〜」
莉菜「(笑顔で首を振り)ううん」
恭子「じゃあ行こ。早く早く」
千明「うん」
女子たち、去っていく。
莉菜「(みんなを見届けて)……」
莉菜、教室に視線を戻すと、一人机に突っ伏している彩羽が目に入る。
彩羽の方へと向かう。
莉菜「……大丈夫? 体調悪い?」
彩羽、ゆっくりと頭を上げる。
しばらく上の空だったが、莉菜を見てビクッとし、椅子をガタッと揺らす。
彩羽「あっ……ごめん、邪魔だよね、ごめん」
莉菜「(首を振り)ううん、全然」
彩羽「(アタフタと)いや、ごめん。あの、すぐどくから。ごめんね」
彩羽、立ち上がった拍子に戯曲を落とす。
彩羽「あっ……」
彩羽、慌てて拾おうとするが、莉菜が先に拾って。
莉菜「(まじまじと見て)……これ、何?」
彩羽「あー……いや、あの、えっとね……」
間。
彩羽「演劇……」
莉菜「え?」
彩羽「(声が上ずりつつ)え、演劇、や、やらない?」
莉菜「エンゲキ?」
彩羽「あの……これ、書いたの、実は、この前交通事故で亡くなった工藤くんで……」
莉菜「……(え、と戯曲をペラペラめくる)」
彩羽「(声を震わせながら)それで、その、このままにしたくなかったっていうか、みんなの前でやりたくて、やってみたくて、その……(と、言葉が出ず)」
莉菜「ふーん……(笑顔で)いいよ!」
彩羽「え?」
莉菜「演劇ってアレでしょ? みんなの前でしゃべるやつ。いいよ。全然手伝うよ」
彩羽「いやっ……いやいやいや……役者だよ? 舞台立つんだよ?」
莉菜「うん。まあ何とかなるっしょ」
彩羽「ならないよ? セリフ覚えるんだよ?」
莉菜「あ、そっか。んー……頑張る(と笑う)」
彩羽「……ホントに?」
莉菜「うん」
彩羽「……ありがと〜〜〜!!!」
彩羽、莉菜に抱きつく。
莉菜「え? ちょちょちょ……」
彩羽「無理だと思った! 無理だと思った〜〜〜!」
莉菜、よくわからないが、彩羽の背中をポンポン。
彩羽、体を離して。
彩羽「いける! いける気がする! いける!」
莉菜「う、うん。いけるよ。頑張って」
彩羽「いける!」
17 同・モンタージュ(日替わり)
クラスメイトに声をかけている彩羽。
生徒1「ごめん」
× × ×
生徒2「無理」
× × ×
生徒3「誰だっけ」
18 同・教室
昼休み。
一人机に突っ伏している彩羽。
莉菜、そんな彩羽を見て声をかけようとするが、そこへ千明が来て。
千明「莉菜。何してんの、行くよ」
莉菜「(振り返り)あ……うん」
莉菜と千明、去っていく。
相変わらず突っ伏している彩羽。
男の声「すみません、すみません」
彩羽、ふと顔を上げて見ると、京堂宏光(17)が大勢でまとまって食事をとっているクラスメイトの間をやや挙動不審気味に通っている。
彩羽、再び突っ伏す。
京堂、バランスを崩し、彩羽の机にぶつかる。
彩羽の筆箱が落ち、ペンなどが散らばる。
彩羽、ビクッと起きる。
京堂、慌てて拾って。
京堂「あーっ……すみません、すみません」
彩羽も気付き、一緒に拾う。
彩羽「あ、いいよ」
京堂「あ、やりますやります。すみません」
京堂、拾い集めたペンを筆箱に入れる。
彩羽、ふと京堂の顔を見て。
彩羽「……あ」
京堂「(ビクッと顔を上げて)……はい?」
彩羽「役者やんない?」
京堂「え」
京堂、再び筆箱を落とす。
京堂「あっ……すみませんすみません、ごめんなさい、すみません」
19 同(時間経過)
京堂の前の席に座り、京堂と話す彩羽。
京堂、戯曲を持っている。
京堂「……僕がですか?」
彩羽「うん。何とかお願いできないかな?」
京堂「いやいや……無理ですよ。無理です」
彩羽、戯曲をめくり、指差して、
彩羽「ここの、サトルって役が京堂くんのイメージにピッタリなんだよね」
京堂「はい?」
彩羽「そのメガネと、猫背と……声の小ささ? もう全部がドストライクっていうか」
京堂「ほめてます? それ」
彩羽、顔をグイッと寄せて。
彩羽「顔見た瞬間、ビビッと来たの。運命感じちゃったの。ね、お願い。京堂くんしかいないんだ。お願い」
京堂「ちょっ……近い。ちょっ……周りが見てますから!」
彩羽「え?」
彩羽、周りを見ると、クラスメイトらが何事かと二人を見ていた。
一同、彩羽が見た瞬間、目をそらし、何やらヒソヒソ話を始める。
彩羽「(我に返り)あ……ごめん」
京堂「……目立ちたくないんです。僕はただ息を潜めてひっそり平和に生きていきたいだけで……ごめんなさい。僕にはできないです。すみません」
京堂、一礼して席を立ち、廊下に出る。
彩羽「……」
20 工藤家・玄関
前に立つ彩羽、意を決しインターホンを押す。しばらくして、雅子が出てくる。
二人、互いに一礼。
21 同・リビング
向かい合って話している彩羽と雅子。
雅子、耕平の戯曲をめくっている。
雅子「これを?」
彩羽「はい。再来月にウチの高校の40周年記念式典があって。そこで上演させてもらえることになったんです」
雅子「……そうなんだ。へー……すごい」
彩羽「……あんまりピンときてませんか?」
雅子「ああ……ごめんね。演劇とか全然詳しくなくて。でも……嬉しい。あの子の残したものがたくさんの人に見てもらえるってことだもんね。……ありがとう」
彩羽「……いえ」
陽平の声「それって、なんか意味あんの?」
彩羽、え、と奥を見ると、陽平がこちらを見ていた。
雅子「陽平」
陽平「それって、結局アンタの自己満足でしょ。自分の承認欲求満たすためにウチの弟利用しないでもらっていいスか」
彩羽「……」
雅子「ちょっとアンタ、なんてこと言うのよ」
陽平、スタスタと2階に戻っていく。
雅子「(ため息をつき)……ごめんね。あの子、耕平が死んでからずっとああなの。毎日イライラしてるっていうか……ホント、全然気にしなくていいからね」
彩羽「……はい」
22 根元家・リビング(夜)
向かい合って夕飯を食べる彩羽と仁美。
彩羽、どこか落ち着かない様子。
彩羽「(手を止めて)……お母さん」
仁美「ん?」
彩羽「あのね。あの……私ね……私、今……」
仁美「……何?」
彩羽「……あ……いや、何でもない……」
仁美「……そう。また無視とかされたらお母さんに言いなさいよ。お母さん、いつでも学校に電話するからね」
彩羽「……うん」
23 県立朝比奈高校・教室(日替わり)
自席に座っている彩羽。
そこへ、莉菜がやってくる。
莉菜「彩羽ちゃん」
彩羽「ん? え、どうした?」
莉菜、戯曲を見せて。
莉菜「これ、読んだよ」
彩羽「あっ……あー、ありがと。どうだった?」
莉菜「んー……なんかみんながいっぱい喋ってたって感じだね」
彩羽「ん? うん、ま……それが演劇だからね」
莉菜「てか、演劇って何すればいいの?」
彩羽「……え?」
莉菜「なんかよく分かんなくて。教えてくんない?(と笑う)」
彩羽「あー……うん、教える〜(と、苦笑)」
24 同・図書室
並べられた本を見ている彩羽。
鴻上尚史の本を片っ端から開くと、全ての貸出カードに耕平の名前が載っている。
25 同・教室
京堂、入ってくる。
自分の席まで行くと、すでに他の男子達に占領されていた。
京堂、すぐに引き返し、廊下に出る。
26 同・廊下
歩いている京堂。
目の前を図書室から出てきた彩羽が通る。
京堂、彩羽と目が合い、引き返す。
彩羽「あ、待って。待って待って」
京堂「(歩み止めず)人違いです」
彩羽「京堂くんでしょ。ちょっと待ってよ」
京堂「(歩み止めず)やりませんよ」
彩羽、去っていく京堂の背中を見て。
彩羽「……やっぱりやめようかなって」
京堂「(足を止め、振り返り)……え」
彩羽、自分に言い聞かせるように。
彩羽「うん。周りにすごい迷惑かけるし……こんなことやってもしょうがないかなって。……なんか、巻き込んじゃってごめんね(と、作り笑いし)ごめんそんだけ。じゃあね」
彩羽、去っていく。
京堂「……あの」
彩羽「(足を止め、振り返り)……」
京堂「それは……ちょっと早いと思います」
彩羽「……え?」
京堂「台本、読みました。あの……僕はすごく良かったと思ってて、その……ここで終わらすの勿体ないですよ、多分、これ」
彩羽「……」
京堂「なんで、あの……ワガママですけど、協力させてもらえませんか。役者はできませんけど、役者集めの協力だったらできますから」
彩羽「……ホントに?」
京堂「え?」
彩羽「ホントに良かった?」
京堂「はい」
彩羽「……やる価値あると思う?」
京堂「はい」
彩羽「……そっか。……分かった。もうちょっとだけ頑張ってみる」
京堂「……(微笑んで)」
彩羽と京堂、並んで歩き出す。
彩羽「これで役者もやってくれればカンペキなんだけどなあ」
京堂「やりませんよ? さっきも言いましたけど、僕が協力するのはあくまで役者集めの協力で……」
彩羽「はいはい。そうですかそうですか」
27 同・教室
彩羽と京堂、入ってくる。
彩羽、莉菜の方に向かって。
彩羽「莉菜ちゃん(と、手招き)」
莉菜、千明たちに断りを入れ、二人のもとへ。
彩羽「ごめんね。大丈夫だった?」
莉菜「大丈夫だよ。どうした?」
彩羽「えっとね、あ、京堂くんが一緒に役者集めしてくれることになったんだけど、それで二人で話してて」
京堂「木谷さんはどうかなっていう話になったんです」
莉菜「木谷さん?」
莉菜、木谷結花(17)の方を見る。
結花、機嫌悪そうにスマホをいじっている。
京堂「僕、この前インスタでたまたま見かけたんですけど、これ」
京堂、スマホのストーリー画面を見せる。
王冠をかぶって笑顔の結花に、『このたび、なんと! 美少女コンテストで優勝しちゃいました〜〜。嬉しい!』の文字。
スワイプして、結花の宣材写真に『それに先立ちまして、なんと! このたび、ムーンステーションアカデミーに所属することとなりました〜〜。応援よろしくお願いします!』の文字。
莉菜「え、すごい、こんなの取ってたんだ。もうすっかりモデルさんじゃん」
彩羽「そう、だからこれはもう即戦力だなって思ってさ。それで……莉菜ちゃんに声かけてもらえないかなと思って」
莉菜「え?」
彩羽「(京堂と自分を指し)ほら、私たち、木谷さんと話したことないからさ、莉菜ちゃんからの方が話しやすいかなって」
莉菜「あー……いいんだけど、OKしてくれるかな」
彩羽「え?」
莉菜「いや……(と結花を見て)何ていうか、木谷さんってちょっと取っ付きにくいっていうか、クラスのみんなからちょっと嫌われてて。ウチも正直ちょっと苦手でさ」
彩羽「えー……莉菜ちゃんが苦手とかあるんだ。まあ、なんか……(と結花を見て)そんな感じするけど」
京堂「ちょっと、人を見かけで判断するの良くないですよ――」
結花の声「チッ(と、大きな舌打ち)」
彩羽と京堂、結花を見る。
結花、しかめっ面で足を組みながらスマホを見ていて、小声で何やらブツブツ言っている。
彩羽「……やめとく?」
莉菜・京堂「(互いに目合わせ)……」
彩羽「いやっ……ここは私が話しかけるよ」
莉菜・京堂「え?」
彩羽「そもそも始めたのは私だし、ここでひよっててもしょうがないよね。……よし」
彩羽、深呼吸の後、結花のもとへ。
彩羽「あの……」
結花「(彩羽を睨み)何?」
彩羽「(怯むが)木谷さん、演劇って興味あるかな。実は、今度の40周年式典で演劇やろうと思ってて。それで、木谷さんに役者をやってもらいたいんだけど……どうかな」
結花「(鼻で笑い)え、なんで私が?」
彩羽「……この前インスタで見たんだけど、木谷さん、美少女コンテスト取って、モデルデビューするんでしょ? すごいなあと思って(と、作り笑い)」
結花「(若干嬉しく)へー、私のこと知ってくれてるんだ」
彩羽「うん、それで……」
結花「私ねー、今度連ドラ出ることになったんだよね」
彩羽「えっ……そうなの? す、すごいじゃん。もう立派な役者さんじゃん」
結花「そう。だから無理」
彩羽「……え?」
結花「え、逆になんで、連ドラ出るような私が、そんなちっちゃい演劇に出ると思ってんの? 普通に。やるわけないでしょ」
結花、鼻で笑って、スマホを見始める。
彩羽「あー……了解でーす、ハハ……」
彩羽、莉菜と京堂のもとへ帰る。
莉菜「ダメだった?」
彩羽「ダメだった……」
京堂「お察しします」
彩羽「ありがとう……」
莉菜「あのね、さっき京堂くんと話してたんだけど……あそこ」
莉菜が指差す先には、大勢の人に囲まれている橋口友也(17)。
莉菜「橋口くん、木谷さんと幼馴染なんだって」
彩羽「そうなの?」
京堂「僕、二人と同じ中学だったんですよ。そこで、二人で話してるとこ、何度か見かけて」
彩羽「へー、あ、じゃあ、ちょっと頼んでみようよ。ねえ、仲良いんだったら、言うこと聞いてくれるかもしれないし」
莉菜「うん、アリだと思う」
京堂「あ、でも、仲良いとかでは……」
彩羽「え?」
チャイムが鳴る。
彩羽「あ、じゃあ、放課後ちょっと聞いてみよう」
28 同(時間経過)
放課後。
モジモジと立っている彩羽と京堂。
友也は昼休み同様、大勢の人に囲まれている。
京堂「……池田さんは?」
彩羽「莉菜ちゃんはカラオケ。あのコは私と違ってリア充だから。毎日忙しいの」
京堂「そうですか……」
間。
彩羽「……いや、話しかけてよ」
京堂「盛り上がってるとこ話止めるの、悪いですし」
彩羽「そんなん言ってたら、何も始まんないでしょうよ」
京堂「じゃあ根元さん、話しかけて下さいよ」
彩羽「それ言い出すのはなんか、違うじゃん」
京堂「何が違うんですか」
× × ×
同級生の男子・桶谷謙(17)や西澤克人(17)らと大勢と話している友也。
桶谷「俺この前、USJ行ったんだけどさ。これ見て。ジャ〜ン」
桶谷、百味ビーンズを皆に見せる。
西澤「百味ビーンズ?」
桶谷「そう。誰か味見してくんねーかなと思ってさ」
西澤「そんなんもう橋口しかいねーじゃん」
友也「……いや、俺かよ!」
桶谷「大丈夫。食ってみ。意外とうまいから。ほら、耳くそ味(と渡して)」
友也「(嫌々食べて)オエッ」
一同、笑う。
友也「くそ不味いじゃねーかよ!」
さらに笑う一同。
友也、笑いつつも、どこか無理をしている様子で。
友也「……あ、じゃ、俺、トイレ」
と輪を抜けると、目の前に彩羽と京堂が。
ビクッと立ち止まる友也。
二人は未だに「行きなよ」「そっちが行ってくださいよ」と言い争っている。
友也「(二人を見つめ)……何?」
彩羽・京堂「(気付き)……あ」
29 カラオケ・個室
カラオケ中の千明、美保、恭子、莉菜。
千明はHoney Worksの『可愛くてごめん』を歌っている。
美保、莉菜にデンモクを渡して。
美保「ハイ」
莉菜「あ、ありがと」
莉菜、デンモクを操作。
「松任谷由実」と検索し、曲名をタップしようとするも、手が止まる。
操作を戻し、YOASOBI『アイドル』を予約。
30 県立朝比奈高校・廊下
友也と話している彩羽と京堂。
友也「なるほどねー……」
彩羽「何とか説得する方法ないかな」
友也「無理だと思うよー? アイツ興味ないことにはトコトン興味ないからね」
彩羽「うーん……例えば、私じゃなくて、橋口くんが説得するっていうのは……」
友也「それはもっと無理だと思うけど」
彩羽「どうして?」
友也「……俺もアイツも仲悪くてさ。俺はアイツの卑屈なところが嫌いで、アイツは俺の……なんかこう、ピエロになってる感じが嫌いみたいで。もう何年もまともにしゃべってねーの」
彩羽「そうなんだ……」
友也「まあアイツバカだからさ、適当に嘘流し込んどけば勝手に引っかかると思うよ」
京堂「(閃いた様子で)あの……じゃあ、木谷さんの弱点とかって知ってたりしますか?」
友也「弱点?」
京堂「これ出されたら弱い、みたいな、木谷さんが猛烈に興味あることとか」
友也「ああ……それならいっぱい知ってるけど……え、聞く?」
彩羽・京堂「……(互いに目を合わせ、頷く)」
31 同・教室(日替わり)
肘を付き、ため息をつきながらスマホを見ている結花。
彩羽の声「木谷さん?」
見ると、横に彩羽が立っている。
彩羽、耕平の戯曲を机に置く。
結花「……何、また?」
彩羽「うん。お願いできないかな」
結花「しつこい。私、今忙しいの」
彩羽「……この式典、結構伝統的な記念式典だから、ここの卒業生の芸能人もいっぱい来ると思うんだよね」
結花「……え?」
彩羽「そうなると、芸能関係者もいっぱい来るから……もしかしたら、ここで演技力を評価されれば、もっとすごい事務所にスカウトされるかも」
結花「……」
彩羽「それで民放連ドラの中心人物役でブレイクして……ゆくゆくは朝ドラヒロインなんかやれちゃったりして」
結花「(強く反応し)……!」
彩羽「ま、でも、木谷さん、興味ないんだもんね、演劇。せっかくのチャンスだと思ったんだけどな〜。ま、しょうがないか……」
結花「やる」
彩羽「え?」
結花「(恥ずかしそうに声を張って)やる」
彩羽「ホントに?」
結花「……(頷く)」
彩羽「ありがと〜〜〜!(と、一人で拍手)」
結花「ホントにスカウト来るんでしょうね」
彩羽「それは木谷さん次第でしょ」
結花「何それ。……頑張んなきゃじゃん」
彩羽「頑張って」
結花、慌ただしく戯曲をペラペラめくる。
彩羽「……(よし、と微笑む)」
32 同(時間経過)
放課後。
彩羽、自席を離れ、莉菜のもとへ。
彩羽「莉菜ちゃん」
莉菜「ん?」
彩羽「今日、一緒に帰らない?」
莉菜「あー……ごめん。今日、ボウリングで。また今度ね」
彩羽「あ……そっか。分かった」
廊下から千明の声。
千明の声「莉菜ー」
莉菜「あ、はーい。(彩羽に)じゃ、またね」
莉菜、廊下に出る。
彩羽、京堂の方を見る。
京堂、相変わらず「すみません、すみません」と人々の間を通っている。
33 同・中庭
並んで歩く彩羽と京堂。
彩羽「……やっぱり、ホントの意味で友達にはなれないのかな」
京堂「え?」
彩羽「あーごめん、こっちの話」
京堂「はあ……」
彩羽「てか、京堂くんってさ、なんでいっつもペコペコしてんの?」
京堂「え?」
彩羽「だって、クラスメイトの間通る時、いつも言ってるじゃん。すみません、すみませんって。そんな申し訳なさそうにしなくてもいいのに」
京堂「僕のせいで空気が乱れるの嫌なんで」
彩羽「え?」
京堂「僕が通ることによって、あの人たちの話が一旦止まるわけじゃないですか。なんか申し訳ないじゃないですか」
彩羽「考えすぎだよ」
京堂「僕はただ、みんなの邪魔になりたくないだけなんです。他人に迷惑をかけないように、空気を読んで、穏便に過ごしていきたいだけで」
彩羽「でも……空気を読むのと、空気になるのは違うでしょ。このままだと、ホントに誰にも相手にされなくなっちゃうよ」
京堂「いいんですよ。僕は空気でいいんです。……じゃ、僕、こっちなんで」
京堂、一礼し、行ってしまう。
34 コンビニ・店内
アルバイトをしている陽平。
客「ピザまん一つで」
陽平「はい」
陽平、ピザまんを掴み取ると、そのまま固まってしまう。
客「……? あの……」
陽平「(我に返り)あ……すみません」
陽平、ピザまんを包み、客に渡す。
陽平「ありがとうございました」
彩羽の声「すみません、コピー機壊れちゃったみたいなんですけど」
陽平「あ、少々お待ちください」
陽平、行くと、戯曲を持った彩羽が。
陽平・彩羽「あ」
互いに気まずい間。
陽平、コピー機を無言で直し、レジに戻ろうと歩く。
彩羽「……あの」
陽平「(振り返り)……」
彩羽「……私がやろうとしていることに、意味があるとは思ってません。でも……意味がないことにも、意味ってあると思うんです。……意味わかんないこと言ってますけど、少なくとも私は、演劇に心を救われました。演劇には、誰かを変える力がある。工藤くんが何を思ってこれを書いたのかは分からないけど……演劇には意味があるって、証明したいです。工藤くんが伝えたかったことを、私がみんなに伝えます」
陽平「……勝手にしろ」
陽平、レジに戻る。
35 県立朝比奈高校・教室〜廊下(日替わり)
昼休み、桶谷含め大勢に囲まれながら弁当を食べている友也。
桶谷、友也の弁当を見て。
桶谷「前から思ってたんだけどさ、なんでお前の弁当、魚ばっかなの」
友也「あー……ウチの親が魚屋でさ、晩飯とかも大体魚中心なんだよね」
桶谷「へー、お前、魚屋の息子なんだ。だからいっつも魚くせーんだ」
友也「……いや、魚くさくねーし!」
桶谷「え? てことは何? 親とかも魚くせーの?」
友也「……いや、親……は、普通……だよ」
桶谷「えー? だって毎日魚触ってんでしょ? 絶対魚くせーじゃん。なー? 魚くせーよな?(と、皆に)」
一同、笑っている。
友也、顔を引きつらせながら笑う。
通りがかった結花、そんな友也の姿をじっと見つめる。
友也、結花と目が合い、バツが悪い顔に。
結花、教室を出る。
友也「……あ、俺ちょっと、トイレ」
友也、輪を抜け、廊下に出ると、彩羽が待ち構えていた。
友也「うぉっ……びっくりした」
彩羽「こないだはありがとう。無事木谷さんに入ってもらえた」
友也「……あ、そう。うん。よかったね(と、行こうとするが)」
彩羽「橋口くんにも役者をやってほしい」
友也「え? なんで俺が」
彩羽、耕平の戯曲を見せて。
彩羽「ここの、アキラって役が橋口くんのイメージにピッタリなんだよね。なんかこう、ムードメーカー? 的な感じが」
友也「……ムードメーカー(と、小声で自嘲)」
彩羽「……ん?」
友也「ごめん、パスで」
彩羽「え」
友也、盛り上がっているクラスメイトを見ながら。
友也「いや俺は別にいいんだけどね。……目立つの得意だし。ただ、木谷が嫌がるだろうし。向いてないっしょ、役者とか。じゃ」
友也、去っていく。
36 同・視聴覚室
机に向かう彩羽、莉菜、京堂、結花。
机にはそれぞれの台本が置かれている。
彩羽「よし……そしたら、まずは読み合わせから始めよっか」
莉菜「男子2人のとこはどうすんの?」
彩羽「そこは一旦私と京堂くんで。(京堂に)できる?」
京堂「……自信ないですけど」
莉菜「ウチも、ちょっと……」
彩羽「……まあ、今日は軽く読むだけだから。(結花に)木谷さんは慣れてるから大丈夫だよね?」
結花「え? ……まあね?」
彩羽「よし。じゃ……よーい、ハイ」
読み合わせが始まる。
莉菜「(不安げに)ねえ、どうすんの、結局」
結花「(棒読みで)ナニガ?」
彩羽、ん? と。
莉菜「企画……っていうか大会? 決めるんでしょ? 文化祭の」
結花「(棒読み)ナンデモイイヨ」
彩羽「……俺も〜」
京堂「(弱々しく)僕も……」
莉菜「ちょっと、ダメだよ、そんな適当じゃ。ちゃんと決めないと」
結花「(棒読み)ダイタイ、ナンデウチラガキメナキャイケナイワケヨ」
37 工藤家・リビング
雅子の前で突っ伏している彩羽。
雅子「……大丈夫?」
彩羽「騙されました。この前言ってたモデルの子、めちゃくちゃ下手でした。もうこの先やってけるビジョンが見えません」
雅子「そんなことないよ」
彩羽「そうですかね」
雅子「そうだよ。それに、私、彩羽ちゃんには感謝してるんだよ?」
彩羽「(顔を上げ)え?」
雅子「そりゃ、初めはピンときてなかったけどさ、耕平のために、みんなが力を合わせて動いてくれてるって考えたら、それだけですごく嬉しいんだ。だから頑張って」
彩羽「……そんな綺麗な話じゃないです」
雅子「え?」
彩羽「……いや、私もよく分かってないんですよ。自分が何のためにこんなことしてるのか。……この前のお兄さんの言葉が結構刺さっちゃってて」
雅子「それは……」
彩羽「耕平くんのためだけど……それだけじゃないです」
雅子「……」
彩羽「……耕平くんが亡くなった時、クラスのみんな誰も泣いてなくて。しばらくしたら元に戻って、いつもと変わらず、楽しそうに喋ってて。私も泣かなかったうちの一人だけど、でも悔しかった。人って、死んだらホントにいなくなっちゃうんだ。誰の記憶にも残らないまま、いなくなっちゃうんだ。そう思うと……死ぬのが怖くなりました。私が死んでも、多分おんなじ感じだったんじゃないかって。だから、みんなを見返したくて。耕平くんのためだけど、半分は自分のためです」
雅子「……」
彩羽「……あ、ごめんなさい、お母さんの前で、こんな……」
雅子「(首を振り)ううん。ま……そうだよね。私も生きてる内はあの子に構ってあげられなかったから。おんなじようなもんだよ」
彩羽「……」
雅子「耕平のこと、皆に知らしめてやって」
彩羽「はい」
陽平、キッチンで隠れて話を聞いている。
陽平「……」
38 路上(日替わり)
ドラマの撮影中。
結花にカメラが向けられている。
結花「(棒読みで)私にはあなたが必要なの。私を信じて。私があなたを守る」
監督の声「カット」
監督、結花の前に出てきて。
監督「おい、お前、いつになったらできるようになるんだよ」
結花「……すいません」
監督「あのな、お前より可愛くて演技の上手い奴なんか芸能界にいくらでもいんだよ。撮影の邪魔しに来たんだったら帰ってくれ。……(舌打ちし、ため息)一旦休憩」
結花、助監督に近づいて。
結花「すいません、お手洗いって」
助監督「ああ、あっちです(と奥を指して)」
結花、一礼し、小走りで歩き出す。
遠くまで来たところで振り返る。
結花、早歩きで去っていく。
39 住宅街
トボトボ歩いている結花。
目の前を友也が歩いている。
お互い目が合うが、無視してすれ違う。
が、友也、立ち止まって。
友也「……なあ」
結花「(振り返り)……」
友也「……なんかあった?」
結花「……(目に涙を溜めていて)」
40 公園
ベンチに座って話している結花と友也。
友也「ひでえな、そりゃ」
結花「そう。マジでありえなくない? 今度パワハラで訴えようかな」
友也「え、それで撮影抜け出してきたの?」
結花「うん」
友也「(笑って)やば。ウケる」
結花「笑い事じゃないんだけど」
友也「へー……なんか相変わらずだなお前も」
結花「……そっちも相変わらずだね」
友也「何が?」
結花「アイツらに好き勝手言われてて。悔しくないの? あれはもういじりじゃないよ、罵倒だよ。友也のお父さんお母さんがどれだけ必死に働いてるかも知らないくせに。面白くもなんともない」
友也「……自分が面白いと思ってなくても、その他大勢が笑ってれば、それは面白いってことなんだよ」
結花「意味わかんない。プライドとかないわけ?」
友也「……プライドなんかない方が生きやすいだろ」
結花「は?」
友也「それに、いじられもせず、誰からも見向きもされない方が俺にとっちゃ酷だから。いじってもらえるだけありがたいよ」
結花「何それ。そうやって一生あいつらの言いなりになって笑われて、ペコペコヘラヘラしながら生きてくんだ。キョド男と一緒じゃん」
友也「(言い返せず)……」
結花「あー、なんかイライラしてきた。帰る」
結花、立ち上がり、去っていく。
友也「(内心忸怩たる思いがあって)……」
41 県立朝比奈高校・視聴覚室(日替わり)
読み合わせをしている彩羽、莉菜、京堂、結花。
そこへ、友也が入ってくる。
四人、驚いて友也を見る。
結花「は?」
彩羽「橋口くん? どうしたの?」
友也「……ひとまず見学だけしようかなと思って。……いい?」
彩羽「(嬉しく)あ……もちろんもちろん。ありがとう。そこ座って」
友也「うん」
結花、席につく友也のもとへ行き。
結花「(小声で)なんで来んのよ」
友也「……このままじゃ、何も変わらないと思ったから」
結花「何それ」
彩羽「いいねいいね。揃ってきたね。順調だね(と、一人嬉しそう)」
42 コンビニ・店内
友也用の戯曲をコピーしている彩羽。
コピーが終わり、レジを見ると、バイト中の陽平と目が合う。
彩羽、軽く会釈し、出ようとすると、
陽平「……待って」
彩羽「……え?」
43 同・外
ベンチに並んで座る彩羽と陽平。
彩羽「バイト、大丈夫なんですか?」
陽平「ああ、ちょうど上がりだから。これ、色々キツいこと言ったお詫び」
陽平、彩羽にピザまんを渡す。
彩羽「ああ……どうも」
陽平もピザまんを取り出し、頬張る二人。
陽平「……なんかごめんな。俺も色々訳わかんなくてさ。申し訳ないことしたわ」
彩羽「(首を振り)耕平くんのこと、好きだったんですよね」
陽平「どうだかね。アイツ喋んないからさ。何考えてんのか分かんねーし、血も繋がってねーし。正直最初は気味悪がってたよ」
彩羽「……」
陽平「でも……これ(と、ピザまんを見せて)」
彩羽「?」
陽平「あれが好きこれが好きとか言わない奴だったけど、唯一これは好きみたいでさ。一緒に遊んだ帰りはよくここで食べてた」
彩羽「へー……」
陽平「ま、言っても家族だからね。喋ることはなくても、笑うことくらいはあったよ」
彩羽「……そうなんですね」
陽平「意外だった?」
彩羽「ああ……はい」
陽平「……ま、学校じゃより喋んねーだろうな。友達とかいた?」
彩羽「あー……」
陽平「キミは? 友達?」
彩羽「……(苦い表情)」
陽平「そう。……いや、アイツ時々言ってたんだよ。『誰の役にも立ってないような気がする』って。車に撥ねられて死んだって聞いた時、ちょっと考えちゃって。事故ってなってるけど、ホントは自分から飛び出してったんじゃないかって。……まあ、こんなこと、考えちゃいけないんだろうけど」
彩羽「……」
44 路上
マネージャー・田代と電話しながら歩く結花。
結花「あ、もしもし、木谷です」
田代の声「結花ちゃん? どうしたの?」
結花「あの……先日は本当にすみませんでした」
田代の声「え?」
結花「あの……撮影抜け出した件……」
田代の声「あ〜あれね(笑)はいはい(笑)」
結花「はい。あの、監督にも直々に謝罪するので、もう一度撮影を……」
田代の声「あ、それねえ、もう別の子に差し替えること決まったから」
結花「……え」
結花、足を止める。
田代の声「いや、ぶっちゃけあの役さ、ただの1話のゲストだし、大した役じゃないからさ、顔が良ければ誰でもよかったのよ。あーその、プロデューサー的にもね?」
結花「……」
田代の声「んー、だからそれで結花ちゃんちょっと推薦してみたんだけど……やっぱダメだね、演技できる子じゃないと。ごめんね、向いてないことさせちゃって」
結花「(呆然と)いえ……」
田代の声「じゃまた。お疲れ〜」
電話が切れる。
結花「……」
45 県立朝比奈高校・教室(日替わり)
放課後、自席から立ち上がり、ロッカーからほうきを取り出す彩羽。
前方を見ると、美保と話す莉菜の姿が目に入る。
美保「(手を合わせ)ごめん。お願いしてもいい?」
莉菜「……うん。いいよ」
美保「ありがと〜……もう莉菜が友達でよかったよ〜」
莉菜「(笑って)全然」
そこへ、千明と恭子がやってきて。
恭子「いけた?」
美保「あ、うん、いけた」
千明「よし、じゃ、行こっか。(莉菜に)あ、莉菜、ありがとね」
莉菜「うん」
千明、美保、恭子、去っていく。
彩羽「(見ていて)……」
莉菜、ほうきを取ろうとロッカーに向かったところで、彩羽に気づく。
莉菜「あ、彩羽ちゃん。彩羽ちゃんも掃除当番?」
彩羽「あ……うん」
莉菜「おー、ラッキー。じゃあ、一緒にやろ」
彩羽「うん……」
莉菜、ロッカーからほうきを取り出す。
彩羽と莉菜、掃除を始める。
彩羽「……莉菜ちゃんってさ……今日掃除当番じゃないよね?」
莉菜「ん?」
彩羽「また代わってあげたの?」
莉菜「……うん。今日もカラオケだって」
彩羽「……そっか」
莉菜「……うん(と、笑顔を作って)」
彩羽と莉菜、掃除を続ける。
彩羽、少し考えたのち、手を止めて。
彩羽「……あのさ」
莉菜「ん?」
彩羽「……私とカラオケ行かない?」
莉菜「……え?」
46 カラオケ・個室
入ってくる彩羽と莉菜。
彩羽「うわ、カラオケとか何年ぶりだろ」
莉菜「ウチ、二人でカラオケ来たの初めて」
彩羽「それ言ったら私は友達とカラオケ来たのも初めてだよ」
莉菜「……え?」
彩羽「何歌う?」
莉菜「あー……ね。何歌おう」
莉菜、デンモクを手にするが、選曲に迷い、彩羽にデンモクを渡す。
莉菜「先いいよ」
彩羽「え? いいの?」
莉菜「うん」
彩羽「あ、そう。じゃあ……どうしよっかな……あ、じゃ、これにしよ」
彩羽、曲を送信。
画面に『夢敗れて ミュージカル〈レ・ミゼラブル〉』と出る。
莉菜「……(え)」
彩羽、歌い出す。
カラオケらしからぬ、悲しげで荘厳な雰囲気に圧倒される莉菜。
彩羽、歌い終わって。
彩羽「ハイ、どうぞ(と、デンモクを渡す)」
莉菜「あ、うん……」
莉菜、デンモクを手に取り、考え込む。
彩羽「……ん?」
莉菜「んー……どういうのがいい?」
彩羽「え? なんで、好きなの歌いなよ」
莉菜「あ……うん」
莉菜、迷った末、松任谷由実『やさしさに包まれたなら』を送信。
彩羽「おー、いいじゃん、ユーミン好き」
莉菜「ホントに? よかった、古いって言われると思った」
彩羽「なんで、言わないよ」
莉菜「……そうだよね」
莉菜、歌い出す。
47 路上(夜)
並んで歩く彩羽と莉菜。
彩羽「そう、それで『ロミオとジュリエット』ができたんだって。や〜、すごいよね、シェイクスピア。マジで天才だよね」
莉菜「……ね〜(と合わせて笑って)」
彩羽「(我に返り)あ、ごめん興味ないよね」
莉菜「(首を振り)ううん。こういう話聞くの初めてだから。いろんなこと知れて、楽しいよ」
彩羽「……あ、そう。ならよかった」
莉菜「うん」
彩羽「あ、じゃ、莉菜ちゃんは? 何か好きなものあるの?」
莉菜「んー……(と笑顔作り)……忘れちゃった」
彩羽「……え?」
莉菜「いや……別に好きなものがなかったわけじゃないんだけどね……ウチにとっての好きが、みんなにとっての好きとは限らないから。文化祭の出し物とか、あれやりたいこれやりたいって言っても、誰も聞いてくれなくて」
彩羽「……」
莉菜「だから、好きなことの話をするのはもうやめたの。周りに合わせて、ニコニコして、頼まれごとがあったら、全部いいよって返して。そしたら……みんなから好かれるようになって。だから……(と、我に返り)ごめん、こんな話。やめよ。やめやめ。(と笑顔作り)シェイクスピアの話しよ」
彩羽「私も」
莉菜「え?」
彩羽「私も、中学の頃、クラス演劇で、みんなディズニーやろうとしてる時に、一人だけシェイクスピアやろうって言ったことあるよ」
莉菜「え……どうだった?」
彩羽「ガン無視された(笑)」
莉菜「(笑って)」
彩羽「あ、やっと笑った」
莉菜「え?」
彩羽「無理して笑わなくていいよ。別に人に合わせなくていいし、ユーミンだって歌っていいよ。古いかなとか考えるのは、ユーミンに失礼だよ」
莉菜「……たしかに」
彩羽「……またカラオケ行こうね」
莉菜「うん」
48 県立朝比奈高校・教室(日替わり)
自席にて戯曲を見て考え込んでいる彩羽。
迷った末に立ち上がり、京堂のもとへ。
彩羽「……京堂くん、ちょっといい?」
京堂「はい……」
彩羽「他に代役が見つからないから、やっぱり役者をやってほしくて」
京堂「……前にも言いましたけど、僕、目立ちたくないんです」
彩羽「うん……いや、もちろん無理強いはしないんだけどさ……ホントは京堂くん、誰よりも目立ちたいんじゃないかって」
京堂「……え?」
彩羽「私もそうだったからわかるの。目立ちたいけど、悪目立ちはしたくないんだよね」
京堂「違います。何も成し遂げてない人間が、目立とうなんて考えちゃいけません。僕の趣味は寝ることだし、特技は人より早く寝ることです。何の取り柄もありませんから」
彩羽「取り柄なんかなくたっていいじゃん。京堂くんがいいから言ってんの。京堂くんじゃなきゃ嫌なの」
京堂「(その言葉に)……」
彩羽「私もずっとそう思ってたけど、工藤くんが死んでから、そうも言ってられないなって思った。自分を大事にできるのは、自分だけだって。だから……(と、我に返り)……ごめん、ちょっと無理に頼みすぎた。いつも手伝ってくれて、ありがとね」
京堂「あ、いや……」
彩羽、自席に戻る。
京堂「……(自分が情けなく、ため息)」
49 木谷家・リビング(夜)
ビニール袋を持って帰宅する結花。
家には誰もいない。
電気もつけず、死んだ目で袋からコンビニ弁当を出し、食べる。
テレビをつけると、ドラマの結花が演じるはずだったシーンが放映されていた。
結花の役を代役が務めている。
代役「(迫真の演技で)私にはあなたが必要なの。私を信じて。私があなたを守る」
結花「……(悔しく)」
結花、涙をボロボロこぼしながら弁当を食べる。
50 県立朝比奈高校・視聴覚室(日替わり)
半立ち稽古をしている彩羽、莉菜、京堂、結花、友也。
結花「(ボソボソと)なんなら、ミスコンとかでもいいよ。私、優勝する自信あるし」
彩羽「あ、木谷さん。もうちょっと声張って」
結花「(棒読みで)なんなら、ミスコンとかでもいいよ。私、優勝する自信あるし」
彩羽「うーん……なんだろう、もうちょっと感情込めて言ってもらうことってできないかな?」
結花「(投げやりに)なんなら、ミスコンとかでもいいよ。私、優勝する自信あるし」
彩羽「いや……なんか、その……んー……」
結花「何?」
彩羽「あー、えっと……」
結花「いや、別にいいよもう。下手って言えば?」
彩羽「いや、その、下手っていうか……」
結花「下手なんでしょ?」
彩羽「……」
結花「(ため息をつき、苦しく)……もういい」
結花、教室を出ていく。
彩羽、追いかけて。
彩羽「木谷さん」
友也「無駄だよ」
彩羽「(足を止め、振り返り)え?」
友也「一度ああなったら聞かない。アイツはそういう奴だ」
51 同・中庭〜自転車置き場
歩いている友也。
その後ろを彩羽がついて歩く。
友也「……なんでついてくんの」
彩羽「ちょっと聞きたいことがあって」
友也「何?」
彩羽「木谷さんって、昔からあんな感じだったの?」
友也「……なんで?」
彩羽「いや……なんとなく気になって」
友也「……昔はあんなんじゃなかったよ。『可愛い可愛い』ってみんなにチヤホヤされてたから。普通に素直でいい奴だった」
彩羽「そうだったんだ……」
友也「……でも、だんだん飽きられて、自分が何やってもうまくいかないって分かってから、どんどん卑屈になってって。そっからかな、話さなくなってったのは」
彩羽「そっか……」
友也「うん」
二人、自転車置き場に到着。
友也、自転車の鍵を外し、押して歩く。
友也「どこまでついてくんだよ」
彩羽「木谷さんのこと、引き止めてくれないかな」
友也「え?」
彩羽「私には、木谷さんが必要だから。……木谷さん、橋口くん以外にはもう、心開いてくれないんじゃないかって思うんだよ。だから――」
友也「そんな資格ないよ」
彩羽「……え?」
友也「……昔、子どもの頃、俺アイツに言ったんだ。『お前なんか顔だけの奴だ』って。アイツがああなったのも、ホントは俺のせいかもしれない」
彩羽「……」
友也「うらやましかったんだよ、みんなに囲まれてるアイツが。俺、結構最低な人間だから。みんなから愛される人になりたくて頑張ったけど、いつの間にか自分のポジションばっか気になって、木谷とか京堂みたいな奴のこと、内心ちょっと見下してた。見下されてるのは俺の方だったけど。……こんな人間になりたくなかったな」
友也、歩き出す。
彩羽「それは……違うと思う」
友也「(振り返り)……え?」
彩羽「みんなから愛される人になりたいっていうのは、みんなを笑顔にしたいってことだよ。いじられキャラ続けられてるのは、どんな形であれ、みんなに笑ってほしかったからでしょ? 最低かもしれないけど、いいとこもあるよ」
友也「そうかな」
彩羽「うん。演劇でさ、みんなに笑ってもらおうよ。アキラのキャラ、面白いよ」
52 県立朝比奈高校・教室(日替わり)
彩羽、莉菜のもとへ。
彩羽「莉菜ちゃん」
莉菜「ん?」
彩羽「……ちょっといい?」
53 同・廊下
歩いている結花。
前を歩く彩羽に気付き、踵を返す。
彩羽「待って」
彩羽、追いかける。
結花、立ち止まって振り返り、
結花「……もういいよ。自分が顔だけの奴だって、私が一番思ってるから。アンタだって、心の中では笑ってるんでしょ」
彩羽「(首を振り)そんなことない」
結花「……」
彩羽「莉菜ちゃんと木谷さんの役、交換しようと思ってる」
結花「……え?」
彩羽「エリカは自信満々なキャラだから木谷さん。ヒカリは天真爛漫なキャラだから莉菜ちゃん。二人のイメージに合うと思って選んだんだけど、この際逆にしてみようかなと思って」
結花「なんで」
彩羽「稽古の時、全然楽しそうじゃなかったから、役が合ってないのかなと思って。ほら、朝ドラヒロインやりたいって言ってたじゃん」
結花「それは……」
彩羽「なりたい自分になれるのが演劇だから」
結花「なりたい自分って……こんなの全然私じゃない」
彩羽「莉菜ちゃん、エリカになりたいって。自由に生きてるエリカのことが羨ましいって」
結花「……」
彩羽「木谷さんは? どんな自分になりたいの?」
結花「私……私は……」
結花、涙をこぼして。
結花「……朝ドラヒロインになりたい」
彩羽「(笑って)なろう、朝ドラヒロイン」
54 同・視聴覚室
半立ち稽古をしている彩羽、莉菜、京堂、結花、友也。
彩羽「よし、じゃ、一旦休憩にしよっか」
友也「……(挙手して)あの」
彩羽「ん?」
友也「役者、やってみようと思う。今まで見学だったけど、出てみたいって、役者になってみたいって思った」
彩羽「……ホントに?」
友也「うん」
彩羽「おぉ〜!」
彩羽、莉菜にハイタッチ。
その流れで京堂の方を見る。
京堂「……えっ」
彩羽「あ、ごめんごめん。同調圧力、よくないね。ごめん。よし、じゃあ、休憩……」
京堂「分かりました。やります」
彩羽「……え?」
京堂「……あそこまで言われたら、やるしかないじゃないですか」
彩羽「……マジで?」
京堂「はい」
彩羽「やった〜!」
彩羽、莉菜に再びハイタッチ。
結花「うるさいなー。今集中してんだけど」
彩羽・莉菜「……」
彩羽と莉菜、静かにハイタッチ。
55 根元家・彩羽の部屋(夜)
机に向かって、台本に書き込みやマーカーをしている彩羽。
表情、すごく嬉しそう。
56 県立朝比奈高校・視聴覚室(日替わり)
立ち稽古をしている彩羽、莉菜、京堂、結花、友也。
彩羽「……あのさ」
莉菜「ん?」
彩羽「私たちの……この、劇団の名前、カラーズっていうのどうかな。……ほら、みんなぞれぞれ色がある、的な」
結花「……ありがちじゃない?」
友也「ありがちだな」
京堂「ありがちですね」
莉菜「ありがちだね」
彩羽「え、そんなありがち? 良くない?」
そこへ、矢吹が入ってくる。
矢吹「あーいたいた。(手招きし)ちょっと」
彩羽「え?」
矢吹「校長先生が呼んでる」
五人「(顔を見合わせ)……?」
57 同・校長室
彩羽、莉菜、京堂、結花、友也、入ると、南武が神妙な面持ちで立っている。
彩羽「……あの、用件って?」
南武「えー……大変申し上げにくいんだけど……君たちの公演、もしかしたらできないかもしれない」
五人、え、と困惑。
彩羽「ど、どうして」
南武「いや、実はさっき吹奏楽部から申し出があって。君たちの公演があるせいで吹奏楽部の演奏曲が1曲少なくなるから、上演を取りやめにしてほしいって言うんだよ」
彩羽「は? なんですかそれ」
南武「まあ、向こうにも向こうの考えがあって……」
彩羽「いやいや、だって、先に公演の話を決めたのはこっちですよね?」
南武「いやまあ、そうなんだけど、その……」
突如、ガラガラと音がして、吹石琴音(17)が入ってくる。
五人、ビクッと振り返る。
彩羽「(琴音を見て)……!」
琴音「皆さん、お揃いでしたか」
結花「あ、あんた誰よ」
琴音「吹奏楽部次期部長を務めています、吹石琴音と申します。校長先生から話は聞きましたか?」
友也「いや、聞いたは聞いたけど、納得はできてねーよ」
京堂「そ、そうですよ。今更こんなこと言われたって、困りますよ」
琴音「それに関しては大変申し訳ございませんが、吹奏楽部にも吹奏楽部の伝統というものがありまして」
莉菜「伝統?」
琴音「我々吹奏楽部はこの5年刻みで行われる記念式典において、計6回もメインの演目を務めてきました。そして、その演奏曲はいずれも5曲が通例。これは、いわば吹奏楽部の伝統とも言えるものなんです」
結花「は?」
友也「別に、5曲も4曲も変わんねーだろ」
琴音「いいえ、大きく変わります。我々が積み上げてきた伝統をあなた方のせいで壊されるわけにはいかないんです」
莉菜「せいって、ウチら別に、悪いことしてないじゃんね」
友也「お前、言ってること無茶苦茶だぞ」
琴音「(表情変えず仏頂面で)……」
京堂「(挙手して)あの……さっきも話してたんですけど、そもそも、先に公演の話を決めたのはこっちなわけで、それを後から入ってきて、ゴチャゴチャ言うのは、違うんじゃないですかね……?」
彩羽以外の三人、ウンウンと同調。
琴音「先に決めたも何も、吹奏楽部が演奏を行うことは初めから決まっています。それに、あなた方の活動を校長先生から聞いたのはつい最近のことですから。今更と言われる筋合いもありません」
四人、南武を見る。
南武「いや……まさかダメって言われると思わなかったんだよ」
琴音「別に公演を行いたいのならそれで構いませんよ。その場合、吹奏楽部は演奏を辞退しますが」
南武「いや、それは困るよ……吹奏楽部の演奏はウチの式典の目玉じゃんか」
琴音「であれば、公演を取りやめるしかありませんね」
南武「いや……」
結花「ちょっと。何なの、アンタ。さっきから黙って聞いてれば」
琴音「はい?」
結花「伝統だかなんだか知んないけどさ、こっちはこっちで一生懸命努力して、お客さんに見せるために必死で稽古してんの。こんなしょーもないことで潰されるわけにはいかないの。わかる? (彩羽に)ほら、アンタからも何か言ってやんなさいよ」
彩羽「……(小声で何か言っている)」
結花「……え?(と、耳を傾けて)」
彩羽「(消え入りそうな声で)伝統なんだったらしょうがないんじゃないかな……」
結花「は? 何言ってんの? 伝統って別に深い言葉でも何でもないからね。(琴音を指して)コイツら、伝統って言っとけば何しても許されると思ってるんだから。バカだよ。頭良さそうなバカ」
彩羽「……(モジモジしていて)」
結花「……え、何? どうしたの?」
彩羽、琴音の方をチラッと見る。
琴音、彩羽と目が合うも、目をそらして。
琴音「……とにかく、こちらの考えは伝えましたので。どうするかはそちらで決めてください。……では、失礼します」
琴音、出ていく。
五人、呆然と立ち尽くす。
彩羽「……(悲しく)」
58 同・視聴覚室
話し合う彩羽、莉菜、京堂、結花、友也。
莉菜「どうすんの、結局」
友也「無視でいいだろ。あんな連中、構ってられっかよ」
結花「……(彩羽に)ねえ、なんなの、さっきの態度」
彩羽「え?」
結花「吹奏楽部のお偉いさんが来た途端、急に縮こまってさ。あれどういうこと?」
京堂「それ、僕も気になりました。あの人と昔、何かあったんですか?」
彩羽「……別に、何も」
結花「何もってことないでしょうよ」
友也「まあまあ、その辺でいいだろ。なんか話したくない事情でもあんじゃねーの?」
彩羽「……友達、だったんだよね。小学校の時からの」
四人「え?」
彩羽「私に唯一話しかけてくれて。演劇の話もいっぱい聞いてくれて。……でも、中学の時、私、演劇部作りたくて。それで、必死でクラスメイトに声かけてたら、うざいって、みんなから無視されちゃって」
莉菜「ひどい」
彩羽「そしたらその流れで琴音ちゃんにも……」
京堂「え?」
友也「友達だったんじゃねーの?」
彩羽「わかんない。わかんないけど、それから一度も話してない」
結花「何それ。最低じゃん」
彩羽「(首を振って)ううん。琴音ちゃん何も悪くないから。……調子乗って部員集めなんかした私が悪いの。琴音ちゃんのこと悪く言わないで」
結花「でも……」
彩羽「今日はもう終わりにしよう。お疲れ様でした」
彩羽、そそくさと部屋を出ていく。
59 根元家・リビング(夕)
帰宅する彩羽。
彩羽「ただいまー」
ソファーに座る仁美、ため息をつく。
彩羽「お母さん?」
仁美「……これ、何?」
仁美、机に置かれた戯曲を見せる。
仁美「なんでまた演劇やってんの?」
彩羽「あ……あ、えっと……」
仁美「ワークショップもダメで、中学でいじめられて、もうやらないって言ってたじゃない」
彩羽「ごめんなさい。でも……」
仁美「でもじゃなくて。お母さん、彩羽には普通に幸せになってほしいの。演劇に無駄な時間費やして、社会のレールから外れるような人間になってほしくないの」
仁美、彩羽に戯曲を床に落とし。
仁美「……こんなもの、捨てなさい」
彩羽「……」
60 県立朝比奈高校・廊下(日替わり)
莉菜、京堂、結花、友也の前で話す彩羽。
彩羽「上演、辞退することにしました」
四人、え、と口々に。
彩羽「せっかく集まってもらったのに……ホントにごめんなさい!(と、頭を下げる)」
莉菜「……それでいいの?」
彩羽「……」
莉菜「彩羽ちゃんは、それでいいの?」
彩羽「……ごめんなさい」
四人「……」
61 工藤家・リビング
向かい合って話している彩羽と雅子。
雅子「……そっか」
彩羽「ごめんなさい。散々期待させるようなこと言って……」
雅子「(首を振り)ううん。残念だけど、気持ちだけで充分だよ」
彩羽「……」
62 同・玄関〜路上
彩羽と雅子の別れ際。
彩羽「じゃあ、お邪魔しました」
雅子「うん。気をつけて」
彩羽「はい」
彩羽、一礼し、去っていく。
歩いていくうち、堪えきれずに泣いてしまう。
涙をこぼしながら歩く彩羽。
63 県立朝比奈高校・廊下(日替わり)
歩いている彩羽。
そこへ、校長室から結花の声が聞こえる。
結花の声「だから、校長の権限でどうにかできないの?」
彩羽、え、と近づき、中を覗く。
南武に対して結花が詰め寄っている。
莉菜、京堂、友也はそれをなだめている。
彩羽「……」
64 路上
自販機で水を買っている彩羽。
財布をしまう際、ふとカバンを見ると、キーホルダーがなくなっていると気づく。
慌てて探すも、ない。
65 工藤家・玄関
苦い表情でインターホンを押す彩羽。
しばらくして出てきたのは陽平。
陽平「……よっ」
彩羽「……(一礼)」
66 同・リビング
中に入る彩羽と陽平。
彩羽「あの、雅子さんは?」
陽平「母さんならパートでいないけど」
彩羽「ああ……」
陽平「(笑って)俺でよかったねー。ここで母さん出てきたら気まずいっしょ」
彩羽「え?」
陽平「聞いたよ。残念だったね」
彩羽「……はい」
陽平「で、何?」
彩羽「あ……あの、もしかしたらここにキーホルダーを落としたかもしれなくて……」
陽平「キーホルダー?」
彩羽「はい。あの……カバンに(と、カバンを見せて)」
陽平「あー……あ、もしかしてこれ?」
陽平、机に置かれたキーホルダーを取り、見せる。
彩羽「あ。それ。それです。はい。……あの、どこにあったんですか?」
陽平「ん、別にそのへん(と、床を指し)どっかに引っかかって落ちたんじゃねーの?」
彩羽「ああ……なるほど」
陽平、キーホルダーをまじまじと見て。
陽平「……これ、どこで買ったの?」
彩羽「え? ああ……本多劇場です」
陽平「本多劇場?」
彩羽「小学校の頃、そこで『ロミオとジュリエット』を見て。その時のグッズなんです。演劇を好きになったきっかけでもあって」
陽平「へー……あれ、本多劇場ってなんか聞いたことあんな。そこって下北?」
彩羽「はい」
陽平「……もしかしたら中1ん時に同じの見たかもしんない」
彩羽「え?」
陽平「いや、母さんの好きな俳優が出るからって無理やり連れてこられて。あ、そん時耕平もいたんだけど。俺は訳わかんなくて途中で寝たんだけど、耕平だけはやけに集中して見てたな」
彩羽「(驚いて)……」
固定電話が鳴る。
陽平「あ、ごめん、電話(と出て)もしもし。はい。はい。……え?(と、固まる)」
彩羽「……?」
陽平「あ……そうですか。……あ、いや……大丈夫です。事故は事故なんで。はい。……じゃ、後日。はい。はい。……失礼します(切る)」
彩羽「あの……?」
陽平「……事故の件。電話、どっかのお母さんからで。耕平、道路に飛び出した子供を庇って車に轢かれたんだって」
彩羽「えっ……」
陽平「アイツはアイツなりにちゃんと生きてた。ちゃんと……自分を大事に生きてた。なのに俺、勝手な想像して……バカだな、ホント……」
陽平、涙を流す。
彩羽「……陽平さん」
陽平「……何?」
彩羽「耕平くんに話しかけてもいいですか」
67 同・耕平の部屋
耕平の仏壇の前に座る彩羽。
線香をあげ、りんを鳴らし合掌。
ゆっくりと目を開ける。
彩羽「工藤くん。私です。根元です。今、工藤くんの書いた台本を上演しようと、みんなで稽古しています。あ、でも……もうやめちゃったんだけど。工藤くんが演劇好きなの、知らなかった。もっと早く話しかければよかったな。ごめん。私、あの時演劇の話するの怖くて。何読んでるの? 鴻上尚史が好きなの? 私は、蜷川幸雄が好きなんだ。……そうやって話せてたら、私たち、なかなかいい友達になってたかもね」
彩羽、微笑む。
彩羽「あのね、これ、もしかしたらすごい、余計なお世話かもしれないけど……でも言うね。私は……工藤くんがいてくれてよかったよ。工藤くんの台本と出会って、みんなで稽古して。楽しかった。久しぶりに誰かと笑った。工藤くんは誰かの役に立ってるよ。いなくていい人じゃないよ」
耕平の遺影を見つめる彩羽。
彩羽「……また来るね」
68 県立朝比奈高校・廊下〜視聴覚室(日替わり)
歩いている彩羽。
何やら視聴覚室から声がする。
彩羽、中に入ると、莉菜、京堂、結花、友也が稽古をしていた。
四人「(彩羽に気付き)……あ」
彩羽「……なんで?」
結花「なんでって……ねえ(と他三人を見て)」
友也「ま、なんだかんだでやってて楽しいし」
京堂「僕はもともとこの台本が好きなんで。ね(と、莉菜に)」
莉菜「(笑顔で)うん。やろやろ」
彩羽、感極まり、涙をこぼす。
友也「えっ……ちょっ、泣くなよ」
四人、彩羽に駆け寄る。
彩羽「あ、うん……ごめん。ごめんごめん……(と、言葉にならず号泣)」
彩羽を囲い込む四人。
彩羽「ありがとう……」
69 同・音楽室
琴音含め、合奏の練習をしている吹奏楽部員たち。
指揮をしていた顧問、突然指揮をやめて。
顧問「そこ、フルート。角度が違う。もっと上げて」
部員1「え、でも、角度とかって関係……」
顧問「関係あるでしょ。毎回これでやってんだから。伝統だよ伝統。(部長に)な?」
部長「はい」
顧問「はいもう一回」
楽器を構える部員一同。
琴音、一連を見ていて。
琴音「……(苦い表情)」
70 同・廊下
音楽室を出る琴音。
目の前に彩羽が立っている。
琴音「(立ち止まり)……」
彩羽「……式典の件で、話があるんだけど」
× × ×
人気のない場所に立つ彩羽と琴音。
琴音「(頭を下げ)ごめんなさい!」
彩羽「……えっ……?」
琴音「私……今までずっと、彩羽のこと無視して……」
彩羽「……」
琴音「本当は……ホントはずっと話しかけたかったんだけど……怖くて……今度は私が無視されるんじゃないかって、その……クラスの雰囲気に逆らえなくて……ずっと後悔してた」
彩羽「……」
琴音「(頭を下げ)本当にごめんなさい!」
彩羽「……(首を振り)いいよ」
琴音「(首を振り)よくない。私、また彩羽を裏切った」
彩羽「……え?」
琴音「上演止めろっていうのも、ホントは顧問と部長の指示で。反対したかったんだけど、逆らえなくて。バカだよね。人の顔色伺ってばっかで。ホント、自分が嫌になる」
彩羽「……」
琴音「二人のこと、説得してみるよ。もう誰かの意見に合わせるのはやめる。だから心配しないで。公演、必ずできるようにするから」
彩羽「……大丈夫?」
琴音「何が?」
彩羽「だって、琴音ちゃん、高校で吹奏楽部の部長になるの、夢だったよね。そんなことしたら、琴音ちゃん……」
琴音「いいの。彩羽は自分のことだけ考えて。……ほら、アンタももう私の顔なんか見たくないでしょ。もう行くから。じゃあね」
琴音、彩羽に背を向け、歩き出す。
彩羽「……待って」
琴音「……(振り返り)」
彩羽「私も行く」
琴音「え?」
彩羽「その代わり……一つだけ約束して。……これからも、私の友達でいてください」
琴音「……」
彩羽「顔も見たくないなんて、思ってないよ。嫌いになんてなってない。無視されて……辛かったけど、寂しかったけど……それでも、琴音ちゃんと話したかったから」
琴音「……」
彩羽「だから……そんな悲しいこと言わないで。一緒にやろう。一人じゃなくて、二人で乗り越えよう。全部」
琴音「……うん。分かった。ありがとう」
彩羽「……(微笑んで)」
琴音「……(微笑んで)」
二人、並んで歩き出す。
71 根元家・リビング
ソファーに座ってテレビを見ている仁美。
そこへ、固定電話に着信。
仁美「はい、根元ですけど。……え?」
72 県立朝比奈高校・廊下
ソワソワと待つ莉菜、京堂、結花、友也。
しばらくして、下を向いた彩羽が来る。
結花「……どうだった?」
彩羽「公演の件……できるようになりました!」
莉菜と京堂、おー、と。
結花と友也、安堵。
友也「紛らわしいなあ」
結花「心臓に悪い」
彩羽「(ふふふと笑う)」
京堂「よかったですね」
莉菜「よかったね」
彩羽「ホッとした〜」
莉菜「ねえ、どうやってOKもらったの?」
彩羽「いや、もう自分でも覚えてないんだけど、とにかくいっぱい喋って……」
盛り上がっている三人を横目に見ている友也と結花。
友也「よかったな。これで朝ドラアピールできんじゃん」
結花「え? あー……うん(と、少し不安)」
73 根元家・リビング(夕)
彩羽、帰宅する。
ソファーに座っている仁美。
彩羽「……ただいま」
仁美「……おかえり」
彩羽、自分の部屋に行こうとする。
仁美「彩羽」
彩羽「……ん?」
仁美「今日ね……工藤さんって方から電話があったの。キーホルダーがどうのこうのって……ある?」
彩羽「あ……うん」
仁美「そう。なんか心配してたよ。また息子が失礼言ってないかって」
彩羽「ああ……(笑って)全然大丈夫」
仁美「ふーん……ならいいけど」
彩羽「うん」
仁美「アンタ、死んじゃった子の台本使って演劇やろうとしてたのね。知らなかった」
彩羽「……」
仁美「向こうのお母さん、すごい感謝してた。あなたの娘さんのおかげで、少しだけだけど、前を向ける気がしますって」
彩羽「……」
仁美「……アンタはすごいね。演劇でちゃんと人の心を救おうとしてる。私が女優やってた頃は、お金もないし、バカな男には騙されるし、演劇が楽しいだなんて考えたこともなかったから。……ホントにすごい。良くも悪くも、お父さんに似たんだろうね」
彩羽「……」
仁美「……アンタの好きにしなさい」
彩羽「……え? いいの?」
仁美「私にやめさせる権利ないでしょ。ごめんね、今まで嫌な態度取って。嫌なお母さんだったね」
彩羽「……(首を振って)」
仁美「自分のやりたいことやりなさい」
彩羽「……ありがとう」
仁美「……うん」
彩羽「……ねえ」
仁美「ん?」
彩羽「お母さんも見に来てよ」
仁美「えー? 私は……(と遠慮するが)……ちゃんと面白いんでしょうね」
彩羽「うん。任せて(と笑って)」
74 県立朝比奈高校・教室(日替わり)
朝のホームルーム。
矢吹、前で話している。
彩羽、莉菜、友也は黙々と台本を読んでいる。
矢吹「えー今日は本校40周年記念式典があるので、このホームルームが終わったらすぐに体育館に移動するように。それから……」
矢吹、結花と京堂の空席に気づく。
矢吹「あれ? 木谷と京堂は休みか?」
生徒1「いや、さっきまでいたと思うんですけど……」
彩羽、莉菜、友也、目を合わせ、困惑。
75 同・廊下
矢吹先導のもと、列を作る生徒たち。
集まっている彩羽、莉菜、友也。
彩羽と友也、それぞれ電話をかけている。
友也「あー……出ねえ……」
彩羽「こっちもダメ」
莉菜「二人ともどこ行っちゃったんだろ……」
彩羽「うーん……じゃあ、とりあえず、私と橋口くんで学校の外探してみるから、莉菜ちゃんは学校の中探してみて」
莉菜「分かった」
友也「よし、行こう」
矢吹「おい、そこ、何やってんだ」
友也「あ、すいません先生、一旦抜けます」
彩羽「抜けます」
莉菜「抜けます」
三人、走り去る。
矢吹「え。ちょっ……どこ行くんだよ。おい」
76 公園
ブランコに座り、うなだれている結花。
苦しそうにため息をつく。
そこへ、足音と彩羽の声。
彩羽の声「いた。いた」
走ってやってくる彩羽と友也。
結花「(二人を見て)……」
友也「(息切らしながら)何やってんだよ」
結花「……やっぱり無理。私には無理」
友也「はあ?」
結花「アンタらには分かんないよ。大勢の前で何度も怒られて、恥かいて、みんなに笑われてさ。もうあんな思いしたくないの」
彩羽「大丈夫だよ。ほら、私も、中学の頃、演技のワークショップ行った時、あなたの演技を見てるくらいならその辺の森林見てる方がマシって言われたことあるもん」
結花「私は土見てる方がマシって言われた」
彩羽「(返答に困り)あ、えっと……」
結花「私には才能がないの。何にもないの。所詮、顔だけ取り柄がないただのお飾り人形なんだから──」
友也「(強い口調で)そんなことない」
結花「(え、と顔を上げ)……」
友也「ずっと前からお前のこと見てきた。お前がずっと努力してきたの知ってる。お前なら大丈夫だ。顔だけの奴じゃない。だから逃げんな」
結花、耐えていたが、やがて涙をこぼし号泣してしまう。
友也「やれるか?」
結花「……(小さくうなずく)」
彩羽「……(よかった、と)」
そこへ、彩羽に莉菜から着信。
彩羽「もしもし?」
莉菜の声「あ、もしもし彩羽ちゃん? 京堂くんいたよ」
彩羽「……え?」
77 県立朝比奈高校・トイレ前
生気を失い、震えている京堂。
その隣で電話している莉菜。
莉菜「なんかシンプルに腹痛だったっぽい(と、京堂を見て)」
78 同・体育館・舞台袖
ハンドルを握っている彩羽。
緊張している様子。
幕をめくり、ステージの様子を見る。
椅子に座る莉菜、京堂、結花、友也。
結花「(震えながら)え、やばい、どうしよ……え、どうしよ、やばい」
友也「適当に人って3回書いて飲み込めよ」
結花、手のひらに『人』を書き始める。
友也「ホントにやんのかよ」
京堂、結花に続く。
友也「お前も? ちょっ……もう始まるから!」
無心で『人』を書き続ける結花と京堂。
笑って、少し緊張がほぐれた様子の彩羽。
莉菜、彩羽に気付き、笑顔でOKサイン。
彩羽も笑顔で返す。
定位置に戻ってハンドルを握る。
司会の声「続いては、この県立朝比奈高校40周年式典のために特別に結成された劇団、カラーズによる演劇です。どうぞ」
ブザーが鳴る。
彩羽、一息つき、ハンドルを回す。
幕が上がっていく。
79 同・ステージ
公演が始まる。
以下、結花=ヒカリ、京堂=サトル、莉菜=エリカ、友也=アキラと表記。
ヒカリ「ねえ、どうすんの、結局」
エリカ「何が?」
ヒカリ「企画……っていうか大会? 決めるんでしょ? 文化祭の」
エリカ「何でもいいよ」
アキラ「俺も〜」
サトル「僕も」
ヒカリ「ちょっと、ダメだよ、そんな適当じゃ。ちゃんと決めないと」
エリカ「大体、なんでうちらが決めなきゃいけないわけよ」
アキラ「しょーがないっしょ。みんな先帰っちゃったし」
サトル「僕たちに押し付ける気満々って感じだったよね」
ヒカリ「まあまあまあ。とにかく、今日決めないと。明日にはプレゼンみたいだし」
エリカ「(ため息)」
サトル「(ため息)」
アキラ「(ため息)」
ヒカリ「……」
エリカ「あー……じゃあ、あれは? 無難にミスターコン」
サトル「えー……」
エリカ「なんで。いいじゃん。学校一のイケメンが発掘されるんだよ? 女子にとって、これほど幸せな大会は――」
アキラ「男子のプライドはズタボロだよ」
エリカ「なんなら、ミスコンとかでもいいよ。私、優勝する自信あるし」
サトル「(無視して)普通に数学オリンピック的なのでいいんじゃないの? 一番早く問題解けた人が優勝、みたいな」
辺り、静まり返る。
エリカ「……つまらん」
サトル「え?」
エリカ「いや、逆に、え? 人が問題解いてるの見て、何が楽しいわけ?」
サトル「楽しいでしょ、学校一の天才が発掘されるんだよ?」
エリカ「頭脳王やってんじゃないんだからさ。もっとポップで楽しいものにしないと」
サトル「そうは言っても、学校っていうのはあくまで勉強するために行くところであって――」
アキラ「(無視して)あ、じゃあ、あれは? お笑いは? ほら、漫才とかコントとかやって、一番面白かった人が優勝、みたいな」
エリカ「(呆れ)あーそれ絶対言うと思った」
アキラ「え?」
エリカ「そういうアンタみたいなKYのせいで無理やり舞台立たされてスベる人の気持ちとか考えたことあんの?」
アキラ「いやでも、学校一の面白人間が――」
サトル「同感だね。ただの内輪ノリ大会になる気がしてならない」
アキラ「……すいません」
エリカ「てゆーか、何なの。さっきから自分の得意分野ばっかでさ。散々ごちゃごちゃ言っといて、結局、自分が一番になりたいだけじゃん。しょーもない」
サトル「いや、ミスコンに言われても……」
エリカ「何か言った?」
ヒカリ「まあまあまあ……喧嘩やめよう。喧嘩は良くない」
エリカ「つか、アンタさっきからずっと黙ってるけど、なんかいい案ないわけ?」
ヒカリ「え?」
エリカ「散々人に話し合いさせといて、自分は何も考えてないなんてことないでしょうね?」
ヒカリ「私は……」
エリカ「ん?」
ヒカリ「私は……別に、一番とか決めなくてもいいと思う」
サトル「え?」
アキラ「どゆこと?」
ヒカリ「顔も勉強もお笑いも、一番になれる人もいれば、なれない人もいるわけで。……なんていうか、それが全てじゃないと思うんだよね」
エリカ「何それ。世に言う多様性ってやつ? ナンバーワンよりオンリーワン的な? (笑って)SMAPじゃあるまいし」
ヒカリ「でも、私たちには私たちにしかできないことがきっとあると思うんだよ」
三人「……」
ヒカリ「人それぞれ好きなこと、得意なことはみんな違うし……そんなものなくたって、その人には、その人の良さがきっとある。一番なんか決めなくていい。みんなが一番でいい。私は……そんな風に思ってる」
三人「……」
ヒカリ「……ってことで、やっぱ決めないってのどう?」
三人「絶対ダメ!」
劇が終わり、並んで一礼する四人。
パラパラと拍手が起きる。
彩羽、笑顔で拍手する。
雅子、陽平、琴音、仁美も拍手している。
80 工藤家・耕平の部屋(日替わり)
耕平の仏壇の前に座る彩羽。
線香をあげ、りんを鳴らし合掌。
ゆっくりと目を開ける。
彩羽「お久しぶりです、工藤くん。根元です。公演、無事に終わりました。初めはどうなることかと思ったけど、本当に忘れられない思い出になりました。どうもありがとう」
彩羽、一礼。
彩羽「みんな、あれから元気でやってます」
81 県立朝比奈高校・教室(回想)
恭子と話している莉菜。
彩羽、それを遠くから見ている。
恭子「またお願いできないかな」
莉菜「ごめん。今日は無理」
恭子「……え?」
莉菜、彩羽にこっそりOKサイン。
彩羽、笑顔で返す。
彩羽の声「莉菜ちゃんとは今でもたまにカラオケに行く仲です」
82 演技スクール(回想)
講師の前で演技をしている結花。
彩羽の声「木谷さんは最近演技スクールに通い始めました」
結花「私はあなたの全てを知っているわけじゃない。でも、私はあなたを……」
講師「はいストップ!」
結花「はい!」
講師「もうね、声の張り方、姿勢、感情の入れ方、全部ダメ! もう一回!」
結花「はい!」
彩羽の声「本気で朝ドラヒロイン目指して頑張っているそうです」
83 県立朝比奈高校・教室(回想)
桶谷、西澤ら大勢に囲まれている友也。
桶谷「橋口ってなんか、私服ダサそうだよな」
西澤「絶対ダサいな」
一同、笑う。
友也「……(桶谷に)でもお前、この前なんか変なドラゴンの服着てたよな」
一同、「え、やば」「そうなの?」と。
桶谷「(真顔になって)いや違う違う。違うから。その、カッコいい方のドラゴンだから」
友也「カッコいい方のドラゴンって何だよ」
一同、笑う。
友也も笑っている。
彩羽の声「橋口くんは相変らずの人気者です」
84 同・中庭(回想)
並んで歩く彩羽と京堂。
彩羽の声「京堂くんは……」
京堂「なんか、もっとチヤホヤされると思ってました」
彩羽「私も」
京堂「結局、変わってないのは僕だけですね」
彩羽「そんなことないよ。京堂くんも変わったとこ、あるよ」
京堂「なんですか」
彩羽「ちょっとだけ……声が大きくなった」
京堂「なんですかそれ」
二人、笑う。
85 工藤家・耕平の部屋(回想戻り)
仏壇に向かって話している彩羽。
彩羽「(笑いながら)そう。それでね……」
雅子の声「彩羽ちゃん?」
彩羽「(1階に向かって)はい」
雅子の声「ちょっ、ちょっと来て」
彩羽「はい……?」
彩羽、立ち上がる。
86 同・リビング
雅子に腕を引っ張られる彩羽。
雅子「来て、来て」
彩羽「な、なんですか……?」
雅子「陽平にパソコン見せたら、別のファイルも見てみたら? って。そしたら……」
彩羽「え?」
雅子、パソコンを見せる。
彩羽「(見て)……!」
ファイルの中には、大量の戯曲が保存されていた。
彩羽、唖然とするが、すぐに目を輝かせ、フフッと笑う。
【了】
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