人 物
藤井鉄平(32)ガソリンスタンド店長
安達健人(21)アルバイト
志村美帆(25)サーファーガール
富永マキ(35)地域FMラジオ DJ
人 物
藤井鉄平(32)ガソリンスタンド店長
安達健人(21)アルバイト
志村美帆(25)サーファーガール
富永マキ(35)地域FMラジオ DJ
○県道
片道一車線の曲がりくねった道、ホンダの軽自動車(N-ONE)が走っている。ボンネットと屋根に2本のストライプ。
○走るN-ONE・車内
折りたたんだ助手席にはサーフボード。
道沿いの景色、青い空。沸き立つ白い雲。車窓越しに後方に流れていく。
右手には小さな浜辺。海面が光り輝く。
ボンネットから白煙が上がる。
運転する志村美帆(25)が焦る。
健康的な日焼け顔。
左手前方に小さなガソリンスタンドが見える。美帆、左折ウインカーを出す。
○ガソリンスタンド・給油スペース
車3台でいっぱいになりそうな狭い給油スペース。奥にはガラス張りの事務所。ガラス扉が開いている。
ガソリンスタンドに白煙を上げてN-ONEが入ってくる。
ツナギ姿の藤井鉄平(32)が事務所から出てくる。両手を挙げて大声で車を誘導する。
藤井「オーライオーライ。はい、OKでーす」
運転席側の窓が開く。美帆慌てている。
美帆「ス、スミマセン。助けて。煙がぁぁ」
藤井、慌てる美帆を見つめる。
窓から顔を入れ、計器類を覗き込むと神妙な顔付きで美帆に伝える。
藤井「なるほどねぇ、こりゃあお姉さんが悪いよ」
美帆「えぇ?私、なんかやらかしてます?」
困って苦笑いする美帆。
藤井、キーを回しエンジンを切る。
藤井「オーバーヒートしちゃったんだよ」
ニコニコと美帆に話し続ける。
藤井「お姉さん、ホットだから」
藤井、言い終えると欲しがるような表情で美帆の反応を待つ。
美帆、間をあけて吹き出す。
藤井も笑いだす。
ボンネットの白煙が収まっていく。
○ガソリンスタンド・事務所前
安達健人(21)が藤井と美帆を見ている。
藤井と同じ、オリジナルのツナギ姿。
○ガソリンスタンド・出口付近
去っていくN-ONEを見送っている藤井。
健人、歩いてやって来て、隣に立つ。
事務所からラジオの音が聴こえてくる。
DJマキの声「皆さん、お元気ですか?今日も夏らしい、いい天気ですねー」
○地域FM局・DJブース・中
マイク前に座り、リクエストメッセージを読んでいる富永マキ(35)。
マキ「それでは今日の1曲目。常連リスナー、GS鉄平さんからのリクエストで、The Beach Boys、『Fun,Fun,Fun』」
○ガソリンスタンド・出口付近
ラジオから流れるマキの声を聴いて、藤井が小さくガッツポーズする。
藤井「さっすがマキさん。分かってるなぁー」
隣に立つ健人、笑いながら茶化す言葉。
健人「まーた、ナツメロリクエストですか?」
藤井「(笑って)ナツメロっていうな。またって言うな」
藤井、曲に合わせて適当に踊り始める。
健人、ふざけてエアギターで答える。
ガソリンスタンドに楽曲が流れ続ける。
○ガソリンスタンド・全景(夕)
オレンジ色のアスファルト。
給油スペースには複数台の車。
藤井と健人、忙しそうに動きまわる。
○海岸(早朝)
県道沿いに広がる砂浜。海上ではサーファー達が波乗りを楽しんでいる。
○同・海上(早朝)
美帆、サーフボードに跨って波を待つ。
乗る波を決めて、パドリングを始める。
来た波に乗ろうとするが失敗する。
○ガソリンスタンド・事務所ドア前
暇そうに立っている藤井と健人。
ストライプ柄のN-ONEが入ってくる。
助手席の窓が開く。
美帆「店長こんにちは。元気貰おうと思ってまた来ちゃいましたー」
藤井、嬉しそうにN-ONEに近寄る。
健人、肩をすくめる仕草。
○ガソリンスタンド・出口付近
N-ONEを見送る藤井と健人。
藤井「美帆ちゃんがさぁ、今度一緒にドライブ行きましょう、だってさぁ。あはは」
健人、無表情に穏やかな口調で、
健人「そうですか、良かったですね、店長」
浮かれている藤井。
健人「今夜の花火大会も誘ったんですか?」
藤井「え?あぁ、今日は予定があるんだって」
健人、口角があがり、穏やかな口調で、
健人「そうですか。残念でしたね、店長」
海からの風が健人の前髪を揺らす。
○砂浜
ガソリンスタンド向かいの砂浜。
人々がそれぞれに場所取りしている。
○砂浜(夜)
多くの見物客で埋め尽くされている。
○ガソリンスタンド・給油スペース脇(夜)
ディレクターズ・チャアが2つ、間にテーブルを挟んで並んでいる。
それぞれに腰掛けている藤井と健人。
夜空の方を見ながら話している。
落ち着きない仕草をしている藤井。
藤井「あーっ、ワクワクするな」
健人「店長って、いつも悩み無さそうで、本当羨ましいです」
藤井「(笑って)なんだよ健人。お前、また俺の事ディスってんのか?」
健人「えっ、あ、……いや、違いますよ」
藤井、テーブルの缶ビールを一口飲む。
夜空を見上げたまま話し掛ける。
藤井「あれか、健人、お前、なんか若さゆえに悩んじゃったりしてんのか?」
健人「えっ?いや、そういうんじゃ」
開始の合図に、小さな花火が上がる。
藤井「まぁ、あれだよ、あれ。悩みってのは、そのほとんどが頭ん中の出来事って事だよ」
藤井、缶ビールを更に一口飲む。
藤井「頭ん中にあるうちは心配しなくていい」
海上から花火が打ち上がる。
頭上で破裂し、音がズシンと腹に響く。
呆けた表情で夜空を見つめる2人。
顔が明るく照らし出される。
飲みかけの缶ビールを健人に渡す藤井。
健人、受け取り、しばらく見つめる。
次々と上がる花火。砂浜で上がる歓声。
健人、横目でチラっと藤井を見る。
楽しそうな表情で夜空を見続けている。
健人、大事そうに両手で缶ビールを持ち、そっと口をつける。
頭上、ひときわ大きな花火が上がる。
眩い光の輪の中に2人が包み込まれる。
○ガソリンスタンド・全景
陽光が反射してアスファルトがキラキラと輝いている。
○ガソリンスタンド・給油スペース
ストライプ柄のN-ONEが入ってくる。
誘導後、運転席側に回り込む藤井。
藤井「いらっしゃい、美帆ちゃん」
美帆、藤井に会釈する。続けて助手席に座る女性に話し掛ける。
美帆「ね?いいでしょ?穴場って感じで」
藤井、助手席を覗き込み、ニヤける。
藤井「美帆ちゃん1人でもボンネットが煙吹くんだからさぁ、助手席に彼女まで乗っけちゃったら、この車、爆発しちゃうかもよ」
美帆、笑いながら藤井に伝える。
美帆「あはは、ありがとう店長。あのね、実はね、このひとね、私の彼女なの。店長には絶対紹介しときたいなっ、て思って」
藤井「あっ、そうなんだ。(固まって)彼女さん…」
藤井、ゆっくりと状況を理解し始める。
助手席の女性、嬉しそうに微笑む。
センターコンソールの上で美帆と手をつないでいる。楽しそうな2人の表情。
○青空
○ガソリンスタンド・出口付近
N-ONEを見送る藤井と健人。
健人「今年の夏も、もう終わりですかね?」
藤井、遠くの一点を見つめている。
事務所からラジオが聴こえてくる。
DJマキの声「というわけで、今日もGS鉄平さんからのリクエストが来てますよ。いつもありがとうございます、元気でお仕事してますか?今日もThe BeachBoysからの1曲。鉄平さん、ブレませんね、最高です!それではリクエスト曲で『ALL SUMMER LONG』」
藤井、目を瞑って大きく深呼吸する。
首をコキコキと鳴らし、健人に答える。
藤井「健人君、何言ってんのかな?夏はさ、まだまだ終わらないよ。終わらせませんよ」
健人、藤井を見て微笑む。
ガソリンスタンドに楽曲が流れる。
藤井、笑いながら健人と肩を組む。
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