XenoMessiaN
第1界 ハジメカイ
【主な登場人物】
創快:主人公の高校生
瀬川抗矢:快の友人
与方愛里:快のクラスメイト
勇山英美:街で出会う少女
創美宇:快の姉
宇治原:快の主治医
リク:英美と共にいた児童
巨人:快が変身した巨人
バビロン:新宿に現れた罪獣
その他
○宇治原クリニック待合室
創快(16)、虚な表情で椅子に座る。
子供たちが走り回っている。
快、前方の椅子に座る女性が抱える赤子と
目が合った。
快、作り笑顔を見せるが赤子は泣いてしま
う。
周囲の人々、一斉に快の方を見る。
快、動機が止まらなくなり幻聴が聞こえてき
た。
幻聴『君は大丈夫だ、安心して!』
看護婦、赤子の前に現れ玩具を見せる。
赤子、玩具を見て笑顔を取り戻す。
看護婦「大丈夫よ、ホラ」
快、その様子に反応して彼女を凝視してし
まう。
その瞳には光が見えなかった。
看護婦「どうしました?」
看護婦、快の視線に気付き問う。
快「いえ別にっ……」
快、顔を赤くし溜息を吐く。
すると院内のアナウンスで名前を呼ばれ
た。
アナウンス『創さん、創快さんどうぞー』
快、重い腰を上げて立ち上がりフラフラと
歩いて行った。
○暗転
テロップー《わたしのために人々が貴方を罵り、迫害し、あなた方に偽り様々な悪口を言う時、あなた方は幸いである。マタイの福音書 5:11》
○宇治原クリニック診察室
主治医の宇治原、カルテに目を通し向かい
に座る快を見た。
宇治原「で、どう調子は?」
快、俯きながら答える。
快「いつも通りです」
宇治原「前回薬変えてみたんだけどこの一ヶ月
どうだった?」
快「相変わらずパニ障と幻聴は……」
宇治原「そっかー、夜は眠れてる?」
快「眠れるんですけど変な夢を見ます」
宇治原「どんな夢?」
快「みんなから嫌われる、仲良い人とか家族か
らも。みんな俺の事を嫌って罵倒する夢で
す。それで朝起きたら辛くなって学校とかバ
イト行くのが怖いです」
宇治原「……完全に鬱病の症状だね」
快「はい……」
宇治原、カルテにメモを続けて行く。
宇治原「でも夢と言ったら君には将来の夢があ
るじゃない、ヒーローでしょ?」
快、目を見開きもどかしそうに語る。
快「最近思うんです、こんな自分がヒーローに
なれるのかって。発達障害で鬱病の俺が……」
宇治原「でも君の症状は軽い方だよ、現に自己
分析だって出来てる」
快「でも隠したら変な健常者、明かしてもそれ
はそれで差別の対象になる……」
宇治原「それでもずっと思い続けてる夢なんで
しょ?」
快「そうです、本当にそれしか希望が無いんで
す。誰かに必要とされたい、愛されたい。初
めてヒーローを見た時、自分もこんな風にな
れたらって感じたんですっ……」
宇治原、メモを止めて真剣に聞いている。
快「でも俺みたいなのはどう足掻いても悪者と
して扱われる、程遠いけど余計に欲望が止ま
らないんですっ……! この鬱を治すために
は叶えるしかない、じゃないとずっとこのま
ま……!」
快、震えながらも決意に満ちた表情を浮か
べる。
快「ヒーローに、ならなきゃいけないんです。
誰かじゃない、自分自身のために」
宇治原、メモを再開して問う。
宇治原「それで、どんなヒーローに君はなりた
いの?」
快「え?」
宇治原「いやさ、例えば悪者をやっつけたり困
ってる人を助けたり。快くんの目指すヒーロ
ーってどんなイメージなのかなぁって」
快、一気に表情が曇り声が段々と小さくな
っていく。
快「……考えた事なかったです、イメージはテ
レビの変身ヒーローだけど別にそこに拘りは
ないっていうか」
宇治原「じゃあ別にヒーローっていうのに拘る
必要もないんじゃないかな? 愛されるなら
それ以外にも沢山手段はある訳だし」
快、前のめりになって反論する。
快「違うんですっ! どうしてもヒーローじゃ
なきゃ、死んだ両親にっ……」
快、昔の光景がフラッシュバックする。
そこに映ったのは血まみれの包丁を持つ男
と倒れている快の両親。
男(回想)『ヒーローなんてこの世に居ねぇんだ
よ!』
快、逆に震えが収まった。
快「ヒーローに、ならなきゃ。じゃないと振り
向いてもらえないっ……!」
宇治原、真剣な眼差しで快を見ている。
宇治原「あの時のまま時が止まってるね……」
○電車の中
帰り道、快は電車の揺れで女性の足を踏ん
でしまった。
女性「痛っ……」
快「すみませっ……わっ」
快、慌てて後退し背後の男性にぶつかる。
車内の視線が快に集まる。
快、再度強い動機に襲われる。
車掌『まもなく練馬、練馬に停まります』
快、次の駅で慌てて降りる。
○駅構内
快、人目を避けるため地鶏足で駅を出る。
○路地
快、住居の多い路地で自販機を見つける。
天然水を購入し頓服薬を服用した。
快「ぷはっ、はぁはぁ……」
快、前方の住居に子供が帰るのを見る。
子供「ただいまー!」
母親「おかえり、楽しかった?」
快、その様子を見つめていた。
すると、反対側から声が聞こえてくる。
不良1「ポテトいる?」
女性「いらないですっ」
不良1「えぇ? 美味いのに」
不良三人組、女性をナンパしている。
女性、快に気付き目線で助けを求める。
不良も快に気付いた。
女性の肩に手を置きながら快に近付く。
不良2「お、何? ジロジロ見てどうしたの?」
快「え、いや……」
不良三人組、あっという間に快を囲う。
不良1「ポテト欲しい人?」
不良3「それはねーだろ」
不良三人組、快を見て嘲笑う。
快、離れようと試みるが肩が不良とぶつか
ってしまう。
不良3「お、やる気か?」
不良3、背後から快を羽交締めにする。
快「あっ、くぅっ……」
快、近付く不良2に向かって蹴る。
不良1「はは、蹴ったぞコイツ!」
不良2「危ねぇな、そのまま押さえてろよ!」
不良2、思い切り快の顔面を殴る。
快、地面に倒れてしまう。
不良三人組、倒れた快を何度も蹴る。
不良2「無抵抗だぞコイツ!」
不良1「ははっ!」
不良3「よし、逃げるぞ!」
不良三人組、そのまま走り去って行く。
快、動けなかった。
女性、快に駆け寄る。
女性「大丈夫ですか⁈」
快、また幻聴が聞こえる。
幻聴『君は大丈夫だ、安心して!』
快、幻聴と女性に対して答えた。
快「大丈夫じゃないです……」
快、ゆっくりと立ち上がりその場を去っ
た。
○創家 居間
快、無言で帰って来た。
創美宇(24)、仕事の支度をしていた。
美宇「帰って来たなら言ってよ……」
美宇、快の姿を見て驚く。
美宇「何これ泥だらけじゃん! どうしたの⁈」
快、ゆっくりと美宇の顔を見て答える。
快「ヒーローに、なれなかった……」
美宇、溜息を吐いた。
美宇「はぁ、まだそんなこと言ってんの? そ
れで無茶した訳?」
快「うん……」
美宇「もう、心配かけるような事しないでよ。
本当にさぁ……」
美宇、棚から快の着替えを取り出し手渡
す。
美宇「早く着替えちゃって!」
美宇、玄関に向かう。
快「今から仕事?」
美宇「そうなの、今日の人が体調崩しちゃった
からヘルプで……」
そのまま玄関の扉を開けながら呟いた。
美宇「ただでさえ休み取れてないし婆ちゃんの
介護もあるのにさぁ……」
玄関の扉は閉じられ家には快一人。
快、ソファに座りリモコンでテレビを点け
る。
そのままサブスクでヒーロー番組を見た。
ヒーロー『大丈夫かい?』
画面上のヒーローが人を救う場面を見る。
番組内でヒーローは賞賛されていた。
快「いいなぁ……」
○快の夢
空が紅く染まっている。
空の向こうには紫色に輝くもう一つの地球
が見えた。
もう一つの地球は段々と近付いている。
人々「きゃぁぁぁっ!」
地上では街に巨大な人型の翼が生えた生命
達が出現し蹂躙してした。
そしてその中心には天使のような存在が。
両手で顔を覆って泣いている。
天使「私じゃダメなの……」
○創家 快の部屋
快、目を覚ます。
快「はっ」
ゆっくりと体を起こし頭を抱えた。
快「何だよ今の……」
ふと時計に視線を移す。
そこには08:05と記されていた。
快「八時……遅刻じゃん!」
飛び起き慌てて制服に着替える。
○創家 居間
美宇、化粧をしている。
快の玄関へ急ぐ足音が聞こえた。
○創家 玄関
美宇、慌てて玄関に顔を出す。
美宇「やばっ、ごめん起こすの忘れてた!」
快「急いで行くから!」
快、そのまま出て行ってしまう。
美宇「ちょっとお弁当は⁈」
美宇、溜息を吐く。
美宇「……何なの、せっかく準備したのに」
○高校 門前
快、チャイムが聞こえたため学校の前で立
ち往生。
やる気を失くしその場から去った。
快「ぷはぁっ……」
快、歩きながら頓服薬を飲んだ。
○公園 カナンの丘
快、近所の公園にある広い丘の上に座る。
カナンの丘と呼んでいた。
自販機で買った缶コーラを片手に黄昏る。
快「はぁ……」
溜息を吐いて下の方を見ると幸せそうな家
族の姿があった。
その時、フラッシュバックしてしまう。
○回想 幼少期
快の母、泣いている。
快の父、母を庇う。
母「何でもっと普通に出来ないの!」
父「母さんの気持ちを考えてやれ!」
母「この子には心がない、他は普通なのにっ」
父「そういう障害だって言われてもっ……」
快、両親を睨んでいる。
○回想 小学生
快、学校から帰宅しても何も言わない。
母「ただいまも言ってくれないの……?」
快、母の声を無視し自室でビデオを再生。
そこにはヒーローが映っていた。
快「いいな、ヒーローは愛されて……」
○回想 事件
ある日、快は両親に呼び出される。
夜の道を両親と歩いていた。
父「どうしても話したい事があるんだ」
母「快、あのね……?」
その時、前方から男が突撃して来る。
男「おぉっ……!」
父「うっ……!」
突然刺される父、その場に倒れる。
続いて母、快を庇うように刺され倒れた。
母「ごめん、ごめんね快……っ」
母、腹部から血を流しながら快を抱きしめ
る。
後悔を浮かべた瞳で絶命した。
快、理解できずに立ち尽くす。
そしてようやく放った一言。
快「助けて、ヒーロー……!」
男、血の滴る包丁を持ち快に言う。
男「ヒーローが来てくれると思うのか……?」
そして快に迫る。
男「ヒーローなんてこの世に居ねぇんだよ!」
その瞬間、快の瞳から光が完全に消える。
○回想 その後
快、警察に励まされる。
警察「もう大丈夫、犯人は捕まったから」
しかし快は無反応。
両親の葬儀でもそうだった。
快、葬儀で泣かない。
それを見た美宇が咎める。
美宇「何で泣かないの……? 本当に心が無い
の……っ⁈」
その後、自宅に飾られる両親の遺影を見て
快は言う。
快「他人のこと考えろなんて、余裕ないよ……」
快、深く決心した。
快「絶対ヒーローになってやる、二人からも愛
されるようなヒーローに……!」
回想終わり
○公園 カナンの丘
快、フラッシュバック後に悩む。
快「あの時、何て言おうとしたんだよ……」
するとスマホに着信が入る。
画面には瀬川と書かれていた。
快、応答する。
快「もしもし……?」
瀬川抗矢(17)、学校から電話を掛ける。
瀬川「あ、出た! お前今日休み? 先生が連
絡ないって言ってたけど」
快「別に良いだろ、みう姉には言わないで」
瀬川「良いけどよ、お前なんかテンション低く
ね? どうしたのよ今日」
快「寝坊して……学校前まで来たけど遅刻した
ら視線とかがさ」
瀬川「なるほどなぁ」
快「だって俺嫌われてるじゃん、隣の女子とか
に一瞬休みだって期待させて来たらガッカリ
させるだろうし……」
瀬川「お前ネガティブ過ぎだって、多分そんな
事は……」
瀬川、女子の声を聞いて口を閉じる。
快の隣の席の女子だ。
女子「なんか今日落ち着くなと思ったら創休み
じゃん」
瀬川、黙ってしまう。
快「どうした?」
瀬川「いや、何でもない」
瀬川、誤魔化すように話題を逸らす。
瀬川「てか俺お前以外に友達いないから一人で寂しいんだぞ?」
快「お前は自分から関わってないんだろ?」
瀬川「そうだけどよ」
快「安心しろって、明日は行くよ」
瀬川「何言ってんだ、明日休みだぞ」
快「は? 平日だろ?」
瀬川「創立記念日だよ、忘れたのか?」
快「あーそうだった。じゃあさ、明日映画でも観に行こう。そこで埋め合わせするから」
瀬川「ま、それで許してやるか」
快、瀬川と約束し電話を切った。
少し表情は和らいでいた。
○創家 快の部屋(夕)
快、ベッドで横になっている。
美宇、力強く部屋に入り問いかける。
表情は強張っていた。
美宇「今日学校行かなかったの⁈」
快「え、いや行ったけど……?」
美宇「嘘言わないで、クラスの子が休んだから
ってプリント届けに来てくれたよ」
快「瀬川?」
美宇「女の子。待たせてるからまず行ってあげ
て」
快「うん……」
美宇の睨む視線を気にしながら部屋を出
た。
○創家 玄関
扉の前に与方愛里(16)が立っている。
愛里「どうも……」
快「えっと与方さん、どうしたの……?」
愛里「これ、プリント届けに来たの」
快「ん、ありがと……」
快、プリントの入った封筒を受け取る。
愛里、少し緊張しているのが見て分かる。
快「どうした……?」
愛里「えっと、今日何で帰っちゃったのかなっ
て思って……」
快「どういう事……?」
愛里「窓から見てたよ、学校の前まで来て帰っ
ちゃった」
快「ちょっと事情があって……」
愛里「大丈夫? 私で良ければ相談乗るよ?」
快、愛里の顔を見つめて悩む。
快「いや大丈夫……多分理解されないから」
愛里「そんな事ないよ、話だけなら私でもっ」
快「いいよ、きっと誰にも救えない」
快、愛里の目を見て一言。
快「ヒーローなんて居ないんだよね……」
愛里、快の目を真っ直ぐ見て話した。
愛里「ううん、ヒーローはいるよ。じゃないと
私、ここにいないから」
快「どういう事……?」
愛里「小さい頃家が火事になってね、私のヒー
ローが助けてくれたの」
愛里、幸せそうに語る。
愛里「その後も泣きながら寄り添ってくれて、
嬉しかったなぁ」
快「ヒーロー、居たんだね……」
快、複雑な表情を浮かべる。
快「ごめんありがとう、じゃあね……」
快、そのまま愛里を見送る。
閉ざされた玄関の扉を見つめた。
快「俺はヒーローになれてない……」
すると背後に美宇の姿が。
美宇「何で学校行かなかったの」
快「本当に鬱が辛くて……」
美宇「それは分かるけどこの間もそう言って休
んだでしょ? せっかく婆ちゃんがお金出し
てくれてるのに申し訳ないと思わないの?」
快「でも無理したら余計辛くなるから……」
美宇「病院でも言われたでしょ、ちゃんと日中
行動した方が良いってさ。ちょっとでも無理
しないともっと辛くなるよ?」
快「みう姉に俺の辛さは分からないよ……」
美宇「分かるよ、私だって鬱っぽくなる時ある
もん。父さん母さんが死んでから快のためを
想って大学も行かず働いてるのに……」
美宇、目に涙を浮かべる。
美宇「認知症の婆ちゃんの介護までしてさ、私
だって辛いんだよ……?」
快「でも俺の方が鬱病になった、病気なんだよ
……!」
美宇「私の辛さは考えてくれないの?」
快「余裕ないよっ……」
快、自室に篭ってしまう。
美宇、両親の遺影を見た。
美宇「何でこんな想いさせるのよ、父さん母さ
ん……」
○創家 快の部屋
快、暗い自室でヒーロー番組を見る。
快「ヒーローになれたらきっと……っ!」
○新宿駅 ホーム(日替わり)
車掌『新宿、新宿です』
快、電車を降りる。
瀬川からメッセージが届く。
瀬川(画面上)「やべー寝坊した! 遅れます!」
快「あいつ……」
快、自販機の前で財布を取り出す。
すると声が聞こえた。
男性「おい、落ちたぞ!」
白線の前に人集りが。
線路に人が落ちている。
気を失っており動かない。
アナウンス『間も無く列車が参ります』
女子高生「え、電車来ちゃうじゃん!」
男性「誰か駅員さん呼んでー!」
快、線路に落ちた人を見て考える。
男(回想)「ヒーローなんてこの世に居ねぇんだ
よ!」
快、震えた拳を握る。
快「証明するならっ!」
快、人集りを掻き分け線路へ降りる。
男性「おい電車来るぞ!」
快、忠告を無視し落ちた人の肩を揺する。
快「大丈夫ですか⁈」
しかし返事はない。
快、何とか背負って助けようとする。
そこで電車が近付いて来るのが見えた。
女子高生「ヤバいって!」
男性「もうダメだぁー!」
誰も手を差し伸べはしない。
快、そんな中で緊張と重さで倒れてしま
う。
線路に落ちた人と共に転がり込んでしまっ
た。
快「はぁ、はぁっ……」
視界がスローモーションに見える。
動悸を一拍一拍鮮明に感じた。
走馬灯のように上手く行かない人生を思い
出していく。
快「嫌だ、このまま終わるなんて」
絶望のあまり叫び出す。
快「嫌だぁぁーーっ!」
次の瞬間、凄まじい轟音が響いた。
快「……え?」
快、目を閉じてしまっていた。
恐る恐る目を開けてみると何故か電車が宙
を舞っていた。
目の前で崩れるホーム。
その下から巨大な何かが出現した。
快「なんっ……⁈」
快、突風に吹き飛ばされる。
視界が開け巨大な何かの正体に気付く。
快「怪獣っ⁈」
禍々しい見た目をした罪獣バビロンが現れ
た。
雄叫びを上げながら真っ直ぐに新宿の街を
進んで行く。
人々「助けてぇぇっ!」
快、人々の悲鳴を聞いて我に帰る。
快「ヒーローに、ならなきゃ……!」
快、走り出した。
○新宿 街
快、逃げ惑う人々と真逆の方向へ向かって
走る。
視界にはバビロンだけを捉えていた。
快「あっ」
途中、向かって来る人にぶつかり転倒。
快「くぅぅ……」
地面に突っ伏して動けない。
そこで声が聞こえる。
勇山英美(16)、快に手を差し伸べる。
英美「大丈夫ですか⁈」
リク(6)、英美と手を繋いでいる。
快「あ……」
快、太陽に照らされた英美を見る。
英美「ホラ立てる?」
快、英美が屈んだ事で彼女の顔を視認す
る。
そして英美の手を取った。
○新宿 ショッピングモール内
快、英美、リクの三人は歩く。
バビロンの歩く音や雄叫びが聞こえ地面も
時々揺れた。
英美「私、勇山英美。よろしくね」
快「創快」
英美「オッケー快ね。この子はリク君」
英美、リクの頭に手を置く。
リクはずっと泣いている。
英美「この子ね、たった今お母さんを亡くした
の。だから何とか助けてあげたいと思って」
快「そっか……」
英美とリクの二人と快との距離が少しずつ
空いて行く。
そこで地面が大きく揺れた。
リク「ひっ、ママぁ〜」
英美「よしよし、大丈夫だからね」
リク、泣き止まない。
英美は何か思い付いたように地面を漁る。
英美「よし、コレ何だ?」
掌に瓦礫を乗せリクに見せる。
英美「これをこうして、ハイ無くなりました!」
英美、手品を始めた。
英美「ポケットの中見てごらん?」
リク、ポケットを探る。
すると綺麗な水晶がついたネックレスが出
て来た。
リク「わぁ!」
英美「さっきの瓦礫はリク君の心を通って綺麗
な宝石になりました〜」
英美、リクの頭を撫でて言った。
英美「君の宝石を生み出す心はママにとっても
宝物だったはずだよ、だからもうちょっと頑
張ろっか」
リク「うんっ……!」
リク、泣き止んだ。
快、驚きを隠せない。
するとバビロンの足音が近くなる。
英美「いつまでもここに居る訳にはいかない
ね、移動しよっか」
快、英美、リクの三人は更に移動。
快、更に二人との距離が離れる。
英美とリクの背中を見て歯軋りしてしまっ
た。
快「凄すぎるって……」
快、立ち止まってしまう。
英美「快、大丈夫?」
快「あ、ごめん……」
快、歩き出そうとするが英美が駆け寄って
来た。
英美「ちょっと、本当に大丈夫⁈」
英美、快の右足を見た。
本人も気付かぬ内に怪我をして流血してい
たのだ。
快「だ、大丈夫だよこれくらいっ……」
英美「ダメ。そこで手当て出来るもの取って来
る!」
英美、側にあったドラッグストアに駆け込
む。
快とリク、近くのベンチに座った。
快、恐る恐るリクに質問する。
快「ねぇ、あのお姉ちゃん好き……?」
リク「うん、だって優しくてカッコいいもん」
快「そっか……」
快が俯いているとリクが続ける。
リク「お姉ちゃん、ヒーローにならなきゃいけ
ないんだって。みんなを助けなきゃって言っ
てた」
快、目を見開く。
そこで英美が戻る。
英美「あったよガーゼと包帯! 傷薬も!」
英美、快に応急処置をする。
快の右足には包帯が巻かれた。
英美「これで完了っ! よし、じゃあ行こっ
か。立てる?」
英美、手を差し伸べる。
しかし快、手を取らない。
快「はぁ、はぁ……」
息が乱れ動悸が早くなる。
英美「大丈夫?」
快「いや……」
快、英美に正直な想いを吐露する。
快「君は凄い、凄すぎるよ……俺がどんどん惨
めになる……」
英美「何言ってんの、そんな事ないって」
快「それは綺麗事だよ、それじゃ苦しんでる人
は救えないって……」
英美、その言葉に反応してしまう。
快「羨ましいよ、君みたいな選ばれし者は誰か
らも愛してもらえて……」
英美、少し黙って考える。
そして快を説得した。
英美「私さ、自分を選ばれし者だなんて思って
ないよ」
快、驚いて顔を上げる。
英美「綺麗事じゃ心まで救えない事も分かって
る。でも私、綺麗事しか言えないから……」
快「でもリク君は救ってる……」
英美「気休めでしかないよ、根っこの悲しみま
では消せてない」
英美、決意を固めた表情で語る。
英美「でもそれが私に出来る事なら……やるっ
て決めたの」
英美、再度快に手を差し伸べる。
英美「君には何が出来る? 何がしたい?」
快「俺はヒーローになりたい、けど俺には……」
まだ手を取れずにいると再度揺れが起こ
る、今度はかなり大きかった。
快「わっ……」
英美「やばい崩れる!」
快、床の崩落に巻き込まれ落ちそうにな
る。
英美、快をキャッチした。
英美「キャッチ!」
快「ダメだ、君まで危ないっ……!」
英美「バカ!」
英美、目に涙を浮かべていた。
英美「まだ何も始まってないのに……諦めちゃ
ダメ!」
英美の後ろでリクも快を引き上げる手助け
を行う。
英美「今はまだ分からなくても! 自分に出来
る事は必ずあるから! 辿り着いて!」
快、何とか上がる。
英美「休んでる余裕ないよ!」
崩落はどんどん進む。
三人は走った。
快「あった出口っ!」
快、安心しているが上から瓦礫が降る。
英美「危ないっ!」
英美、思い切り快を突き飛ばした。
そのまま瓦礫に押し潰されてしまう。
快「……おい、おい! 大丈夫か⁈」
英美「うっ、うぅ……」
煙が晴れると瓦礫に挟まれて動けない英美
の姿が。
快とリク、瓦礫を退かそうと試みる。
しかし崩れた壁の向こうからバビロンがこ
ちらを見ているのに気付いた。
快「ヤバい……っ!」
英美、状況を見て判断する。
英美「……二人は逃げて」
快「は⁈ 何言ってんだよ!」
リク「そうだよ一緒に逃げようよ!」
快「俺だってヒーローになりたいんだ、こんな
時こそ……!」
英美「やめて、やめてよ……私のために人を死
なせたくない……っ」
快とリク、それでも瓦礫を退かそうとする
のをやめない。
快「さっき出来る事に辿り着いてって言ったよ
ねっ、俺はヒーローを出来る事にしたいん
だ! だからっ……!」
リク「お姉ちゃん!」
英美「ダメ……」
英美、快に語りかける。
英美「ねぇ、ヒーローになりたいなら今はリク
君のヒーローになってあげて……?」
快「え……?」
快、手が止まる。
英美「このままだと三人ともダメだよ、だから
リク君を連れて逃げて。そしてリク君のヒー
ローになって」
バビロン、口にエネルギーを溜める。
英美「君なら上手くやれる、私の目に狂いはな
いはずだよ!」
快、バビロンのエネルギーを溜める姿を
見た。
快「はぁ、はぁ……」
時が止まったように感じる。
そして決断した。
リク「え、何すんだよ!」
快、リクを抱えて出口へ向かう。
英美「ありがとう」
英美、笑顔を浮かべる。
英美「君になら出来る、見出せるから……!」
バビロン、そこで口から熱線を放つ。
快とリク、何とか外へ出て逃げ切るが英美
は助からなかった。
○新宿 街
快、叫んでいた。
快「あぁぁクッソぉぉっ!」
リク「うわぁぁぁんっ!」
英美の言葉を思い出す。
快、更に嘆いた。
快「やりたい事が出来ないから辛いんじゃない
かぁ!」
快、地面に突っ伏した。
快「クソぉ、こんな時も自分が心配だなん
て……」
するとまた幻聴が聞こえる。
幻聴『君は大丈夫だ、安心して!』
快、気力を失くしてしまう。
快「何が大丈夫なんだよ……」
すると幻聴が続きを話す。
幻聴『だって君は託されたから』
快、目を見開く。
快「え……?」
幻聴『自分には出来ない事、君なら出来ると信
じて託した。応えなくていいの?』
快「何言ってんだ、彼女に出来なくて俺に出来
る事なんてある訳……」
バビロンを思い出し言う。
快「俺は怖くて逃げたんだ、英美さんの意思を
汲んだんじゃない……」
幻聴『じゃあ何で一人で逃げなかったの?』
快「それは……!」
幻聴『君はしっかり意思を汲んでリク君を救っ
てくれた』
快「俺……」
幻聴『君はもうヒーローだよ』
快、拳を硬く握る。
すると目の前に蒼く光るものが見えた。
快「これは……」
それは先程英美が持っていた水晶がついた
ネックレスだった。
快は吸い寄せられるように手を伸ばす。
そして触れた、次の瞬間。
快「なっ⁈」
眩い光に全身が包まれる。
すると自分の記憶とは違うフラッシュバッ
クが。
光り輝くヒーローが人々を救う姿が映し出
されていた。
幻聴『君は大丈夫、この世で最も大切なものを
求めているから』
力が溢れるような気がする。
幻聴『求めよ、さらば与えられん』
快、水晶を握りしめ胸に拳を当てる。
幻聴『君は何を求める?』
快「そんなの決まってる……」
快、拳を前に突き出した。
快「ヒーローに、なりたいっ!」
快、姿がみるみる変わり巨大化した。
○新宿近郊
上空から眩い光が降り注ぐ。
赤と銀の巨人が光の中から現れた。
逃げ惑う人々は足を止めて巨人を見る。
快「これが、俺の変身……」
快、巨人の中から感覚など確認する。
バビロン、快が変身した巨人に迫る。
快「そっか、俺が戦うのか……」
快、拳を握った。
快「見てろよ……!」
巨人とバビロン、お互い目掛けて走る。
取っ組み合いの姿勢となった。
巨人、バビロンの顔面を殴る。
バビロンがよろけた隙に腹部に蹴りを入れ
た。
快「イケるぞコレ!」
しかしバビロン、巨人の足を尻尾で払い巨
人は倒れてしまう。
そのまま噛みつこうと顔を近づけた。
快「フンっ……」
巨人、バビロンの顔を押さえる。
そのまま腹部を両足で蹴り上げた。
吹き飛ばされるバビロン。
快「危ねぇ……」
巨人、よろよろと立ち上がる。
勢いよくバビロンに飛びかかった。
しかしバビロン、尻尾で巨人を隣のビルに
叩きつける。
崩れるビル。
その隙にバビロンは噛みつこうとした。
快「おわっ……」
巨人、何とか避けた。
バビロンは勢い余り瓦礫に突っ込む。
巨人、その隙に背後からバビロンの腹部に
手を回し締め上げた。
快「おぉぉっ!」
その時バビロンは口から熱線を放つ。
巨人は勢いで吹き飛ばされてしまった。
快「あれ、何か全然上手く戦えないっ……!」
巨人、焦りから何の策もなしに突っ込む。
バビロン、両腕で攻撃したが巨人も両腕で
防いだ。
しかし巨人、バビロンの顔面が目の前にあ
る事に気付く。
快「やべっ……」
バビロン、口から熱線を放つ。
巨人、モロに喰らい吹き飛ばされた。
快「ぁがああっ……!」
巨人、痛みでのたうち回る。
快「はぁっ、はぁはぁ……」
動悸が早くなり呼吸も荒くなる。
バビロン、それでも迫る。
快「はぁっ、ヤバいっ……恐いっ!」
巨人、手を前方に降り追い払おうとする。
快「来るなっ、来るなぁー!」
バビロン、その手に噛み付き振り回す。
そのまま巨人の腹部を何度も踏みつけた。
快「がはっ、げほっ……!」
バビロン、巨人の足先に噛み付いて引きず
っていた。
快「はっ……はっ……」
快の意識はほぼ無かった。
快にはまた走馬灯が見えていた。
○快の走馬灯
母「何でもっと普通に出来ないの!」
父「母さんの気持ちを考えてやれ!」
美宇「私だって辛いんだから」
辛い記憶が見える。
そして次は心配な未来。
瀬川「もう友達じゃない」
愛里「全然ヒーローじゃないね」
そのまま全員が快を囲んで言い放った。
全員「お前はヒーローになれない」
快、瞳が更に暗くなる。
快「嘘だ、そんな事ある訳ない」
沸々と憤りが昇る。
快「ふざけるな、こんなの理不尽すぎる!」
○新宿近郊
巨人、目を覚ました。
獣のような雄叫びを上げバビロンの顔面を
蹴り飛ばす。
そのまま立ち上がった。
快「ふざけんな! 俺はヒーローにならなきゃ
いけないんだよ!」
巨人、よろけたバビロンを何度も殴る。
快「散々辛い想いしたのにその分の良い思いが
出来ないなんて……」
巨人、バビロンを蹴り飛ばした。
快「割に合わねぇんだよ、バカ野郎!」
巨人、そのままバビロンへ突っ込む。
バビロンは右腕で攻撃してくるがそれを避
け背後に回る。
そしてバビロンの片目に指を突っ込んだ。
快「ぐぉおおおおっ!」
叫びながら暴れるバビロン。
巨人、更に目玉を抉るようにほじくる。
快「フンッ、フンッ!」
巨人、目玉から手を離しバビロンの頭を両
手で掴む。
そのままグルグルと回し投げ飛ばした。
快「ぜりゃぁぁぁっ!」
バビロン、そのまま大きなビルを下敷きに
倒れる。
巨人、その隙にエネルギーを溜めた。
快「終わらせるっ!」
右の拳を前に突き出し超絶光線ライトニン
グ・レイを放つ。
バビロン、直撃を喰らい爆散。
しかし予想以上の大爆破に巨人も巻き込ま
れてしまった。
人々「ぁ……」
見入っていた人々、動画で撮っている者も
いる。
新宿近郊は爆炎に包まれていた。
快「オォォ……」
巨人、爆炎の中で立ち上がる。
その姿を見た人々は恐怖の眼差しを向けて
いた。
○画面上
ニュース番組やネットの記事は巨人やバビ
ロンの話題で持ちきりに。
記事1《怪獣出現! 終末は近い?》
記事2《謎の巨人 敵か味方か》
SNSでもトレンドに上がる。
アカウント1《新宿に怪獣出たってホント?》
アカウント2《どれだけ被害出たと思う?》
アカウント3《クソ職場潰してくれて感謝》
○創家 玄関
美宇、帰った快を強く抱きしめる。
美宇「よかったぁぁっ……」
快、抱きしめられながらも右手には英美が
持っていた水晶、グレイスフィアを握る。
○謎の施設
椅子に男が一人座っている。
その前方には四人の男女が並んでいた。
男「すまないね、大幅に予定が狂ってしまった」
男、優しい笑みを浮かべる。
男「ゼノメサイア、神の子よ……こんなに早く
出現するとは」
男、前方の男女に言う。
男「これから少し様子見に入る、君たちも準備
しておいてね」
○真っ暗な空間
真っ暗な空間で細身の女が拳を握る。
女「何でアイツが……っ!」
彼女の様子を見る男がもう一人。
男「ヒヒヒ、俺にとっちゃ有難い結果だがな。
これでようやく夢が……っ」
○創家 居間(日替わり朝)
快、目を擦りながら起きる。
テレビを点けてニュースを見た。
アナウンサー『昨日の巨大不明生物同士の戦い
により新宿は甚大な被害を受けました』
ヘリコプターによるリポートが映る。
リポーター『歌舞伎町のクラブでは大規模のイ
ベントが行われていたようで逃げ遅れ犠牲に
なった者が二千人はいた模様です』
快、リモコンを落としてしまう。
昨日の戦いがフラッシュバックした。
思い出すのは巨人と化した自分が暴れ周囲
の街を破壊してしまった事。
快「彼らを殺したのは俺だ……っ!」
快、叫ぶ事すら出来ず立ち尽くした。
○メインタイトル
【XenoMessiaN 第1界 ハジメカイ】
つづく
コメント
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。