○回想 夏の高校のプールサイド 昼
蝉の声。制服姿の光と制服姿の海が掃除用具を置いて座っている。光「今年プロテストが開催される志田下ってとこ行ってきたんだ。浜に白い鳥居があってさ、波も良くて、海と空の水平線に鳥居がある景色がめちゃくちゃ綺麗で。それで、ああ俺、サーフィンやっててよかったなって。思って……」
光、一度躊躇うが続ける。
光「そこに虹がかかってるのを見たんだ。なんか奇跡みたいに感じちゃってさ、なんか、きみに見せたいって思ったよ」
海「……ありがとう、ございます」
光「俺、本当に海が好きなんだ」
海、自分のことかと思って目を見開く。
光「(それに気付かず)自然は怖いんだけどさ、波に乗ってると、守られてるなって感じが…… する…… (海の赤面に気付き)え、どうしたの?」
海「え、あ、いや、その……私の名前、海、なんで……」
光「ああー! ああー! そうだよね、ごめん。って、ごめんって言うのも違うか」 光、海の顔を見る。
光「それはさ、プロテストに合格したらちゃんと言うから、待っててくれる?」
海、喜びと驚きで何も言えない。光「待ってて、海ちゃん。そしたら一緒に、志田下行こうよ。きみが泳ぐ隣で俺も波に乗る。そんで、一緒に虹を見ようよ。約束」
プールの水面が光る。
○現在 大阪 ナイトクラブ フロア
会社員「お姉さんたちサイバージャパンの人ぉー!? めっちゃ可愛いなあ、俺らと飲まん?」
スーツを着た男性に声をかけられて、振り向く海と泉。社章の刺さる胸元にSDGsバッジも刺さっている。
泉「なあ海、行こうや。あの社章、製薬会社やで。製薬の男は遊ぶけどめっちゃ金あるし結婚早いしお薦めなんよ。な、な?」
海「えー……さっきっから、『話してみたら気ぃ合うかも』って言うから色んな人と話したけど、お酒飲まされるばっかりで、そんなことなかったもん」
二人だけで会話をする様子に、会社員男性二人が他の女子を見つけて立ち去る。
泉「せやから製薬は将来手ガタ……あー……」
海「それにもう、お酒飲めない……」
酔いで頭を抑える海。
泉「あーもう。しょうがないなあ。せっかく海に出会いをと思って連れてきたのに。ちょっとトイレ行ってくるから、カウンターで休んどきや」
泉と別れ、海は角の席で所在なくカウンターの隅にもたれると別の男性が隣に来る。
男性客「おっと、きみ、ここ危ないで! ブルートゥース飛んでる!」
海「(戸惑うように)え、や……」男性客「せやから俺らのビップこやん? 一人なんやろ?」 光がカウンターから遮るように手を伸ばして現れる。光「あーお兄さんごめーん、その子俺のお手つきだからー」海「え?」 戸惑う海、言った光の後頭部しか見えない会社員「あーそうなん、それならしゃーないわ! お兄さんなら他にもいるでしょ? 別の子紹介してや」光「えーしょうがないなあ。じゃあ俺の第三の目で探すと……あのトイレ前の子絶対イケる」会社員「まじで!? 行ってくるわ! ありがとう!」光「(呟き)あの子らプロだから逆に食われるだろうなあ……」海「ありがとうございます」光「あはっ。いいよいいよ、これも仕事だし」 振り返りながら言いかけて海と目が合う。海「(目を見開き)光先輩?」光「え? ……」泉「海ー! お待たー!」海「……気持ち悪い」光、泉「え!?」海「吐く」 海、嘔吐する。光が咄嗟に手を出し、意識がフェードアウトする。
光「あはは、まじ?」
○海の家 朝
泉「海! 海! 起きや!」海「え?」泉「アラーム鳴ってんで」 泉が枕元のスマホを示す。時刻は七時。海「ああ! 朝練! ……ってあー、頭いったあ……」泉「二日酔いやな。まじで飲み慣れてへんかったんなあ。……やばかったな、海のマーライオン」海「マーライオン? どういうこと?」泉「覚えてないん? あんな盛大にげろっといて?」 海、自分が着ていた服を確認する。昨日のままの服は綺麗だった。泉「あんたの服は綺麗なもんやろ。だってあのお兄さんが見事にキャッチしとったからな」海「は?」泉「いやだから、海のゲロ」海「ゲロ」泉「そうゲロ」 二人、顔を見合わせて沈黙。泉「うちがトイレから戻ってきたらその現場で……あんたと喋っとった兄ちゃんが綺麗にキャッチしてたん……まじで覚えてないん?」海「覚えて、ない(頷く)それは、覚えてない。けど……」 光先輩、と呼びかけた昨夜の顔を回想して手を止めた海の横で泉はスマホを見続ける。海「……私、なんて言ってた?」泉「いや覚えてないけど(スマホいじりながら)ていうかあのクラブ行きにくくなったやんか!」海「えー、あー……。ごめん?」泉「まったく……いや、けどうちも付き合わせすぎたな。こんな日でも朝練行くん? 午後からでええやろ」 海 着替えしながら海「行くよー。だって奨学金かかってるからね」泉「あーね。コンビニで森永のウイダー買ってくといいで。ラムネ味。まーじで二日酔い効くから」
海「ありがと」
着替え終わった海が、小さな鉢植えの観葉植物、サンスベリアに水をあげる。
泉「あーあ、なんやったっけ。サンちゃん? 高校時代に好きな男が忘れられず、観葉植物に名前つけて話しかけてる可哀想な海に彼氏をと思ったのにな……」
海「いいのに」
泉「いやだって、未だに好きんなった人が忘れられないんやっけ? さすがに華の女子大生、ハタチんなって恋人が観葉植物は草やろ」
苦笑いする海。欠伸をする泉。
泉「うちもうちょっと休んでていい? あんたの介抱で疲れた。二限のスポ心で会う時鍵渡すから」海「りょーかい。じゃあ、ごめんよろしく!」
家の外に出る海。
○大学プール 顔を拭いている海の後ろから、歩み寄ってくるコーチ。コーチ「二分二十五秒。悪くはないけど、海さんにしたらね」海「そうですね。もう一回いいですか?」 立ち上がり、プールに飛び込む海。
○大学講義室
席の一つに座る海の横に、泉が座り、持っていたヴィトンのオンザゴーを置く。
泉「海ー。ありがと、はい鍵」海「うん。……ねえ、あのさ」
講師が入ってきて会話が途切れる。スポーツ心理
海「それよりさ、私、昨日の夜まじでやらかしてた?」泉「まじって言うてるやん。酔う、吐く、キャッチされる……」
海「嘘でしょ」
泉「ほんまやって。まずいと思って海引っ張ってすぐ逃げたわ。あの人の服ゲロまみれやろなあ。かわいそうに」
海「やばい、弁償しなきゃ……」
泉「いいんちゃう。だって慣れてるやろ、ああいうタイプの人は。うちらみたいなのが深く関わっちゃいけないタイプやで」
海「ああいうタイプ」
泉「金髪にタトゥーで……あんなん、ヤカラに決まってるやろ」
海「……ねえ、どんな顔だった?」
泉「や、全然見てないけど……え、知り合い?」
海「いやなんか……」
高校生の頃の光の顔を思い出す海。
海「(小声)そんなはずない……よね……」
泉「海、変な行動力あるからなあ。気ぃつけてや」
○ 回想 春の高校のプールサイド 昼
プール入り口の鍵を開ける制服姿の海。更衣室で水着に着替えると制服姿の光がいる。海「誰……」
光と目が合ったところで、二年の先輩が来る。
女生徒「あー! 光先輩だ! 何しに来たんですか?」
光「邪魔してごめんね。学校にいる間、プロテスト前にパドリングの練習に時間使いたくて」
制服姿の女生徒に囲まれる光。海、一人の先輩に話しかける。
海「あの、この人って」
女生徒「ああー、一年の海ちゃんは知らないよね。三年の光先輩。サーフィンやってるんだって。しかもすごい上手くて、今年プロテスト受けるんだって」
海「へえ……そうなんですか」
女生徒の輪から抜け出し、顧問と話し出す光。女生徒たちが更衣室に入る。光、水泳部男子生徒たちが来て手を振り、顧問との会話を切り上げ歩み寄ろうとする。
光、プールサイドで滑り、プールの中に落水。駆け出しすぐに飛び込む海。
海、水中で、光と目が合う。海、光の腕を取り二人で水面から顔を上げる。
光「あははっ、きみ、すごいね。人魚みたい。そんな躊躇わず飛び込む?」
海「当たり前ですよ。大丈夫ですか」
光「うん、大丈夫大丈夫。あはは、これじゃどっちが、人魚姫かわからないね」
○ナイトクラブ 夜
海、クラブの前でスマホを開きラインを見る。竜太郎からのメッセージ『練習休みなんすね。体調悪いんすか、なんか買って届けてほしいものあったら言ってください』
『大丈夫だよ。ありがとう、また明日ね』
返信するとすぐ既読になる。スマホの画面を閉じて、クラブの中に入る海。
人混みを掻き分けカウンター近くに来る海はカウンターでお酒を作っている光を見つける。海「……光、先輩?」 海が見つめる先で光が顔を上げる。視線に気付いたかと思ったが光はカウンターに来た女性客二人組に笑いかけていた。客「コーウ! 来たよ〜」光「あっ、しいなちゃん椿ちゃん! おはよー。クライナー?」 海、女性客と話す様子を見ながら呟く。海「コウ……? 」 女性客が離れたのを見てカウンターに歩み寄る。海「あの、すみません。昨日、私……」光「あー(笑って)ゲロの子」 海、声が記憶の中の光と一致し絶句。光「可愛くない? 推しの子みたいで」
しかし、目の前の長袖から除く手の甲までタトゥーが入った金髪の男性の姿に光だという確信が持てず、焦りながらカバンからクリーニング代が入った封筒を渡す。
海「え? あ、あ、えーっと……すみません。昨日、私が服汚しちゃって……」光「えー。そんなのいいよ、ゲロには慣れてるから」海「慣れてる……」光「うん。仕事だし。だからお金いらないから大丈夫大丈夫」
海の記憶の中で、大丈夫大丈夫と話す過去の光と目の前の男が一致する。
海「光先輩。光先輩ですよね」
光の動きが止まる。目つきが一瞬変わり、それに自分で気が付き柔らかに細める。光「うーん、ここでそうやって呼ぶの、やめてほしいなあ」
海「ほんとに、光先輩……!? 私、ずっと……私」
バースタッフ「コウー! ごめんフード入ったー。ここよろしくー」光「はーい。……ごめん。忙しいんだ」海「すみません。あの、私待ってます」光「イベント中で人多いから、話す時間ないよ。それに(笑う)あんな吐き方してたんだよ。自分が夜向いてないの、わかる? きみは夜行性じゃない」
海「えっ、じゃあ、昼。昼間、会えませんか」
光「だめ。俺吸血鬼だから、夜しか会えないの」
○大学 昼
一限の講義に移動中。日差しの降り注ぐ廊下を海と泉が歩く。
泉「まーた寝不足そやな。朝練行ったん?」
海「あー……行けなかった。……昨日、あの人に会いに、クラブ行ってきたんだ」
泉「え!? あのゲロかけたヤカラ!?」
海「ヤカラっていうか……うん。知り合いだった」
泉「海、あんなタイプと全然違うやん。何の繋がりなん?」
海がなんと答えようか悩む間に、遠くから竜太郎が早足で歩いてくる。
泉「おっとあんたの忠犬くんが来たで」竜太郎「おはざっす」
海「おはよう」
竜太郎「眠そっすね。海先輩」
泉「いやいやうちもな。うちらあんま寝てないから」
泉「泉さんはいつものことじゃないっすか。(海の方を見て)昨日休んでましたし……泉さん、海先輩どっか連れてったんすか。やめてくださいよ」
泉「あーはいはいごめんて。あんたが大阪まで追いかけてきた海先輩取ってしまって」
竜太郎「どこ行ってたんすか」
泉「えー、何から話そ」
海「ちょっと言わないでよ泉」
竜太郎「なんすかなんすか」
海「竜太郎くん、私たち次は実験室だけど竜太郎くんは?」
竜太郎「(残念そうに)スポ医なんで医学講義室です。……昼一緒に食べましょうね」
廊下で竜太郎と別れ、海と泉の二人でトレーニング科学実験室に向かいながら会話。
泉「で? それでそれで?」
海「あー、うん。あの人が、昔の知り合いだってわかって」
泉「ははーん」
海「……当時と全然、違ったの。私が知ってる顔は、黒髪で日焼けしてて、夢があってまじめで、面倒見が良くて……」
泉「あーわかった。海が前に言ってたずっと好きな高校の先輩、やろ。わかるに決まっとるやん。女が男に夢があるって語る好きな男にだけや」
海、恥ずかしくなって黙る。
泉「やめややめやー。男は関関同立。保険証は六から始まるが至高。ああいう男は、やめや。辛い思いするだけやで」
二人、講義室に入る。
泉「男を忘れるには男。男は雲の数だけおんねん」
海「星の数じゃないんだ」
泉「男をあんな綺麗なもんにすんな。流れていくもんやねん。変わるもんやねん。よし、今夜とっておきの大学Tier上位男子たちと飲みいこや」
○ミナミ バルの店内
男女十人ほどの中に、上の空で談笑をする海。勧められるまま断れず、お酒を飲む。一人の大学生がずっと海を見ていた。
飲み会が終わり、全員外に出る。
泉、グループの中の男子と肩を組みながら。
泉「海ごめーん。うちここで帰るわー。あんた大丈夫ー?」
海「うん。大丈夫。平気……じゃあまた明日ね」
集団と別れ酔った状態で一人で進む海。
海「(小声)このまま歩いてたら、会えないかな……」
飲み会で海を見ていた男子が後ろから海の手を掴む。
男子「どっか行くん? なんか飲み足りないなら、一緒に行かん?」
海「いや、いいです……」
男子「ええやん。お互い一人なんやし」
商店街に光現れ、海と男子を見つけ歩み寄る。海の首に手を回す。
光「あはは。この間のゲロの子じゃーん。何してんの?」
光「きみ、この子の彼氏? 俺のアークテリクス、代わりに弁償してくれる?」
光の容姿に萎縮し、慌てて立ち去る男子。
海「ゲロの子……って」
光「うんうん、ごめんね。あれが一番スマートかなーって」
海「そんなわけ……うっ(えづく)」
光「吐いていいよ」
光、海の口に指を突っ込む。海は嫌だと抵抗するが逃れられず、吐く。吐いた後の海を抱きしめる光。
光「ここ俺の生息地なんだよ。頼むから、こんな風に、うろうろしないで」
海「だって、光先輩に会えないから。来たら、会えないかなって」
光「……言わなきゃ毎日来そうだな。きみは(溜息)三ツ寺の、ギャラクシービル、四階。……バーの名前は、ラーザビ。……俺、そこで働いてるから」
海「光先輩……今も、サーフィン、してます?」光「してないよ。あんな遊び、もう終えたよ」
二人、大通りに出る。
光「俺仕事あるから送ってけない。タクシー捕まえるから、乗って帰って」
海「あ、いいです私自分で」
光、手を挙げタクシーを停車させ、開いたドアに海を乗せる。
光「俺、タクシー拾うの上手い子は信用できないんだ」
光、財布から一万円札を取り出し海に握らせ、後部座席のドアを閉める。
○ 回想 高校のプール
海が一人で誰もいないプールサイドを掃除していると、光が現れ掃除用具を手に取る。
光「さっきはありがと。手伝うよ」
光、海にスポーツ飲料のペットボトルを渡し、二人、プールサイドを掃除する。
光「きみ、バタフライすごい速いんだってね。昔からやってたの?」
海「親に習わされて始めたんですけど、思ったより楽しくて続けてただけです」光「へえ。継続も才能で努力だ。すごいね」海「光先輩こそ。すごい人らしいですね。それだけの努力、されたんだと思います」光「才能は言われるけど、女子に努力褒められるって、初めてかも」 海、光の表情を窺う。光「やー、俺。嫌なんだよね、プロテスト受けるからってキャーキャー言われるの。藤井聡太も学校でこんな気分だったのかな」海「……藤井聡太も、先輩も、アイドルじゃなくて、アスリートですもんね」光「あはは。横並びに言ってもらえると嬉しい。……きみ、一番早く来て遅くまで残ってんの?」海「伝統で一年生が鍵当番と掃除係なんですが、一年生私しかいないんで」光「それで文句言わずにやってんのか。誰も見てないのに真面目だねえ」海「お天道様が見てくれてる……でしたっけ。ちゃんとやったら、相応に幸せになれる。なんて、信じてるんです。(恥ずかしくなり掃除する手に力を込める)それに、水の中だと、自由になれる気がして、好きなんです」光「わかるよ。俺は水の上だけど。そうだよね、努力が報われるの気持ちいいよね。俺たちアスリートだから、そう思うよね。ってか、信じたい」海「ですね(笑う)」光「大丈夫だよ。この先理不尽なことがあっても、俺はきみが頑張ってたこと知ってる地上で唯一の人間だから」海「唯一(笑う)」光「誰もいないより一人でもいる方がいいでしょ? 空の上なんて見えないもん宛んなんないよ。あ、ごめん、他にもいる?(笑う)」 海、笑いながら首を横に振る。光「(微笑み)だからそのまま、泳ぎ続けてね。同じ水の中で、お互い生き続けようね」 二人、掃除を終える。光「明日も練習来るからさ、掃除手伝うよ。恩返し」
○バー「ラーザビ」 夜
海がCLOSEがかかっている扉の前に立った時、内側から扉が開く。
光「本当に、きたんだね。今開けるとこ」
光、扉のCLOSEを下げ促す。
光「入るなら飲み物出すよ。お金取らないから。何がいい?」
海「ここ、光先輩のお店なんですか?」
光「違うよ。俺は雇われ」
言いながらカウンターに入り、ペリエ(炭酸水)の入ったグラスを飲む。
光「なんか飲む?」海「それ、なんですか」
光「これ、ペリエ」
泡立つ見た目に、シャンパンだと思い込む海。
海「……じゃあ、甘いのを」
海、光が用意する間店内のビリヤード台を目に留める。
光「あー。いいでしょ、オーナーの趣味」海「あ、いえ。私、そういう話をしにきたんじゃなくて……」
光「ああ、そう。ミナミ進出してきた軍神さんの話でもする?」海「なんですかそれ。私が聞きたいのは。光先輩、どうして突然いなくなって……どうして、そんな感じで、ここに、いるのか」
光「そんな感じって? 大阪ってこと?」
海「……私、ずっと光先輩に会いたくて」
光「あはっ、ありがとう……俺は、会うつもり、なかったよ」
海「彼女とか、いるんですか」
光「いないよ。作らない。結婚もしてない、しないし」
海「……なんで、コウって呼ばれてるんですか」
光「俺の名前、光って一文字でしょ? ラインの登録名呼び間違えられて、ずっとそのまま」
海「訂正すればよかったのに」
光「(目を伏せ)名前なんて、夜の中ではどうだっていいんだよ。すぐに忘れる」
海「私は」
言いかけて、海のスマホに着信音が鳴る。
海「あ……電話」
光がどうぞと手を開く。通話画面で、スピーカーになってないことを確認して耳に当てるが竜太郎の声がスピーカーから漏れている。
竜太郎『海先輩。ミナミで飲んでるって泉さんから聞いたんすけど、今どこにいます? 俺今日バイトなかったのに、間違えてこっち来ちゃって』
海「あ、竜太郎くん。ごめん、今、私」
光「(わざと大声で)じゃあねえ、海ちゃん。早く帰んなよ」
竜太郎『……店の人っすか? 帰るとこだったんすね。迎え行くっすよ。どこにいますか』
海「(光を見るが目が合わず)三ッ寺だけど……」
竜太郎『じゃあ一本違う筋っすね。すぐ行きます』
海のスマホの通話が切れる。
光「やっぱそういう子、いるんだね」
海「今のは大学の後輩で……高校から知ってる子なんで」
光「ふーん、そう。どんな犬だって、祖先は狼だよ、気を付けてね」
海「そんなこと言ったら、猫は虎だし人は猿です。みんな獣じゃないですか」
海、ドリンク飲み干す。
海「また、来ていいですか」
光「俺は違うよ。……あ、ノアちゃん久しぶりー」
入ってきた女性客グループに「コウちゃんと呼ばれて」親しげに手を振る。
光「じゃあね。彼、すぐ来るんでしょ、早く行きなよ」
ビルから出た海。
海「名前も呼んでくれなかった……」
遠くから竜太郎が駆けてくる。
海「火と共に覚えた理性を軽んじるのにも、程がある」
○バー「ラーザビ」店内
女性客「ペリエ開けたらコウちゃん飲んでくれるー?」
光「えー、しょうがないなあ」
女性客「じゃあベルエポとペリエ、どっちにしよかな」
光「ペリエにしようか。いいね、飲みたい気分なんだよ」
光、シャンパングラスを用意しペリエジュエを開ける。
○大学のプール 昼
水から上がり、ゴーグルを外す海。
海「……夜しか、会えない」
コーチ「体調悪い? ここんとこ、タイム落ちてるよ。二分三十秒。
海「……すみません」
コーチ「もう一本行く?」
海「いえ、今日はもう……いいです」
○バー「ラーザビ」 夜
海が店の前に来るとCLOSEのプレートを下げるところだった光がいる。
光「なんで来るの」
海「だって、私。光先輩に会いたかった」
光、海に近付き目の下の隈を撫でる。
光「眠そうじゃん。……夜しか会えなくても?」
海「それでも、いいです。だから聞かせてください。光先輩の話を」
光「話すことなんてなんもないよ。ただフラフラしてるだけのクズだよ。獣以下だ」
光、海にキスをする。驚く海。
光「きみが来るから、悪いんだよ」
○大学 昼
明るいカフェスペースで泉と共に食事をする海。
泉「そんで、今日も行くん?」
竜太郎、カフェスペースで海と泉を見つけて歩み寄り、同じテーブルに座る。
竜太郎「まあた海先輩どこ連れてく気なんすか」
海「あ、竜太郎くん……」
泉「タトゥー入った海の知り合いがやってるバー」
竜太郎「は?」
泉「や、なんかその人が海の好きだった人っぽいんやって」
海「ちょ、泉」
竜太郎「俺も行きます」
○バー『ラーザビ』 夜
泉が扉を開ける。泉に続いて入ってきた海に、光が目を細める。
海「……光、せんぱ」
泉「(海を遮り)こんにちはー! 会ったことあります! あの時はどうも」
光「あはっ、美人さんだー。覚えてるよ。逃げるよ、って言ってった子だ」
泉「やーすみませぇん。咄嗟にヤバいと思っちゃって」
竜太郎「……どもっす」
光「おー、ガタイいいねー。好きなとこ座って」
泉、店内を見渡す。
泉「えーすごいオシャレー。ビリヤード台じゃん」
光「ここ狭いから場所取るんだけど、いいよね」
光、笑いながら言い、カウンターの中に入る。
泉「(海に小声で)カウンター行こや。話したいんやろ」
竜太郎「(テーブル席を指し)そこ座りましょ。泉さん、クソデカバッグ床置くの嫌でしょ。俺の横置けばいいですし」
海「……うん。見た目は、全然違ったんだけど」
竜太郎「(メニュー表を海と泉に向け)俺烏龍茶です」
泉「うち梅酒」
海「えーっと」
竜太郎「海先輩、連日飲むのは体に良くないっすよ。俺酔っ払い二人も抱えて歩くの嫌ですし」
泉「はー、つまらんやつやな。両手に花と言えや」
光「海ちゃん」
海「光先輩」
竜太郎「(海を見て二人を遮るように)俺も地元おんなじなんすよ」
光「えーすごいな、ここに静岡仲間三人も集結してるの?」
泉「なんでうち標準語に囲まれてんねん。バグるバグる」
光「あはっ、烏龍茶と梅酒、海ちゃんはお任せね」
他の客が来て「座ってー」と対応し離れる光。
泉「やー、あれはダメな男やな」
海「え? ろくに話してもないじゃん」
泉「タトゥーとか派手めなん抜きにしても。ビジュでわかる。顔で育ちはわかるし話せば合うかわかる。ビジュがすべてじゃん?」
何も言わない竜太郎。光が戻ってくる。
光「はい。これ飲み物。烏龍茶、梅酒、甘いのでしょ、カルーアミルクね」
客「お願いしまーす!」
光「はいはーい。ごめんねー、ここ俺一人だから」
三人乾杯。
海、カルーアミルクだと出されたものがただの牛乳で、驚きながら光を見るが目は合わない。
女性客「こうちゃーん、ビリヤード教えてー」
光「いいよいいよー。もっちろん。手取り足取りしちゃうけどいいー?」
光は女性客とビリヤード台に近づきキューの持ち方から教える。
海「海の好み、あんなんなんやな。そりゃ紹介した男たちが刺さらんわけや」
海「前はそんなタイプじゃ、なかったんだけ、ど」
竜太郎「帰りましょうよ」
泉「海まだ話してないんやから。あー、聞いて、うちのゼミの先輩が今日さあ……」
竜太郎は不機嫌な顔。時間が経ち、他の客の相手をしていた光が目の前に現れる。
光「はは、楽しそうだね。なんの話?」
泉「お兄さんも飲みます? 私一杯出します!」
海「ちょ、ちょ、泉」
光「えーいいの? じゃあもらっちゃおうかな」
光、グラスを用意する。サウザのボトルを手に取り入れるフリをしながら、水道水を入れる。四人で乾杯する。
泉「何飲んでるんですか?」
光「あーこれ? サウザ(笑う)俺、透明なお酒しか飲まない主義なの。何入れられるかわかんないからね」
竜太郎「(顰めっ面で)酒強いアピールっすか。やっぱチャラい人って酒好きなんすね」
光「(笑顔で)酒の強さを男の強さだと思ってるの? 可愛いね」
泉「言われてんでー。あんたの負けやな」
泉に揶揄され、竜太郎、不機嫌顔。
竜太郎「あんた全然男友達いなさそうっすね」
光「えー? 男といたって気持ち良くないじゃん。俺は女の子が好きだし、女の子も俺が好きならウィンウィンじゃない?」
竜太郎「こんなチャラチャラしたやつのどこがいいんすか、海さん」
海「え?」
光「チャラいなんて、今の俺には褒め言葉だよ」
海、光の表情を窺うが目は合わない。
竜太郎「そこのビリヤード。使っていいっすか。勝負しましょうよ」
光「あはは。スポッチャでうまくプレイできたクチだろうけど、俺なかなか強いよー?」
○ ラーザビ 店内
他の客が帰り、海、泉、竜太郎だけになる。
泉「そろそろ帰りませんか。……俺、帰る前にちょっとお手洗い行ってきますね」
竜太郎がお手洗いに行き、光が歩み寄る。
光「あの男の子が、この前の子?」
近くに来た光に海が顔を上げる。泉、わざとスマホをいじり聞こえないふりをする。
光「いいんじゃない。ああいう犬みたいな子」
竜太郎「お待たせしました」
光「……店、閉めようかな。ちょっと早いけど閉店にするよ。俺も一緒に外出ていい?」
光、扉に『CLOSE』をかける。
○ミナミ 繁華街 夜
大通りを四人で歩く。泉が竜太郎と話し、その後ろに海と光が並ぶ。
海「なんで、大阪に」
光「えー、関西弁可愛いから」
光「……それに、きみこそ」
光が言いかけると、後ろから声をかけられる。
不良「お前やろ俺の女に手ぇ出したん」
光「えー(海の横から離れ)誰だろ」
不良「アイラや、アイラ!」
胸ぐらを掴まれる光
光「あーあのいれてもスカスカの子ね。DVで折れやすそうな体は、あんたの趣味?」
怒る目の前の男。光が後ろにいる三人に言う。
光「じゃ、よろしく」
泉「海、走るよ!」
海「けど、光先輩が……」
竜太郎「何言ってんすか。ほっときましょ!」
竜太郎に引きずられるように走る海。
泉が通りに出てタクシーを捕まえる。
泉「早く乗り。帰ろや!」
海「やだ。私帰んない。光先輩、迎えに行かないと」
泉「あんた何言ってるん。あの人はこういうことにも慣れてるに決まってるやろ!」
海「そんなわけない……。助けに行かないと」
泉「行って何ができるん!? 遊ばれてるだけの男に本気になるなや!」
海「遊ばれてるって、思ってる?」
泉「思てる思てる! 夜の男が、不慣れな女子大生を……昔馴染みを、弄んでるって思ってるよ!」
海「私」
海と泉の不穏な空気を感じとる竜太郎。踵を返して戻ろうとした海を、竜太郎が捕まえる。
竜太郎「あーもう! わかりましたわかりましたよ! 俺が見てきます! 見てきますから! だから!」
走り出す竜太郎。泉、タクシーの運転手に声をかけられ諦めたような顔をする。
泉「先帰んで」
海「うん。気をつけてね」
海、竜太郎が行った先を追いかける。
泉「そっちもな。……ごめん、言い過ぎた。帰ってこいよ」
泉の乗るタクシーが出発する。
○路地 ゴミ箱の上
竜太郎、積み重なったゴミ袋の上に倒れている傷だらけの光を見つける
光「いいよいいよ、大丈夫。来ないでよ。電話あーけど、ごめん。もっと奥に運んで欲しいな」
竜太郎「自業自得なんじゃないっすか」
竜太郎、ごみを踏入り光を起き上がらせ路地から出そうとする。
光「やめて。そっち連れてかないで……俺、光、当たると死んじゃうんだ」
竜太郎「嘘っすよね」
光「嘘ならいいんだけどねえ(笑う)ポルフィン症。紫外線だめなんだ……だから俺、陽の光が当たる道、歩けないんだよ」
光「だからさあ、俺、海ちゃんと一緒にいられないんだよね」
竜太郎「悪いと思ってるなら、近寄らないでくださいよ。……もう、海さんに」
光「うんわかったよ。きみがいるなら、安心だ」
竜太郎、光を近くのビルの一階階段奥に運ぶ。
光「俺のことはさ、適当な女見つけて一緒に消えてったって言っといてよ。嫌われた方がいいって、わかってるんだ。あの子、優しいから」
ビルから出たところで海が竜太郎を見つける
海「竜太郎くん! 光先輩は!?」
竜太郎「無事でしたよ。うまく撒いて、怪我もなかったです」
海「よかった……光先輩は? どこにいるの?」
竜太郎「帰るって。他の女見つけて、一緒に消えて行きましたよ」
海「なにそれ……」
竜太郎「海先輩、忘れましょうよ。あんな人のこと、あんな男のこと。……世の中には、関わらない方がいい人って、いるんすよ」
海「なんでそんなこと、言うの。私はずっと光先輩が好きだった……だから、泳ぎ続けられてたのに!」
走り出す海。
○回想 高校 プール 海が更衣室で着替えから出ると入れ違いに二年生がやってくる。海「おはようございます」女生徒「おはよー。夏休み明け初日から練習かー」女生徒「あ、先輩たち。今の顧問が今年で退職するから遊び来たんかな」女生徒「年だったしねー。来年は強い人来るといいよね。受験かかってるし」 更衣室から出た水着姿の海、準備していると顧問の話を終え立ち去るところの三年生の先輩の会話が通り過ぎに聞こえる。女生徒「光学校辞めちゃったの寂しいねー」女生徒「ねー。なんの挨拶もなかったね」 海、後ろから声をかける。 海「先輩。それ、本当ですか……」女生徒「本当だよ。朝話しあった。えーまじで残念」 顧問のホイッスルが鳴り、先輩が立ち去り集合に向かう。海「なんで……」 海、水に入る前、水面に浮かぶ自分の顔を見ながら。海「(小声)理不尽でも、水の中にいたら……きっとまた会える」
○バー『ラーザビ』のあるビルの前 夜
海、スマホを開く。ラインのメッセージがきている。どちらも未読のマーク。泉から『今日来やんの?……』竜太郎から『待ってます……』
開かずに時間を確認。深夜二時の閉店時間。
海「こなかった。……ここじゃなければ、どこで会えるのかわからない」
夜のミナミを光を探して見まわしながら歩く。時折キャッチに捕まりいちいち立ち止まり頭を軽く下げ断る。
海「また会えなくなるんだ」
ミナミ中心部から外れた歩道橋に昇り、下を見つめる。顔を上げると、スーパー玉出の袋を下げた光が昇ってきていた。目が合う。
海「光先輩! (ハッとして)傷、だらけ……」
海、竜太郎の『無事でしたよ。うまく撒いて、怪我もなかったです』という言葉を思い出す。
海「(小声)あの言葉は、嘘……?」
目を逸らして、光は海を無視して通り過ぎる。
海「光先輩!」
階段を降りる光を呼び続け追いかける海。
海「光先輩! 光先輩! なんで無視するんですか……こんな、こんな終わり方なんて、ない」
海、考え込み、それから決意したように言う。
海「光先輩! 賭けをしましょう。車が来なかったら私の勝ち! 車が来たら私の負けです!」
光「は?」
光、そこで立ち止まり振り向き、道路に飛び出す海を見る。
光「嘘でしょ!? 車来るって!」
海「だから賭けなんです!」
光「危ないよ! 早くこっち来て!」
海「嫌です。光先輩が話してくれなきゃ──私といてくれなきゃ、嫌です!」
光「ああもう」
光のいる反対側の道路。真ん中の道路に海を挟むように、警察官が現れる。
警察官「何しとんお前ら! 早くこっち来なさい! こんのやったら……」
光はスーパーの袋を投げ捨て道路に飛び出すと、海の手を取り走り出す。
光「行くよ!」
走り出す二人。手を引かれて嬉しくなり後ろでこっそり泣く海。二人は路地に入り警察官を撒いたことを確認して立ち止まる。
光「何してんの! 危ないでしょ! なんであんなことしたの!」
海「だって、光先輩と話したかった」
光「それでそんなことする!? ──俺、太陽の光が昇ってたら、きみを助けられなかったんだよ!?」
海、光の気迫に一度怯む。
海「……じゃないと、わかってくれないじゃないですか。命を賭ける恋だって」
戦意を削がれたように、光、空を見る。
光「……夜明けが来る。行かないと」
光「俺と、来る? 嫌なら、二度と会わないようにする。会っても絶対、話さない。俺、きみに会うと……正しいと決めたことが、選べなくなるんだ」
海「ちっとも嫌じゃない……先輩がいる場所なら」
夜明けのマジックアワーの中、日陰を選んで走り出す二人。
○光の部屋
分厚い黒の遮光カーテン。ワンルーム。古い漫画が雑然と転がり、サーフグッズなどは一つもない。
光「俺の部屋。ここ、目の前が阪神高速で暗いの」
海「光先輩」
光「俺、病気なの。ポルフィリン症。日光過敏がある」
海「嘘……だって、サーフィン……」
光「だからやめたの。発症したから。なんか痒いな、と思う日々が続いて、いろいろ巡って検査したら……別名、吸血鬼病だってさ。笑えるよね」
光「治療で引っ越すことになってさあ。だから、きみとの約束は果たせないし……そのまま消えたの。(ふざけて笑う)そんでやさぐれたの」
海「光先輩」
光「それなりに楽しくやってたんだよ。全身にタトゥー入れて、俺は選んで夜にいるんだって言い聞かせて、さ。本当。……あの日、会うまで」
海「本当に、他に、女の人、いません?」
光「(嬉しそうに)いないよ。そりゃあ、多少遊んだことも、あるけど(自分の怪我を示す)ちゃんとした彼女も作らなかった……作れなかった」
海「なんで大阪にいたんですか」
光「夜に紛れて生きるなら、都会しか選択肢がないかなって。静岡、進学なら東京行く奴らが多いでしょ。知り合いに会いたくなかったし。……海ちゃんは?」
海「私も……光先輩がいなくなってから、嫌なことがあって、それで、できるだけ知り合いがいないって選んで……けど、泳ぎをやめたら、光先輩と会えなくなると思って、こっちの体育大にきました」
光「そっかあ。きみも理不尽と戦ってたんだね。好きだ。好きだったよ、海ちゃん。ずっと覚えてた」
光が海を抱き締める。ベッドに傾れ込む二人。
光、全裸の海をなぞりながら。
光「きみは未練の形をしてる」
海「お願いだから……未来に、してください」
○光の部屋の中。夕方
ベッドの枕元にあるスマホが鳴り、だるそうに手を伸ばす裸の海。
竜太郎「海先輩、なんで来ないんすか」
海「だって、昼間、眠くて。……ごめん、切るね」
竜太郎が何か言いかけていた通話を切る海。
光「海ちゃん、大学」
海「やだ。ずっと一緒に、いる」
光「……反動が怖いな。きみがいなくなった時の。俺がいなくなった時の」
海「寂しいこと言わないで」
光「あーそろそろ仕事行かないと。心配だからこの部屋から出ないでね」
海、起き上がった光の上半身のタトゥーを撫でる。
海「この部屋に帰ってきてくださいね、光先輩」
○ミナミの繁華街 夜
海、キャッチを無視しながら歩く。バーのビルの前でスマホで閉店時間だと確認する。光はビルから出て来ると、海を見つけて驚き、手を繋いで歩き出し地下通路に入る。
○ ミナミ 二人が地下通路を出たところ
雨が降っていた。
光「えー、こんな時間に雨? どうする、海ちゃん。濡れちゃうしこのまま」海「(遮り、笑い)走りましょ!」光「あ、え……うん!」 家に向かう道を走り出す二人。突然強くなる雨。
光「なんか急に強くなったね!」
光、道路沿いの公衆電話ボックスを見つける。光「とりあえずそこ、入ろ」
公衆電話ボックスに入る二人。雨が勢いを増す。
海「はー、すごい……濡れたあ」
光「雨予報なんてあったっけ? 全然見ないから」
二人、透明な壁の外を見る。
光「真空パックの中みたいだ」
呟くと明るい顔をして海を見る。
光「ここが密閉された空間で、だんだん空気が薄くなって、苦しくなってきたらどうする?」
海「えー、デスゲーム?」
光「とりあえずキスでしょ。お互いの吐く息で死にたいね」
光、海にキスをする。
光「こんな濡れると、あの日のこと思い出すよ。きみは躊躇いなく、同じ水に濡れてくれるね。……同じ水に飛び込むことを、愛って呼ぶのかな」
何度かキスをする二人。
公衆電話ボックスの中が曇っていく。
光「帰ろ。濡れてもいい?」
海「いいですよ」
二人、電話ボックスから出て雨が降る中笑いながら走る。
○光の部屋 明け方近い時間
海「濡れましたね。お風呂入ります?」
光「いや、無理。もうこのまま。ごめん、もう、その気」
濡れたまま二人、ベッドに転がり込む。
海「光先輩」
光「もっと、俺の名前を呼んで。夜の中で、俺の正しい名前を呼んでくれるのはきみだけだ」
○光の部屋
海のスマホに大学から着信が来ている。履歴には泉や竜太郎の名前。通知だけ消して部屋のカレンダーを見る海。
海「光先輩」
光「ん? どうしたの?」
海「生理、来ないんです」
光「普段から遅れる方?」
海「わりとしっかり周期的に。光先輩」
光「ちょっと……待ってみようか」
○光の部屋 夜
海はスマホで妊娠検査薬について調べる。生理予定日一週間を過ぎてからだと表示を見てまだ出来ないと確認し、ベビーグッズを見始める。
○バー「ラーザビ」 夜
光、カウンターの中でスマホで検索している。ポルフィリン症が遺伝する病気だと確認する。
○光の部屋 明け方
光、帰宅すると暗い部屋部屋の中で海を抱きしめる。
海「光先輩?」
光「んーん、なんでもない。一緒に寝よ。何もしないよ」
そのまま二人寄り添って眠る。
○光の部屋 夕方
光が寝ている横で起き上がる海。スマホで時間を確認する。こっそりと起きて家の外に出る。
○ミナミ繁華街 夕方
海、近くのドラッグストアで妊娠検査薬を買う。スマホで「妊娠したら赤ちゃんとどういう生活か」と調べながら帰路に着く。
奥山「何してんの」
海「先生……」
教師に肩を掴まれ、絶句する海。
奥山「旅行に来たら見つけたから。ほんと、たまたま(ドラッグストアの袋を見て)今こっちで暮らしてんの? 大学生?」
海「話すこと、ないです」
肩を振り払う海に、教師が怒ったように。
奥山「話すことないわけなんてないだろ。お前のせいで、新聞に名前が載ったのに」
逃げるように家に向かって走り出す海。
○ 回想 高校 プールサイド 更衣室
海がもうすぐ身支度が終わる段階で、三年生の先輩が入って来る。
女生徒「新しい顧問ウザー」女生徒「奥山嫌だよねー。セクハラで飛ばされてきたって噂でしょ?」女生徒「ムカつくけどさ、教え方はわかりやすいし、赴任した学校全部インハイに連れてく実力者なんだよね」女生徒「一人が犠牲になれば、うちらには実害ないもんね。そのおかげで、目ぇキモいだけで済んでるからね」
海、すれ違い更衣室を出る。プールサイドにいる奥山が声をかけて来る。
奥山「海ちゃん、キックの時の足首弱いから、ストレッチしようか。手伝うよ」海「……」 促されプールサイドに座ると、奥山に足首を掴まれる。
奥山「指先気持ちいい? どう?」
海、無表情。
○現在 ミナミ 光の家のすぐ目の前
家の場所がわかることをためらって歩みを止める海
奥山「俺たち仲良くやってたじゃん」
海「やってないです」
奥山「やってただろ。それがあいつのせいで……」
海「離してください」
奥山「違うよ。俺はただ話したいだけなんだよ。セクハラとかそんなつもりなかった。なあ」
○光の部屋
目覚めた光。横に海がいないことに気が付く。
部屋の中を見回してから西陽に気遣いながらカーテンを開けると、階下で海の姿が見えた。
奥山と揉めてるような様子に気がつき、外に飛び出そうとするが、紫外線が気になり一度躊躇うも部屋の外から出る。
エントランスまで来ていた光。紫外線が気になるが、日陰から飛び出そうとしたところで、竜太郎が駆けつけて現れるのを見る。
竜太郎「な……んであんたがいるんだよおい! 海先輩に近付くな!」
竜太郎が奥山を引き剥がす。
海「竜太郎くん!? なんでここに」
奥山「スイムキャップ買いにきてたんすよ。そしたらたまたま、走ってる海先輩が見えて……」
奥山「相変わらず生意気だな。ボディガードのつもりかよ。お前も同じだろ!」
飛びかかる奥山と掴み合いになり、殴ろうとする竜太郎。
海「やめて!」
○ 回想 高校 廊下
海、授業が終わり、部活に向かうため廊下を歩く。制服姿の竜太郎が立っていた。竜太郎「海先輩」海「あ……一年の……竜太郎くん」竜太郎「奥山、いいんすか。……あいつも、周りも。水泳なんて結局個人の力、才能なんすよ。だから優秀な指導者だって、黙ってる周りも腐ってます」海「だからみんなと話さないの?」竜太郎「それは、そういうわけじゃないっすけど(黙る)」海「(微笑み)竜太郎くんはすごいから、みんなちょっと近づき辛いだけなんだよ。自分から話してみなよ、もっと。努力してきたんだと思うよ、それを話していいんだよ」
海、立ち止まる竜太郎を置いて廊下を歩き出す。海「先輩たちは、推薦もかかってるから絶対インハイ出たいんだよ。私は、大丈夫だから」 海は立ち去る。
○回想 高校 運動場 正門入り口に『体育大会』の看板。運動場、来賓席には挨拶の地方議員。運動場に全校生徒、岡山を含む教師が並び、保護者もいる。教師『(マイク)選手宣誓。一年、矢部竜太郎』 竜太郎、前に出て壇上に上がる。女生徒「わー、親もプロ選手だし、本人ももう声かけされてんでしょ?」男子生徒「けど最近話したら気取らなくていい奴だったぜ」 海、会話が聞こえて微笑む。竜太郎『選手宣誓の前に、この場で告発したいことがあります』 海の顔から血の気が引く。竜太郎『今年から赴任された奥山悠介先生ですが、女子生徒への執拗な身体接触、不適切な指導があります。どうか今一度事実確認していただき、適切な処分を下してもらうことを、望みます』 騒然とする場。海、壇上から降りる竜太郎に駆け寄る。海「竜太郎くん……何言ってるの!? 騒ぎになったら、インハイどころか、大会にも出られなくなるかもしれないんだよ!?」竜太郎「それでも、俺は。間違ってると思ったんです」 他の教師に誘導されその場を立ち去る奥山。竜太郎「俺、学校楽しくなったの、初めてなんすよ。ずっと親の七光りってギスギスしてたから。海先輩に何かあったら、言ってください」
○現在 大阪 ミナミ
竜太郎に殴られ、去っていく奥山。
奥山「大阪中の大学に電話してお前に殴られたって言うからな! プロになれると言われてたお前が問題起こして泳げなくなるのが見物だよ!」
竜太郎「なんで大学、来ないんすか」
海「だって……」
竜太郎「(海の買い物袋、透けている妊娠検査薬に気が付く)ああ、そういうことっすか」
海「……」
竜太郎「あの男と出会ってから、堕ちてく一方じゃないっすか。わかりませんね、正しい関係じゃない」
竜太郎、立ち去る。
海「正しさが、なんだって言うの。陽の当たる道が、なんだって、言うの」
海がエントランスに入ろうと歩き出す。光、慌てて部屋まで駆け上がる。
○光の部屋 日没後
光は上着を脱ぎ、部屋の中で今起きたばかりというように。
光「おかえり、海ちゃん。どこ行ってたの」
海「あ、ちょっと買い物に……」
光、海の落ち着かない顔を見る。
光「……なんかあったよね、大丈夫?」
海「(笑って)私は大丈夫ですよ。それより光先輩」
買い物袋を見せようとする海から視線を外し、上着を着る光。
光「俺、今から行ってくるね」
海「え、今日休みじゃ……」
光「んー。ごめん、ちょっと、用事」
光、扉を閉め部屋から出ていく。
光「俺にはなんも言わないんだな……」
○バー 光の友人の店
バーテン「おー、コウ一人?」
光「一人だよ。お酒ちょうだい」
バーテン「あー嫌やなあ。お前飲むと吐くやろ。うちのトイレじゃなくて外で吐けよなあ」
お酒を作り背を向けるバーテン。バーカウンターのテレビが映すニュース番組を見る光。
リポーター『湘南で行われたサーフィン大会で優勝した、十九歳の若き天才サーファーに迫ります』
サーファー『本当、いい天気に恵まれて。海のコンディションも良くて、最高でしたね』
リポーター『静岡のご出身ということですが、サーフィンを始めたきっかけというのは?』
サーファー『近所にサーフィンをしていたお兄ちゃんがいて。あ、めっちゃ上手い人だったんですよ、いろいろ教えてくれて……』
バーテン「お待た〜」
奪うようにグラスを取り一気に煽る光。
光「くそっ! くそ──なんで。もう一杯、早くちょうだい」
○光の部屋
トイレから出てくる海。スマホの着信に気が付く。発信者は光。トイレには開けられた妊娠検査薬の箱がある。
海「光先輩?」
バーテン「あ、ごめん。俺、コウの友達なんやけどさ。コウ、俺の店飲みにきてん。それで、見たことない潰れ方しててさあ……ごめんやけど、迎えに来れやん?」
海、部屋を飛び出す。
○バー 光の友人の店
店の中に飛び入る海。
海「光先輩!」
バーテンに指さされトイレを見ると、便器にもたれるよう倒れている光。
バーテン「こいつここ最近は飲まんとったのになあ」
海「え、けど……」
バーテン「あいつが飲んでたペリエって、炭酸水やで?」
○光の部屋 夜中
ベッドで寝ている光が起きる。
光「ん。……トイレ」
トイレから出て来る光を待つ海。
光「海ちゃん、トイレの……どうだった?」
海「だめでした」
光「そっか。……海ちゃん。別れようか、俺たち」
海「(小声)なんで……」
光「夜型の俺に合わせてもらってるせいで、大学にも行けてないでしょ? それじゃ駄目だよ」
海「嫌だ、別れない!」
光「分かれよ! きみのためを思って言ってるんだよ!」
光、大声を出した自分に海が怯んだことに気が付く。
光「ごめん。ここで別れることが正しいんだ。俺に未来なんてない。俺の病気は遺伝性なんだ。子どもだって……」
海「光先輩の、ご両親は」
光「生きてるよ。病気わかって、やさぐれてたら勘当されたけど。じいちゃんばあちゃんもこんな病気だって聞いたことはないけど、そもそも会わないし、もっと前の家系はわかんない」
海「……遺伝的因子でも、発症しないかもしれない」
光「なんとも言えないよ。現に俺がなってるし」
視線を伏せた海に、微笑む光。
光「もしも子供が発症しなかったとしても、俺は遊園地にも、海にも連れて行けない。学校の運動会だって見に行けない。……子供に普通の喜びを味合わせてあげられない。……そんな思い、させたくないんだ。だから海ちゃん、別れよう。きみは、自由に泳いでて。明るいところに、ずっといて。そう思って、あの頃俺は、黙って消えたんだ」
海「やだ! いらない、未来なんていらない! 光先輩がいればそれでいい! それだけでいい! 喜びなんていらない。ずっとこの部屋の中だけで、いい。二人でいい。二人がいい」
海が泣き出し、光が抱きしめる。
光「参ったな。手を離すことが正しいってわかってるのに、俺がきみの手を離せない。……本当、参ったな。全部捨てて、こーんなタトゥー入れて昼間になんか未練ありませんって顔してたけど」
二人、キスをしてベッドの中に傾れ込む。
海「私は絶対、光先輩を、夜の中に置き去りにしない」
○光の家 夜
海、下腹部に違和感を覚え目覚める。隣で眠る光るを見てからトイレに行くと、生理がきていた。
○ホームセンター 夜
海と光、店内でカートを押している。
光「トイレットペーパー買ったでしょ。えーあとは……買い残しないよね」
海、レジ近くの見切り品コーナーのワゴンを見る。他の商品と同じように割引シールの貼られたベタが入っているボトルを見つける。
ボトルを持ち上げベタを眺める海を見て、光、スマホでベタの飼育方法を検索する。『餌切れに強い。一週間餌を上げなくても大丈夫』の表示を見る。
光「買おうか、この子。なんかいいじゃん。オシャレで」
海「そんな簡単に……」
光「ドレスみたい。俺のこと好きなの? メスかな。水槽買わなきゃね」
ベタのボトルをカートに入れペット用品コーナーに進み出した光を追う海。
○光の部屋
トイレで光の吐く音。
海、四角く大きな水槽に入ったベタに餌をやっている。光がトイレから出て来る。
海「エリザベスも心配してるよ」
光「ごめんね俺の女王様」
海「こんなおっきい水槽買って……過保護ですね、光先輩」
光「そうだよ。俺、過保護なの。知らなかった?」
光、海が笑う顔を見る。
光「今日店終わってから、あのクラブの方の手伝い行って来るよ。食い扶持増えたから稼がないとね」
○ミナミ 繁華街 夜
光をクラブの前に迎えに行った海。二人、帰り道を歩きながら。
光「やべーこんな時間なっちゃった」
海「夜明け近いですね。急いで帰りましょう」
光「無理やり飲まされせいで走れねー」
笑った海の横で、光、倒れる。
海「光先輩!? 光先輩!?」
○病院 昼間
扉を開ける海。カーテンが閉め切られ、照明のついた個室のベッドで、点滴が繋っている光。
光「この格好、ダサいし来ないでいいのに。アル中ついでの持病の検査入院だから、すぐに帰るし」
海「来るに決まってるじゃないですか。心配させてください」
光「俺は家に一人の女王様も心配だよ?」
海のスマホから着信音が鳴る。
光「談話スペースで話しておいで」
海が病室から出ていく。
光「肝硬変かあ。適当に生きてたツケだってわかってるけどさあ……俺。きみが命を掛けてくれた俺は、もう、死にたくないんだ……」
○病院の談話室 海
着信画面『お母さん』の表示。悩んでから通話ボタンを押す。
母親「あんた無事なの?(矢継ぎ早に)大学来てないって電話が来て……手紙も返信ないって言うし。このままじゃ特待生どころか、大学まで危ういのよ? あんた、わかってる?」
母親「わかってるよ。わかってる。正しくないってわかった上で、選んでるの」
海、電話を切る。早足で光の病室に戻る。
光「おかえり。(海の顔を見て)大丈夫じゃ、ないよね?」
海「光先輩が、ね」
○光の部屋 夕方
カーテンが開けられ、夕陽が差し込み、ベタの水槽を照らす。
海「気持ちよさそうに、泳いでるね」
ベタのエリザベスに餌をやる。
海「ずっといられれば、それだけでいいのに。昼は煩わしいことが、多すぎる、ね」
○病院の前 昼
泉からの着信。無視をしようとして、もう一度鳴る電話に応答ボタンを押す海。
泉「あーあんた! やっと出たあ!」
海「……泉」
竜太郎「海先輩」
海「竜太郎くん」
竜太郎「大学からの連絡も無視してるんですって? 夏のインカレで結果を出したら、特待生続けさせてくれるそうです……まあ、体が一番大事ですけど」
海「そっか……そうなんだ」
竜太郎「俺は大丈夫です。こっちは何の問題も、変化もありません。だから……その、戻って来るんですか。それとも」
泉「あんたうちの電話で説教くさいんやめてくれる? スマホの消費期限早まるわ」
通話越しの二人を想像し少し笑う海。
泉「うちさあ、一緒にいる人には、全力で向き合うようにしてんねん。それがどんな形でも。……どんな出会い方でも。だからさあ、海も、好きな方にしや。海は、選べるんやで」
海「ありがとう、泉」
泉「結局、所詮未来なんて、今の連続や」
○病室 昼間
古いコンビニのコミック本を読んでいる光。光、紙の文字が二重に見え目を擦る。
その横でメール画面を見る海。
『特待生継続に関する条件のお知らせ。……出席不良により……』
海、メールを読み画面を閉じ、ベッドテーブルにスマホを置く。
海「ちょっとトイレ行ってきます」
光「うん。いってらっしゃい」
病室から海が出ていく。光、コミック本を閉じ、置いた腕があたりスマホが落ちる。
まだロックがかかっていなかった海のスマホのメール画面が見えてしまい、目を凝らして内容を読む。
海が帰ってくる足音がして、慌ててスマホを元に戻し、コミック本を適当に開く光。
光「おかえり」
海「それ、何度も読んでません?」
光「結末を知ってる話の方がいいんだよ」
○病院 昼間
医師と対面に、診察室に座る光。
医師「結膜と強膜にも病変が起きています。皮膚型の患者さんに見られる症状なのですが、物が二重に見える他に……今後視野が欠けていく可能性も十分にあるでしょう。現段階の治療については以前お話しした通りですが……終末期病棟の移動をお薦めします」
光、部屋を出る。
部屋に戻る途中、院内のコンビニに寄る。菓子コーナーの横に目が留まり、商品を手に取る。
○病室 昼間
海「お帰りなさい。どうでしたか? 退院できそうですか」
光「タトゥーのせいでMRI困るよーって話だったよ。別に大丈夫大丈夫」
海「そうなんですか。そういえば、その模様って」
光「なぞってみる?」
光、腕を引っ張り海をベッドに押し倒す。海の下着が落ちる。二人、白いベッドの中で寝ながら。
光「今夜さ、病院きてよ」
海「面会時間が……」
光「ほら俺こんな病気でしょ? 俺の名前言えば、大丈夫だから」
○病院 入り口 夜中
疑いながら入り口に歩み寄る海。夜間になり透明な自動ドアは手動に切り替わったため近付いても開かない。すぐ横の警備員室の前に歩み寄る。
海「すみません、面会なんですが……」
警備員「名前書いてね」
光が入院している一般病棟の名前と、光の名前を書く。
警備員「この時間、一般病棟は……」
自動ドアが内側からノックされる音。
光「(大きめの声で)今日病室移動になりました。その名前で確認してもらえませんか」
警備員「ああ……はい、そうなのね」
警備員、パソコンで確認し、扉を開ける。
海「光先輩、移動って」
光「んー、えっちしたのがばれちゃったのかもね」
海「えっ」
二人、病院内を進む。
○病院 屋上庭園
海「ここ、こんな綺麗な場所だったんですね」
光「うん。結構お手入れしてるみたいだね。俺も初めて。月が見える。満潮、オフショアだね」
光、ポケットから物を取り出し、外装を破る。
海「なんですか、それ」
光「んー、可愛いでしょ。色んなことが、懐かしくなっちゃってね」
シャボン玉付属のストローを咥える光。
海「(笑いながら)似合う」
光「(笑って)シーシャより?」
光、シャボン玉を吹く。月明かりに光るシャボン玉。
海「綺麗」
光「虹色、でしょ。約束、ずっと果たせなくてごめんね。しょぼいけどさ、虹、これで許してよ」
海「そんなの……」
光「海ちゃんも吹いてよ」
海、光からシャボン玉液とストローを差し出され、受け取る。息を吐いたがうまく液がつかずシャボン玉は浮かばない。
海「あ……」
光「綺麗だね」
海「(驚き光の顔を見た後)……そうですね」
×××
○海の家 部屋の中 早朝
部屋の中にはベタの入った四角い水槽がある。その隣には、株分けされ小さなサンスベリア。
海「行ってきます。サンちゃん……エリザベス」
部屋の中に白い夜明けの光が入る。
○ 日本学生選手権水泳競技大会 会場
騒がしいプールサイド。
飛び込み台に立つ海は水面を見つめる。
海「虹色」
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