第8回新人シナリオ発掘プロジェクト受賞作「牙を抜かれた獣たち」 ギャグ

銃は力の象徴だ。万人に等しく力を与える。しかし銃の規制されたこの国では、弱者は弱者のまま搾取され続けるだけだった。いじめられ引きこもった秋川久一(15)も妄想の中で復讐するぐらいで精一杯だ。そんな時、久一の耳に飛び込んできたのは「自作の銃で政治家が撃ち殺された」というニュースだった…。
第20回小説現代新人賞_まいずみスミノフ 69 0 0 07/31
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第一稿

※映画をテーマにするという作品です。
テーマ映画 「キャリー」

◇人物
秋川久一(15)中学生 
菅野健二(15)中学生 久一の友達
竹原美奈子(29)久一の担任教師 ...続きを読む
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※映画をテーマにするという作品です。
テーマ映画 「キャリー」

◇人物
秋川久一(15)中学生 
菅野健二(15)中学生 久一の友達
竹原美奈子(29)久一の担任教師
江崎栗雄(40)フリーター 自称殺し屋

◇本文
   映画「サイコ」の音楽が流れる
   赤く染まった世界。
   そこは秋川久一(15)の妄想の中学校。
   激しい銃撃音と悲鳴が響く。
   不敵な笑みを浮かべて廊下を歩いて来る学生服姿の久一。
   久一の手にはショットガン。
   久一、逃げ惑う生徒にむかってショットガンを放つ。
   ぎゃあと悲鳴を上げて倒れ込む生徒達。

久一「ハーッ! 死んで償え! 血で贖え!」

   デタラメにショットガンを撃ちまくる久一。

久一「僕がいつまでも被害者に甘んじると思ったか⁉︎やり返さないと思ったか⁉︎バカめ。やり返すんだよ!人間だもの!」

   久一、教室の隅で腰を抜かして動けない生徒と教師を見つける。

久一「無能な教師も傍観者共も同罪だ!」

   逃げようとする生徒と教師、久一の放った銃弾に倒れる。

久一「見て見ぬフリは極刑なんだよ!」

   久一に撃たれた生徒、オーバーリアクションで地面に倒れ込む。
   生徒を冷ややかに見下ろす久一。

久一「…いや、いやいや。そんな風に転がる? なんかリアリティに欠けるっていうか…え、やる気ある?」

   久一、自分の持つショットガンを見て、

久一「この銃声も軽いって言うか…、大体中 学生が片手でポンポン撃てるようなものなの?ショットガンって?」

   しゃがみ込む久一。
   久一、地面に広がった血を指で拭って、

久一「…人間の血って何色だ?」

   ×  ×  ×

   辺りに響き渡るゲームの電子音。
   場所は変わってゲームセンター。
   いつの間にか久一の手にはショットガンではなくガンコン(銃型のコントローラー)が握られている。
   久一、ガンシューティングゲームで次々ゾンビを撃ち抜いていく。
   久一の後ろ、恐れ慄いて腰を抜かす菅野健二(15)

久一「…という風に僕は毎日クラスメイトを虐殺している」
健二「……」
久一「ほら今もクラスのお調子者の脳みそが吹き飛んだ」

   ゲーム画面の中、頭から血を噴き出して死ぬゾンビ。

健二「…お、お、恐ろしいいいいいいいッ‼︎ 温厚な久一殿を! 半年という月日が!…あああ悪魔に変えたでござる!」
久一「健二くんが戸惑うのも無理はない。久しぶりに会う友達が殺人衝動に目覚めているのだから…ククク」
健二「辛くないでござるか⁉︎」
久一「辛い? まさか! 妄想がリアルでグロテスクなほど僕の気持ちは安らかになるんだ!」
健二「……」

   気取ったポーズを取る久一。
   暗い表情を浮かべる健二。
   久一、突然腕を抑えて、

久一「くッ殺人衝動がッ! 奴らを虐殺する無限のイメージが湧き出て止まらないッ!」
健二「久一殿! その銃を離すでござる!」
久一「魔銃グレンイフリートッ! 僕の言うことを聞きやがれ!」

   ガンシューティングゲームの画面には「GAME OVER」の文字。
   久一、がっくりと肩を落として、

久一「…やっぱりダメだ」
健二「…ダメ?」
久一「どうも最近妄想が捗らない。ままごとみたいな妄想ばかりでうんざりするよ」
健二「おろろ…」
久一「ねェ健二くん! 今日来て貰ったのは頼みがあるからなんだ!」
健二「頼み?」

   ゲームの筐体に百円玉を入れる久一。
   軽快な音楽が流れ始める。

健二「な、何が始まるでござる⁉︎」
久一「今から僕のトレーニングを見せるから不調の原因を突き止めて欲しい!」
健二「トレーニング⁉︎」
久一「妄想のトレーニングだよ!」
   
   久一、様々な格好良いポーズをとりながら次々とゾンビを撃ち抜いていく。

久一「「ザ・ハウス・オブ・デッド」は僕に銃の扱い方を教えてくれる!」

   久一、次にアーケードコントローラーのレバーを握り、格闘ゲームをする。
   筐体から聞こえる「波動拳‼︎」の声。

久一「世界中の格闘技を勉強するなら「ストリートファイター」!」

   久一、徐に立ち上がり軽快な音楽
   「Butterfly(SMiLE.dk)」に合わせてダンスゲームをする。

久一「「ダンス・ダンス・レボリューション」はリズム感と筋力トレーニング!」

   じっと真剣な表情でUFOキャッチャーをする久一。

久一「そしてUFOキャッチャーで集中力を磨く…」

   ごろっとUFOキャッチャーから出て来るぬいぐるみ。
   久一、取れたぬいぐるみを健二に渡して、フッと額の汗を拭う。

健二「…うむむ、しかし特に悪い所は見つからなかったでござる」
久一「でも足りないんだ…何かが…ッ」

   ゲームの筐体をぐるりと見回す久一。
   久一、格闘ゲームでボコボコにされているキャラクターを見て、ハッとする。

久一「もしかして痛みかな⁉︎」
健二「…おろ?」

   久一「太鼓の達人」から太鼓のバチを二本ガメてくる。
   久一、健二にバチを渡して、
  
久一「健二くんこれで僕を殴ってくれ!」
健二「おろ⁉︎」
久一「リアルな妄想にはリアルな痛みが必要なんだ!」
健二「…つまり拙者の「飛天御剣流」が火を吹く時がきたという事でござるか?」
久一「ああ火を吹くような激痛を頼む!」

   バチを格好良く構える健二。
   尻を健二に向けて突き出す久一。
   健二、目を見開きバチを振りかぶるが、しゅんと肩を落とし武装解除する。

健二「…いやでござる」
久一「いやァ?」
健二「拙者は友達を叩きたくないでござる」
久一「でも上質な妄想が必要なんだよ!」
健二「今日の久一殿の妄想は怖いでござる。 拙者は楽しい妄想の方が好きでござる!」
久一「妄想は遊びじゃない!」

   尻で健二を追い立てる久一。

久一「今日の健二くんこそなんか変だ!」
健二「……」
久一「ノリが悪いっていうか…何か僕に言いたい事でもあるのか⁉︎」
健二「…久一殿は美奈子先生に会ったでござるか?」
久一「美奈子? いや知らない名前だ」
健二「新しい担任の先生でござる」

   バラの香りを漂わせながら、教壇に立つ竹原美奈子(29)
   美奈子、黒髪で明るく清楚な印象。
   美奈子、弾けんばかりの笑顔で、

美奈子「皆おはよう! おはよう! おはよう! 私は美奈子! 竹原美奈子! 竹原 先生じゃなくて親しみを込めて美奈子先生 って呼んでね! 私はこのクラスが大好き! このクラスの担任になれた事を誇りに思ってます! もし何か悩みがある人はいつでも先生の所に来てね。みーなーこー…チョベリグッ‼︎」

   舞台から出ていく美奈子。

久一「バカそうな女だな」
健二「…美奈子先生は皆の人気者。でも日陰 者の拙者にも話かけてくれるでござる。拙者と「るろ剣」の話をしてくれるでござる」
久一「……」
健二「だからきっと久一殿の力にもッ!」
久一「…そんな事で健二くんはたらし込まれたのか?」

   仰々しくため息をつく久一。

久一「…どうせそいつも無能だ。肝心な事は見て見ぬふりだよ」
健二「……」
久一「でも「殺し屋」は違う!」
健二「…殺し屋?」

   いつの間にかガンシューティングゲームの前に江崎栗雄(40)が立っている。
   江崎、筐体に百円玉を投入してガンコンを握る。
   江崎に気づいて笑顔になる久一。

久一「殺し屋は本物なんだ!」

   江崎、見た事のない銃の構え方で、一々ポーズをつけてゲームで、ヘッドショットを連発する。
   江崎に憧れの視線を向ける久一。

久一「華麗な身のこなし! あの命中精度! やっぱ殺し屋はすげェや‼︎」
健二「…ただのゲームの達人では?」
久一「…いや腰を抜かすなよ。殺し屋は実際に人を殺した事がある」

   腰を抜かす健二。
   シャッと格好良く銃をしまう江崎。
   ゲーム画面に表示された文字は、
   「HIGH SCORE」「Congratulations!!」
   江崎、これ見よがしにミルクを飲む。

江崎「また来たか坊主」

   「サイコ」の音楽。
   赤い久一の妄想の世界。
   舞台中央に立つ武装した久一。
   久一、デタラメに銃を撃つ。

久一「死んで償え! 血で贖え!」

   久一の妄想の中へ入って来る江崎。

江崎「違う違う。お前そんな持ち方じゃ一発で肩外れるぞ」

   江崎、久一にショットガンの構え方を教える。

江崎「銃のバックエンドを肩と胸筋の間に押し当てて、足は肩幅に開いて膝は軽く曲げて…そうだ」

   倒れている生徒を起こす江崎。

江崎「そもそもショットガンってのは熊みたいな猛獣を相手にするものだ。脆弱な人間を撃ったら…ぐっちゃぐちゃになる」
久一「(激しく頷く)…ッ」
江崎「それと人間の血は赤じゃない。…黒だ」

   戻ってゲームセンター。
   舞台には江崎と久一。

久一「やっぱ殺し屋の体験談は勉強になる!」
江崎「しッ声が大きいぜ坊主」
久一「これでリアルな妄想が出来るよ!」
江崎「(考えて)…それでお前は満足なのか?」
久一「え?」
江崎「妄想は一時的に欲望を満たすに過ぎない。いいか坊主、心の声を聞け。乾いた心の叫びに耳を傾けるんだ」
久一「……」
江崎「…お前は殺さないと満たされない」

   ハッと息を飲む久一。

江崎「何の罪もないお前を虐げた連中を、妄想のように、いや妄想以上に、辱め絶望させ惨殺してやりたい。そうじゃないのか⁉︎」

   目を泳がせながら言葉を絞り出す久一。

久一「…でも僕には…銃がないんだ」
江崎「関係ないね。だってナイフ一本あれば人は殺せるんだぜ?」

   呆然とする久一。

江崎「いや本来ナイフすら不要だ。俺達には牙があるんだからな」
久一「牙…」
江崎「さてといっちょ食らい付いて来らァ!」

   颯爽と店内から出て行く江崎。
   久一の目に宿る炎。

久一「牙ッ」

   物陰からひょっこりと出て来る健二。

健二「…久一殿?」
久一「健二くんは「キャリー」っていう映画知ってる?」
健二「…きゃりー?ぱみゅぱみゅなら…」
久一「いじめられっ子の少女キャリーが自分をいじめた相手や無能な大人達を超能力で皆殺しにする映画なんだけど…ズルいよね」
健二「ズルい?」
久一「だってキャリーには超能力があるんだから、そりゃあ皆殺すよ。僕とは住む世界が違う、所詮は夢物語…そう思ってた」
健二「……」
久一「でも僕にもやり返す牙があった」
健二「…牙でござるか?」
久一「僕の牙はココ(心臓)にある」

   興奮を抑えきれない様子で自分の胸を叩く久一。

久一「殺し屋のおかげでやっと分かった」
健二「……」
久一「…僕はキャリーになりたいんだ!」
健二「…目を、覚ますでござる。久一殿ォ!」

   健二、久一をビンタ。

久一「痛てえええッ! 友達を殴りたくないんじゃ、なかったのかよ!」
健二「キャリーになっちゃダメでござる!」

   久一に掴みかかる健二。

健二「報復に被害者はいないでござる!」
久一「はあ⁉︎」
健二「やり返してしまえばそれは加害者と加害者!」
久一「違う! 被害者に甘んじるからやられるんだ!」
健二「被害者でいる事が久一殿の正義でござる! 加害者になれば同罪でござる!」
久一「……」
健二「今ならまだ間に合うでござる! 美奈子先生に相談してみるでござる!」
久一「健二くんは僕の痛みを知らないからそんな悠長な事が言えるんだよ…」
健二「それは…」
久一「…もう決めたんだ。僕は復讐する!」

   袖から聞こえる美奈子の胴間声。

美奈子の声「おいうるせェぞクソガキ共!」

   ビクッと動きを止める久一と健二。
   金髪、ジャージ姿の不良ルックで入って来る美奈子。

美奈子「喧嘩なら外でやれ!」

   美奈子、どっかりと座って「パチスロ北斗の拳」を打ち始める。

久一「(小声で)「ギャンブラー」だ…」
健二「ギャンブラー?」
久一「話した事はないけどよく会う。年中スロットを打ってるロクでなしだ。殺し屋とは違う。(美奈子に)…やーいアバズレ、行き遅れ、社会のゴミ」
美奈子「(久一に)゛ああああん⁉︎」

   サッと健二の影に隠れる久一。
   再びスロットを打ち始める美奈子。

健二「いやあれは…美奈子先生でござる!」
久一「…あれがァ?チョベリグの?」
健二「いや…でも…違う…かも?」

   スロットにキレ散らかす美奈子。

美奈子「…なんで、ラオウばっかなんだよ! ジャギ来いよジャギ! もしくはアミバ! 美奈子チョベリバ!」
久一「あ今なんかそれっぽい言葉言った!」
健二「あと美奈子って言ったでござる!」

   軽蔑の眼差しを美奈子に向ける久一。

久一「でもあれが本当に頼りになるか?」

   健二、美奈子に近づいて、

健二「あの…」
久一「(健二に)おい!」

   制止する久一を無視する健二。

健二「美奈子先生でござるか?」
美奈子「だったら何だよ⁉︎ あああん⁉︎」
健二「こ、こんな所で何してるでござるか?」
美奈子「見りゃわかんだろ⁉︎ 核の炎に包まれた世界を救ってんだよ!」

   健二、もじもじとしたまま美奈子の隣から動かない。

美奈子「それとも何か⁉︎ 教師はギャンブル しちゃいけねェのか⁉︎ 休日返上で二十四時間清廉潔白でなきゃいけねェのかァ⁉︎」

   健二に詰め寄る美奈子。
   久一、健二の手を掴んで、

久一「期待するだけ無駄だよ」
健二「……」
久一「これが大人だ。心の底では僕達子どもの事なんかどうでもいいんだ。…行こう」
健二「…悩みがある人はいつでも来て良いって…そう言ったのは先生でござる」

   スロットを打つ手を止める美奈子。

美奈子「悩みがあるのかよ」
健二「…いじめられてるでござる」
久一「おいッ‼︎」

   バッとシャツを脱ぐに健二。
   健二の体には無数のアザ。
   アザを見て驚く久一と美奈子。

健二「いじめられてるんです、僕が」

   何かを言いかける美奈子。
   健二の手を取って走り出す久一。

   ×  ×  ×

   侍のように箒を構えた健二を傘を持った中学生達が囲む。
   ギロッと中学生達を睨む健二。
   中学生達「牙突、牙突」と言いながら箒や傘で健二を突き刺す。

健二「久一殿が学校に来なくなってから…拙者は飛天御剣流の継承者として溝口派一刀 流奥義・牙突の練習台になったでござる…」

   場所はゲームセンター入口。
   走って来る久一と健二。

久一「…どうして黙ってたんだよ」
健二「……」
久一「言われた所で力にはなれなかったけど」
健二「…禊でござる」
久一「禊?」
健二「久一殿が一番辛い思いをしている時に傍観者に徹していた事への…」
久一「…もういいよ、別に。…そんな事より見たかアイツの顔! 健二くんの怪我を見て驚いていた。知らなかったんだ!」
健二「……」
久一「見て見ぬフリよりタチが悪い! 無能を通り越して害悪だよ!」
健二「そうかもしれないでござる…」
久一「そうだよ!」
健二「なれば久一殿、拙者に一つ考えがあるでござる」
久一「…考え?」
健二「銃もナイフも超能力も要らない、現実の世界で合法的に加害者達の人生を破滅させる方法があるでござる」
久一「本当に⁉︎」
健二「自殺」

   黙り込む久一と健二。

久一「…自殺はダメだ。苦しむアイツらの姿を見れないだろ?」
健二「……」
久一「それに痛い…」
健二「……」
久一「今こそ僕達の牙を使う時だよ! 正直一人は不安だったんだ…。健二くんがいてくれるなら僕も心強い!」

   ふと、何かに気づく健二。
   健二の視線の先を見る久一。

久一「…殺し屋?」

   ゲームセンター店員の格好をした江崎とオーナーが立っている。
   オーナーにヘコヘコと頭を下げる江崎。

江崎「いやいやそんな私の? 給料から引くって? 冗談はよしこさんですよオーナー。 ただでさえ雀の涙…いや! 嘘! そう貰 えるだけありがたい! …分かりましたよ」

   笑顔で見送る江崎、オーナーの姿が見えなくなると、中指を立てる。
   久一と健二の視線に気づく江崎。

江崎「ふッ世を忍ぶ仮の姿も楽じゃないぜ」
久一「(呆然と)…牙は、どうしたの?」
江崎「牙? ああその…歯医者がさ、あんまり硬いものは噛むなって…」

   居た堪れなくなった江崎、従業員入口へ走って行く。

健二「完全に牙を抜かれてるでござる」
久一「……」
健二「久一殿はどうでござるか? まだ心に牙が生えているでござるか?」
久一「……」
健二「…大丈夫。牙を抜かれた者にも戦う方法があるでござる」

   手を取り合って歩き始める久一と健二。
   久一と健二、自殺の方法を調べて、睡眠薬を買って、遺書を書く。
   場所は久一の部屋。
   健二、錠剤の入ったボトルを取り出して久一に渡す。

健二「この睡眠薬が一番苦しくないらしいでござる」
久一「ふーん」

   ザッと薬を口に流し込む久一。
   健二も同様にボトルの薬を飲む。
   息を吐いて壁に寄りかかる久一と健二。

久一「昔は僕達どんな妄想してたんだっけ?」
健二「冒険して世界を救うでござる」
久一「ああ僕が銃で健二くんが刀を使うやつ」
健二「あと…おっぱいとか…」
久一「おっぱいも冒険も…今となっては復讐より難しいや」

   「遺書」を見下ろす久一。

久一「…健二くんは、こんなものが本当に復讐になると思ってるの?」
健二「…ごめんでござる」
久一「…謝らないでよ。あキャリー見る?」

   テレビを点ける久一。
   大いびきで寝始める健二。
   テレビから流れるニュース速報の音。
   ぼーっとテレビを見る久一、大きく目を見開いて身を乗り出す。
   様々なテレビ局の「ニュース速報音」が幾重にも響き渡る。
   久一、テレビ画面にしがみつく。
   どのチャンネルでも同様のニュース「本日昼頃」「元総理大臣が」「演説中に銃撃された」「被害者は意識不明の重体」と報じられている。

久一「…日本の事、だよね?」

   報道によれば犯人は「自作の銃」で犯行に及んだとの事。

久一「銃って作れるの…?」

   映画「サイコ」の音楽が流れる。
   部屋中に散らばったガラクタを手当たり次第に集めてくる久一。

久一「牙が無いなら作れば良いんだ!」

   ガラクタに金槌を打つ久一。

久一「僕達もキャリーになるんだ!」
健二「うーん…何の音でござるか?」

   よろよろと立ち上がる健二。
   久一、健二に自作の銃を見せて、

久一「見てくれ! グレンイフリート・オーベンベルク・マークツヴァイだ!」
健二「…久一殿が作ったでござるか?」
久一「時代は令和、銃は買う物から作る物に! あと僕なりに最強の改造を施している!」
健二「……」
久一「これが僕達の牙だ!」
健二「…キャリーに、なっちゃダメでござる」
久一「…健二くん?」

   久一から銃を奪う健二。
   健二、銃口を自分の頭に突きつける。

健二「被害者である事が拙者と久一殿の正義」
久一「そんなの…嫌だッ!」
健二「拙者の高潔な魂は何人たりとも穢させはしないでござる…」
久一「僕は復讐のためなら悪人でも構わない」
健二「ならばさらば久一殿!」
久一「やめろ! 健二くん!」
健二「お元気で」

   カッと強い光に包まれる健二。
   強烈な光に目を瞑る久一。
   久一がゆっくり目を開けると、健二は灰になっている。

久一「…健二くんが灰になっちゃった」

   サッと風に舞う健二だったもの。
   崩れ落ちる久一。

久一「…何でだよ。何で僕と健二くんが復讐とか自殺とか考えなきゃいけないんだよ…。 僕達が何かしたか? 僕達は被害者だぞ!」

   地面に倒れ込む久一。

久一「妄想も楽じゃないな…」

   大いびきをかいて眠る久一と健二の所へ、飛び込んで来る美奈子。
   美奈子、二人の腹を思いっきり蹴る。
   苦しみ、嗚咽を漏らし、地面をのたうち回って薬を吐く久一と健二。

※エピローグ
   対面する久一と美奈子。

美奈子「殺し屋さんは値上げに反対してたの」
久一「はああ?」
美奈子「ワンプレイ50円でってオーナーに頭を下げてた。子どもでも遊べるようにね」
久一「……」
美奈子「変人だけど、そういう大人もいる」
久一「…だからって現実の方が良いとは思いませんよ」
美奈子「でも妄想も上手くいかない?」
久一「……」
美奈子「久一くんは将来の夢とかないの?」
久一「そんなキラキラしたもの、僕が持ってるわけないじゃないですか」
美奈子「夢じゃなかったら何かやりたい事とか。もっと俗で下世話な事だっていい」
久一「俗で下世話…?(ハッとする)」
美奈子「そうおっぱいね」
久一「エスパー…」
美奈子「おっぱいとかキスとかセッ…」
久一「それ以外にもありますよ! 冒険とか! 銃と刀で世界を救うんだ! でも…そんな事…出来るわけない」

   目を丸くして久一を見る美奈子。

美奈子「何言ってるの? それならもうやったじゃない」
久一「え?」
美奈子「健二くんを助けたじゃない」
久一「……」
美奈子「あなたの妄想のおかげで彼の世界は救われた。私に助けを求めることが出来た。 ありがとう久一くん。…後は任せて」

   ぐっ拳を握って俯く久一。
   美奈子、久一に背中を向けて、

美奈子「おっぱいは最強だけど劇薬だから今は…我慢」

   一瞬激しい絶望の表情を浮かべる久一。

久一「(すまし顔で)別に」
美奈子「今しか出来ない事、やんな」

   出て行く美奈子。
   一人舞台の上でじっと考える久一。
   久一、徐にスマホで電話をかける。

久一「もしもし健二くん? ゲームしない?」

   ゲームセンターに飛び込んでくる健二。

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