恋する宝石 恋愛

嵐の夜、洞窟に迷い込んだ男。そこに転がるルビーの原石は、実は女性の魂が宿る存在だった。声も出せず、姿も見せられない彼女は、必死に光を反射させて彼の目を引く。男の温もりに触れた瞬間、彼女の中に、遠い記憶がかすかに疼き出す――。
飴屋 22 0 0 08/04
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第一稿

恋する宝石

脚本


S1 洞窟内(山の麓) 昼

薄暗い洞窟。入り口の外には黒い雲が渦巻き、雨が激しく地面を叩いている。
洞窟の奥、岩肌の隙間に、握りこぶし大の ...続きを読む
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恋する宝石

脚本


S1 洞窟内(山の麓) 昼

薄暗い洞窟。入り口の外には黒い雲が渦巻き、雨が激しく地面を叩いている。
洞窟の奥、岩肌の隙間に、握りこぶし大のルビーの原石が転がっている。
原石の表面が、外の稲光にわずかに赤く反射する。

アンナ(心の声・NA)
(静かに)
また、雨だ。もう何年、ここで雨を見てるんだろう。


S2 洞窟入り口 昼(嵐)

激しい雨の中、登山用のジャケットを着た男・タクミ(30代)が、傘も持たずに息を切らして駆け込んでくる。
ずぶ濡れのまま、洞窟の壁に手をつき、荒い息を整える。

タクミ
(独り言)
……まいった。まさかこんな所に迷い込むとは。


S3 洞窟内 昼(嵐)

タクミ、洞窟の奥へ数歩進み、雨をしのげる場所を探す。
ふと立ち止まり、濡れた髪をかき上げる。その仕草に、健やかで爽やかな印象がにじむ。

アンナ(NA)
(見つめながら、少し息をのむように)
……素敵な人。

タクミ、荷物を下ろし、腕まくりをする。引き締まった横顔に、アンナの視線がじっと注がれる。

アンナ(NA)
(つぶやくように)
こんな所に、こんな人が来るなんて。
(間)
ずっと見ていたい。
(ふと)
なんだか、少し懐かしい。

タクミ、洞窟の奥を見回すが、原石には気づかない。

アンナ(NA)
(少しもどかしそうに)
お願い、気づいて。ここにいるの。
(一瞬、胸の奥がざわつく)
……あれ、なんでだろう。ちょっと懐かしい。


S4 洞窟内・原石付近 昼(嵐)

わずかに差し込む灰色の外光。原石が、かすかに小刻みに動く(実際には誰も動かしていないが、カメラは原石の微振動を捉える)。

アンナ(NA)
(懸命に)
振り向いて。こっちを見て。

一瞬、外光を受けて原石が鋭く光を弾く。

タクミ、視線がその光にひかれ、顔を上げる。

タクミ
(つぶやく)
……光った?

タクミ、光の元へ近づき、岩の隙間に手を伸ばす。原石を取り出し、目の前にかざす。
雲間から一瞬差し込んだ光に、原石が深い赤色に輝く。

タクミ
(見入って)
きれいだ……ルビーの原石か。
(少し笑って)
嵐が収まったら、持って帰ろう。

タクミ、原石をそっとポケットへしまう。

アンナ(NA)
(嬉しそうに、弾んだ声で)
見つけてくれた。触れてくれた。
(間)
このままずっと、そばにいたい。


S5 洞窟内 昼(嵐)

タクミ、再びポケットから原石を取り出し、手のひらで包む。体温が原石に伝わる。

アンナ(NA)
(うっとりと)
あたたかい……。
(間)
この手、好き。
(ふと、一瞬だけ遠くを見るように)
……不思議。この温もり、知ってる気がする。

タクミ、原石を光にかざしながら、ふっと微笑む。その表情に、アンナの心がさらに揺れる。

アンナ(NA)
(少し焦れったそうに)
声も聞かせて。もっと、あなたを知りたいな。


S6 洞窟内 夜

雨は小降りになっている。タクミ、簡易タープを張り、ランタンを灯している。
岩の上に原石を置き、缶詰を開けて食事を始める。

原石はタクミのすぐ横に置かれている。ランタンの灯りが、タープの内側に大きな影を作る。

アンナ(NA)
(隣にいられる幸せを噛みしめるように)
こんなに近くにいられるなんて。
(ランタンの灯りを見つめ、一瞬だけ懐かしそうに)
……この灯り、なんでか胸が締めつけられる。


S7 洞窟内・タープの中 夜

ランタンの揺れとともに、タクミの影が、幼い男の子の輪郭に重なって見える。

アンナ(NA)
(ふと引き寄せられるように)
……その影。

アンナ(NA)
(思い出しながら、静かに)
そうだ。私、あの子と丘まで歩いた。


S8 回想 丘(過去・夕方)

在りし日の光景。幼い少女アンナと、幼い少年(タクミの幼少期)が、洞窟の上にある丘を並んで駆け上がっていく。
笑いながら追いかけっこをしている。
少年が転んだ拍子に、少女が手を差し伸べる。二人、笑い合う。

アンナ(NA)
毎日、一緒だった。
(少し照れたように)
私、あの子のことが好きだった。


S9 回想 丘の切れ目(過去・夕方)

少女、丘の端で足を滑らせる。少年が驚いて手を伸ばすが届かない。
少女、そのまま穴へ落ちていく。

アンナ(NA)
(静かに)
足が滑って。
(間)
気がついたら、洞窟の中に落ちてた。


S10 回想 洞窟内(過去)

暗闇の中、少女が倒れている。頭のそばに、赤い原石。
少女の意識が遠のいていく。

アンナ(NA)
(ゆっくりと)
運が悪かった。頭を、この石にぶつけて。
(間)
それきり、目が覚めなかった。
(間)
私はきっと、あの日からずっと、この石にいる。


S11 洞窟内・タープの中 夜(現在に戻る)

タクミ、缶詰を置き、原石を手に取ってじっと見つめている。
やがて、絞り出すようにつぶやく。

タクミ
(小さく)
アンナ。
(間)
元気にしてるかな。
(目を伏せて)
……僕のせいだ。ごめんな。ずっと、謝りたかった。

アンナ(NA)
(驚いたように)
覚えていてくれたの。


S12 洞窟内 夜

タクミ、原石を胸の上に置いたまま、横になり目を閉じる。
ランタンの灯りが消えかかり、あたりが静かになる。


S13 夢の中(幻想的な空間)

漆黒の空間に、赤く輝くしなやかな女性のシルエットが浮かび上がる。輪郭だけが揺らめき、顔ははっきりと見えない。

タクミ(夢の中の視点)
(戸惑うように、その姿を見つめる)

女性の声(アンナ)
(優しく)
いいの。
(間)
大好きなあなたと、もう一度会えただけで嬉しい。
(微笑むように)
また、生きてあなたと笑いたいな。

シルエット、ゆっくりと光の粒になって消えていく。


S14 洞窟内 朝

タクミ、目を覚ます。手の中に、しっかりと原石を握りしめている。
特に何かを考える様子もなく、ただ自然な仕草で、親指で原石の表面をそっと撫でる。

洞窟の入り口の方を見る。


S15 洞窟入り口 朝

嵐は去り、雲間から虹がかかっている。青空が広がっている。
タクミ、外の光景を眺め、深く息をつく。

タクミ
(つぶやく)
行こうか。

原石をそっとポケットにしまい、荷物を担いで洞窟の外へ歩き出す。
その背中を、朝の光が包む。


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