牛丼並盛つゆだくだくで コメディ

ブラック企業で働く橋口徹(38)は、唯一心を許していた部下、内藤恭平(25)が突然退職したと人伝いで知る。仕事に追われる日々の中、いつも一緒に通っていた牛丼屋【つき家】。そんなある夜、【つき家】のライバル店、【星野屋】で内藤と偶然再会してしまう。突然の別れの裏にある、内藤の本音とはーー
松岡奈々 19 0 0 10/11
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第一稿

○人物
橋口 徹 (38)会社員
内藤 恭平(25)橋口の部下

山田 幸子(62)事務員
松下
喫茶店店主
牛丼屋店員

双葉株式会社社員たち
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○人物
橋口 徹 (38)会社員
内藤 恭平(25)橋口の部下

山田 幸子(62)事務員
松下
喫茶店店主
牛丼屋店員

双葉株式会社社員たち
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○双葉株式会社・外(朝)
外階段をゆっくり登る橋口徹(38)。
橋口「うあああ……」
橋口の目の下にはくっきりと隈がある。
橋口「やめてくれよ、太陽さん、これ以上俺
を苦しめるなよ」

〇同・中(朝)
橋口はデスクでエナジードリンクとブラックコーヒーを混ぜている。
その目は死んでいる。
山井幸子(62)がやってくる。
幸子「またそんなもの飲んでんの? 死ぬ
よ」
橋口「大丈夫です。飲んでも飲まなくても、
どのみち働きすぎで、直に死ぬんで」
幸子「香典袋準備しなきゃね」
橋口「はははは」
幸子「あ、そうそう、これ今日中に訂正しと
いてよ。じゃなきゃ、落とせないよ~」
幸子が伝票の山を橋口に渡す。
橋口「……マジすか。僕この後すぐ松下さん
とこの行かなきゃなんですよ。代わりにやっといてもらえませんか」
幸子「無理よ。そんなのまでやってたら、私
が過労死しちゃう」
橋口「いつもゴリゴリの定時退社……」
幸子「なに? なんか言った?」
橋口「いいえ」
幸子「じゃあよろしく」
橋口「内藤君にでも頼むか」
橋口が窓際のデスクを見る。
橋口「あれ、内藤君まだ来てないのか」
幸子「え? 橋口くん知らないの?」
橋口「なにが」
幸子「内藤君やめたよ」
橋口「は?」
橋口のドリンクを混ぜる手が止まる。
幸子「今朝、メールで辞表届いたの。今日付
けで辞めますって」
橋口「山井さん何冗談言って」
幸子「マジよ」
橋口「え、は? 僕、昨日の夜も内藤君と一
緒に牛丼食いましたよ? でもそんなこと一言も」
幸子「最近の若い子は全部が唐突なの。思い
立ったらすぐ行動。ほら、うちらも見習わなきゃね」
空いた口が塞がらない橋口。
幸子「あれ絶対チャットGPTに書かせたわ
ね。橋口君も見る?」
俯く橋口

〇ビル街
俯きながら歩く橋口。

〇松下製作所・玄関
ドアの外に立ち、松下にお辞儀をして
いる橋口。
松下、険しい顔。
橋口「申し訳ありませんでした。どうか、ま
たよろしくお願いいたします」
ドアを閉める松下。
橋口はお辞儀したまま、表情は見えない。

〇喫茶店
時計は16時を指す。
店内は客がまばらにいる。
コーヒー豆を挽く店主。
中に入って来る橋口。
店主は橋口を一瞥する。
橋口「ナポリタン、1つ」
店主「はいよ」
店主が厨房へ行こうとし、止まる。
店主「1つ?」
橋口「はい。今日から1つで良いです」
×  ×  ×
出来立てのナポリタン。
橋口は眼鏡を外し、手を合わせる。
橋口「いただきます」
ナポリタンを箸で食べる橋口。
店主「なに、辞めたの? あの子」
橋口「はい。一身上の都合で」
店主「あら、冗談のつもりだったんだけど」
橋口、ナポリタンを貪り食う。
店主「昨日普通に来てたじゃん」
橋口「若者は唐突に、らしいです」
店主「あんたのとこ、誰も続かないね。さす
が有名ブラック企業」
橋口「……内藤君だけは他の子とは違うと思
ったんですけどね」
少し笑う橋口。
店主は冷蔵庫からケーキを取り出す。
店主「ほら、元気出しなよ」
橋口の目の前にケーキを置く。
橋口「ありがとうございます……でも俺、甘
いもの嫌いで」
店主が眉をひそめる。
橋口「食べれません。なんで結構です」
ケーキを店主の元へ、押し出す橋口。
店主「……あの子が辞めた理由って」
ケチャップが口についている橋口。
店主と橋口、見つめ合う。
店主「いや、なんでもない」

〇双葉株式会社(夕)
時計は17時半を指す。
デスクでパソコン作業をする橋口。
幸子がタイムカードを押す。
幸子「お疲れ様~」
幸子が部屋から出て行く。
橋口「お疲れした……チッ」
橋口はパソコン作業に戻る。
×  ×  ×
時計は19時を指す。
デスクでパソコン作業をする橋口、目は充血している。
×  ×  ×
時計は22時を指す。
デスクでパソコン作業をする橋口。
橋口の貧乏ゆすりでデスクの書類が揺れている。
×  ×  ×
時計は深夜2時を指す。
デスクでパソコン作業をする橋口。
橋口のお腹が鳴る。
橋口「あぁ! クソ! お腹空いた!」
橋口は立ち上がり、部屋を出て行く。

〇道(夜)
歩く橋口。
牛丼つき屋に入ろうとするが、立ち止まり、
橋口「……内藤君」
×  ×  ×
フラッシュ。
カウンターの席で、笑いながら牛丼を食べる橋口と内藤の姿。
×  ×  ×
首を振り、
橋口「今日はここじゃないな……」
橋口は歩き出す。

〇牛丼星野屋・前(夜)
看板を見上げる橋口。
橋口「仕方ない……ここで我慢するか」
中に入る橋口。

〇同・中(夜)
中に入って来る橋口。
店内はコの字のカウンター。
外国人の店員が厨房から出てくる。
店員「いらっしゃいませ。お好きなお席どう
ぞ」
橋口、カウンターに座る。
前に座る金髪の男と目が合う。
橋口と男「え」
橋口「……な、内藤君?」
金髪の男、内藤恭平(25)。
店員が橋口の席に水を置きに来る。
橋口の視界が遮られる。
店員「ご注文は?」
橋口「あ、すみません、やっぱり出ます」
店員「へ?」
橋口、店を出て行こうとする。
内藤「……待ってください。橋口さん」
橋口が内藤を見る。
内藤「お兄さんすみません。この人に牛丼並
盛つゆだくだくで」
店員「あ、はい」
厨房へ戻る店員。
橋口、もとの席に戻る。
店内のBGMが鳴り響く。
橋口「……髪、良いじゃん。イメチェン?」
俯いている内藤。
橋口「今日染めたの? 出来立てほやほや金
髪ってか」
無理に笑う橋口。
内藤「橋口さん。なんでこの店にいるんです
か」
橋口「飯食いに来たんだよ」
内藤「いつもはつき屋じゃないですか」
橋口「それは、その、あれだよ。俺も気分を
チェンジ的な? たまには別の店も行ってみよう~的な? そういう内藤君も星野屋来てんじゃん、珍しいな」
内藤「僕、橋口さんにずっと言ってなかった
ことがあって」
橋口「お、おう」
内藤「実は星野屋派なんです」
橋口「え?」
内藤「牛丼は星野屋のが絶対上手いですよ!
では、さようなら!」
内藤、財布からお札を出してテーブルに置き、店を出て行く。
店員が牛丼を橋口の元へ運んでくる。
橋口の眼鏡が牛丼の湯気で曇る。
店の外で躓く内藤が見える。
橋口は眼鏡を外し、
橋口「内藤君……」

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